味付けについて
杉浦
今、日本全国関西料理のようなところがあります。東北にいっても京料理というのはあります。しかし、武士が食べていた会席料理のような江戸料理はいまはない。
永山
京料理に戻ったんだと思います。なぜ戻ったと思いますか?
杉浦
戻ったんですか?全国的に関東料理がおいやられて関西料理が征服してきたように思っていましたが。
永山
時代の変化で、関東的な味付けがよくないと分かってきたんだと思うのです。それで、京料理にシフトしてきた。
杉浦
もともと関東の人は京料理を食べることはあったのですよね。当然。京料理にかえったということではなくて、完全に関西料理を選んでしまったのか選ばざるを得なかったのか。
永山
上方の味付けは薄味ということがいえると思います。なぜそこに戻ったか、戻ったというより、そっちの方が優勢になってきたと思いますか?
杉浦
素材の味を生かした方を好んだということですか?
永山
それは結果でしょう。日本人全体が公家さんのようになってきているからではないでしょうか。公家さんというのは自分であまり体を動かさない。誰かが作ったものを食べるだけ。作る方もそういう傾向を知っているから、それに合わせて作る。噛まなくてすむもの、やわらかいものが多い。すると、あごが退化する。つまり、日本人全体が体を使って汗をかかないから、塩味に対応できなくなってきたのです。それで塩分を控えるようになる。そうすると素材のうまさが分かってくるはずですね。今、そういう時期だと思います。
塩分は厚生省のガイドラインによると1日10g以下にしようといっていますが、13gくらいは取っています。公家さんなどは6gくらいではなかったかといわれています。体を動かさない人はこれくらいが健康にいいのです。塩分が高いと血圧が高くなる。心臓に負担がかかるので健康によくない。こういうことから、京料理的な薄味文化を嗜好するようになったのでしょう。ハンバーガーにしてもコンビニエンスストアーの弁当にしてもやわらかいものばかりです。
以前、神奈川歯科大学の先生と、日本人がどのくらい噛まなくなったかを実験したことがあります。今の日本人は口の中に入れたものを10回前後しか噛みません。徳川家康の時代の料理を再現して食べてもらうと、30回くらい噛んでいました。よく噛むということは、頭の老化を防ぐのにも役立ちます。