永山
おいしいものというのは素材がよくなければだめで、いい素材を生かすためには薄味の方がいいわけです。日本料理というのは、江戸料理と京料理が一緒になってはじめて完成されます。素材の種類は関東の方が多いと思います。江戸時代に『魚鑑(うおかがみ)』という本があって、日本橋にどういう魚が入ってきたかを書いてあるのですが、それを見ると、ほとんど全国のものが入ってきています。こういう豊富な素材をベースにして完成したのが江戸料理です。しかし、遠くから運んで来れば、酸化している可能性がありますから、その臭いを消すために濃口醤油が必要でした。また、江戸は職人の町です。肉体仕事ですから汗をかく。したがって、塩分が必要となるんです。また、体を重くすると仕事ができないので、一度に多くは食べない。お客のこういう特徴に合わせて江戸料理ができていく。そして、関西の料理技術と関東の素材料理がドッキングして、現在の日本料理ができ上がったんだと思います。
杉浦
関西の料理技術というのは、公家料理のようにいろいろ手をかけたものというか、包丁の冴えや飾り付けや、そういうものは関西の方が進んでいたということですね。関東は生地そのもの(自然のまま)というような料理ですね。
永山
そして、日本の料理の一番大切なことは「素材の持ち味を最優先する」。逆にいえば、「素材の持っている味を100%出すことが料理人の腕前だ」ということです。これは、江戸時代以来の料理人のプライドだと思います。つまり、日本というのはそのくらい季節ごとの食材が豊富だったのです。日本には明確な四季があり、3ヶ月ごとに季節は変わります。そうすると海の温度・海流が変わり、寄ってくる魚が変わるのです。対するつけ合わせの畑のもの・山のものも変わっていきます。江戸の人達がすごいのは、料理を盛り付ける器の目利きでもあったということです。頑固な料理人だと、ちゃんと食べてくれないとお客を追い返してしまうくらいの自信があったようです。歴史としてこういうことがあったということを知っておいてほしいと思います。