Le Foch(ル・フォッシュ)
今回紹介するレストランは、フランス校から北へ約460kmに位置するランスという街にあるレストラン『Le Foch』(ル・フォッシュ)です。(以下の文章からレストラン名をフォッシュと記載。)
ランスは歴史に彩られ、フランスの遺産において重要な役割を果たしていることで有名です。かつてフランス歴代国王の戴冠式が行われたユネスコの世界遺産『ノートルダム大聖堂』が所在し、数多くのシャンパンメゾンが拠点を置く街であり、由緒ある都市の地下には総延長120kmに及ぶワイン貯蔵庫やカーヴが縦横に張り巡らされているなど、シャンパン醸造の一大中心地でもあります。
今回訪れたフォッシュは、ランス駅から徒歩5分ほどにある店名と同じフォッシュ通り(Boulevard Foch)にあり、ランスの中心地に位置しています。
店名のフォッシュは、第1次世界大戦時のフランス軍の将軍、フェルディナン・フォッシュ(Ferdinand Foch)に由来するそうです。
シェフを務められているのが、Jacky LOUAZE(ジャッキー・ルアゼ)氏です。シェフは15歳から料理人の道を歩み始め、パリの『La Tour d'Argent』(ラ・トゥール・ダルジャン)や『Pétrus』(ペトリュス)などの有名店で修業して腕を磨かれました。また、奥様のCorinne LOUAZE(コリンヌ・ルアゼ)氏は料理学校で学んだ後に、パリのペトリュスを含むフランスの一流レストランを回り、そこでシェフと出会ったそうです。その後、1997年の4月にフォッシュをオープンし、2003年にはミシュランガイド1ツ星を獲得し、2023年までの20年間に渡り星を維持し続けていました。残念ながら現在は星はついていませんが、今なお多くの常連客や観光客で賑わう老舗のレストランです。
メニューはコース料理が46€、70€、88€、130€と4種類あり、今回は88€のコースを選びました。
ランスに来たということで、まずは食前酒としてシャンパーニュをいただきました。
『GEORGES VESSELLE』
シャンパーニュ地方最高のグラン・クリュのひとつであるヴェッセル家で作られたものです。セパージュはピノ・ノワールが90%、シャルドネが10%の割合でブレンドされており、黄金色できめ細かい泡が特徴で、繊細でフルーティな香りがあり、口に含むとフレッシュな味わいが広がります。
最初にアミューズを4種類いただきました。
左から
①ビーツのガスパチョ。程よいお酢の酸味と、ビーツの味わいが絶妙に調和した一品でした。
②アボカドと山葵のタルトレット。山葵の効いた滑らかなアボカドクリームの中に、マリネされた鯖が忍ばせてあり、どことなく和のテイストを感じさせてくれます。
③クリームチーズと生ハムのルロー。濃厚なクリームチーズを生ハムで巻き、生姜の風味がよく効いていてさっぱりとした味わいです。
④ジャンボンムースのクルスティヤン。ジャンボン・ド・ランスと呼ばれるこの地域の名物のハムをムースに仕立て、カリカリに焼いたバゲットで挟んでいます。
アミューズなので少量ではありますが、それぞれの完成度が高く、異なる味わいを楽しむことができ、次に続く前菜やメイン料理への期待感を高めてくれます。
続いてパンとバターです。
パンは2種類あり、トラディショナルなミニバゲットと、オリーブを練りこんだパンで、どちらも自家製のものです。バターは無塩のものと海藻を練りこんだ有塩のもの2種類をいただきました。
1品目はフォワ・グラとシャンピニョンを組み合わせた前菜です。
中にはソース・ヴィネグレットで調味された生のシャンピニョンのスライスと、ポワレしたフォワ・グラ、トーストしたパンをベースに作られたアイスクリームが詰められていて、その上にサクサクとした食感のテュイルとフォワ・グラのテリーヌを雪のようにふわふわな食感に削ったものを乗せています。ソース・ヴィネグレットの酸味とフォワ・グラの濃厚さ、アイスクリームの甘さがシャンピニョンの持つ素材の味とうまくバランスが取れていて、そこに食感のテュイルとトーストしたパンの香ばしい香りが加わり、料理としての完成度がとても高いと感じさせてくれる一皿です。
続いてヒメジという魚を使ったメイン料理です。
ヒメジをミ・キュイ(フランス語で『半分火を通した』の意)に火通ししたものをタルタル仕立てにして、その上に皮目を香ばしくポワレしたものが乗せてあります。さらにその上にフォカッチャというイタリアで食べられる平焼きパンのクルトンに、ブラックオリーブ、グリーンオリーブに見立てたオリーブのピュレを盛りつけています。つけ合わせはレモンの酸味を効かせたズッキーニとフヌイユのエチュベで、ソースは甲殻類のうま味を凝縮した後に、軽さを出すためにたっぷりと空気を含ませたソース・アメリケーヌです。構成はシンプルですが、ヒメジを異なる2つの味わいで仕上げたり、淡白な味わいのヒメジが負けないようにソースを軽くしたりと、シェフの細かい気遣いを垣間見ることが出来ました。
メイン料理に合わせて赤ワインをいただきました。
『CHATEAU HAUT-BEAUSÉJOUR』
ボルドーのサン・テステフで作られている赤ワインです。深みのある果実味に、滑らかなタンニン、フレッシュ感のある酸味が感じられる味わいで、今日いただいたヒメジとも相性がよく、とても美味しかったです。。
メイン料理の後は、チーズをいただきました。
様々なチーズがワゴンで運ばれてくるのを見るとどれにするか迷ってしまいますが、今回はタイプの違うチーズの中からそれぞれのおすすめを聞いていただくことにしました。
写真右上から時計回りに
①シャウルス⇒シャンパーニュ地方を代表する白カビタイプのチーズです。濃厚な味わいで、様々な料理にマッチする万能なチーズです。
②ラギオール⇒オーヴェルニュ地方で作られるセミハードタイプのチーズです。生産量が少なく、フランスでも入手しにくいチーズです。
③サント・モール・ド・トゥ―レーヌ⇒ロワール地方で作られるシェーヴルと呼ばれる山羊のミルクを使ったチーズです。中に藁を通して成形し、水切り後に木炭の粉の混ぜたものをまぶして熟成させます。
④フルム・ダンベール⇒オーヴェルニュ地方で作られる円柱型の青カビタイプのチーズです。青カビタイプ特有のコクや塩味が特徴ですが、クリーミーな味わいでナッツのようなほのかな甘みも感じられます。
⑤マンステール⇒アルザス地方を代表するウォッシュタイプのチーズです。ウォッシュタイプ特有の香りは強いですが、味わいはクリーミーでマイルドです。
続いてデセールをいただきました。
デセールは季節のリンゴを使用しています。
構成が下からシナモン風味のサブレ生地、リンゴのコンポート、リンゴのソルベ、リンゴのムース、せん切りにしたフレッシュのリンゴと、まさにリンゴ尽くしと言える一品です。どこを食べてもリンゴですが、それぞれのパーツの味のバランスが取れていて、飽きることなく食べ進めることができます。
食後はコーヒーとお茶菓子です。
写真右上から時計回りに...
①ガトー・バスク⇒フランスのバスク地方の伝統菓子で、中にはバニラクリームが詰められています。
②クレムー・ショコラ⇒とても滑らかな舌触りのチョコレートムースです。甘さもちょうど良く、軽い味わいなので何個でも食べられそうです。
③洋梨とカシスのガスパチョ⇒程よい酸味があり、お茶菓子の中で上手く5つのバランスを保ってくれる役割を果たしています。
④トリュフ⇒きのこの王様である、トリュフに見立てたチョコレート菓子です。周りにはゴマがまぶしてありますが、チョコレートとゴマの組み合わせは今まであまりいただいたことが無かったので新しい発見でした。
⑤ピーナッツのタルトレット⇒中にはバニラのムースが隠れており、キャラメリゼされたピーナッツの食感が心地よいお菓子です。
今回いただいたコース料理を通して、料理の中にお客様を思うシェフの心遣いを体験することができました。また、私たちが訪れた日も多くのお客様が来店されており、どのお客様も本当に食事を心から楽しんでいるなと感じられるレストランの姿を見ることができて、料理にはやはり人の心を動かす力があるんだなと改めて思いました。ランスを訪れる際は、シャンパーニュを楽しむだけでなく、こんな楽しいひと時を過ごせるレストランに寄ってみるのも旅の思い出になるのではないでしょうか?
『Le Foch』
37 Boulevard Foch, 51100 Reims
Tel : +33 (0)3 26 47 48 22
HP : https://www.lefoch.com/