私は種々(くさぐさ)の無用のことを忌避するものではないが、もちろん必要なものならずっと好ましく思う。見事な出来映えの本書は必要なものであり、参考書や辞書、地図帳と並んでその場を得るものである。 料理人の書いた本ではなく、オーナーであるからこそ著せた書である。金に糸目をつけないような本ではなく、まさに料理法を集めたものとなっている。 ニニョン氏は背が高く、たくましい身体つきで、大きくてごつい手をしており、風貌はいかめしく、まるで毎年の猪狩りの合間にパリで過ごしている田舎住いの貴族を思わせる。 40歳になって、白衣を脱ぎ燕尾服に着替えた。つまり、40歳から60歳まで黒服を着て過ごしたのである。テーブルの間を回り、舌平目の料理はどれにするか相談にのり、山ウズラの季節になったことを教え、デザートを奨める。全体を見守って、あちらに塩味を効かせ、こちらに甘味をつけながら、この店のテーブルにはパリの一流人士をお迎えしているのですと彼がいってもおかしくはない。 招待する側が自分のテーブルを押さえ、客に出したい料理の注文をするために夕刻を過ごすような悠揚せまらぬ時代であった。 -サッシャ・ギトリ- |