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江戸料理の特徴 その一……魚について

杉浦
関西というのは瀬戸内があって、白身の魚を重宝しますが、関東は魚というと鮪ですよね。江戸時代はどうだったのでしょう。

永山
当時の漁業では、遠洋漁業はしなかったでしょう。鮪などはあまり多くは捕れなかったんです。漁獲量が少ないですから、あまりなじみがなかったんだと思うんです。しかし、鰹はよく食べていました。

杉浦
初鰹が好まれたというのは鰹自体の身があっさりしているからですか?

永山
あっさりというのではなく、松の葉っぱに似た爽快な味が江戸好みなんですね。それが潔い味とされて、江戸っ子にもてはやされたのです。
日本料理の特徴というのは、脂っこくなくてさっぱりした味、爽快な味が趣向のトップです。その最たるものが初鰹ですね。旧暦の3月下旬から4月上旬にかけて揚がったようです。最初は鎌倉あたりから江戸に持ってきます。3尾とか5尾とかいう量でしょう。高いときは1尾が3両したといいます。当時1両で米1石(150kg)買えたようですから、仮に現在の米10kgが約5000円とすると、3両は20万円以上ですね。1本それくらいでも買っていたのです。
日本人は初物を非常に大事にする民族なのです。季節感を重視するからです。例えば残暑が厳しいころ、初物の秋刀魚を食べる。すると、秋がもうすぐやってくるのだと分かり、暑さも我慢できるというわけです。そういう点から考えると、初鰹が大事にされた理由も分かります。

杉浦
江戸料理の特徴をどのように思われますか?

永山
魚が中心だということでしょうね。

杉浦
それは江戸湾で捕れたものですか?

永山
そうです。流通が限られていますから、生魚をどこからか持ってくるわけにはいかない。遠くから運ばれるものといえば塩漬けや干したりしたものです。しかし、巨大な生け簀のような江戸湾がありました。年によっては、湾内まで鮪や鰹が入ってきたこともあるようです。魚にとっては住みやすい天国のようなところだったのでしょう。会席料理は中心が刺身ですから、江戸前の魚を使ったものになります。基本的にはそんなに大きな魚は捕れないので、白身魚が中心でした。

杉浦
白身魚系統ですか?ちょっと以外な気がしますけど。

永山
白身魚です。海老もたくさん捕れましたからよく使っていますね。姿が立派だということもあるでしょうが。
江戸っ子は鰻・天ぷらが大好きです。あぶらが好きなはずなのに、魚のあぶらは嫌うのです。流通が悪いと魚のあぶらは酸化して臭みが出るでしょう。だからあぶらを嫌ったのでしょう。白身の魚のあぶらは悪くなるのが遅いですからね。

杉浦
そうですね。

永山
日本橋あたりに生け簀がたくさんあって、鯛・平目・海老などの養殖もしていました。大きな料理屋さんから大量注文があると、そこから生きたまま届けるのです。

杉浦
江戸時代にですか?

永山
そうですよ。

杉浦
生け簀で生かしておくということを、すでに江戸時代にやっていたんですか?

永山
そうです。そして、生け簀では大きな魚は無理ですから、鮪や鰹はありません。鯛が一番多かったようですね。昔は冷蔵庫がないから捕ってきてすぐ料理して食べないと酸化してしまいます。臭くなってしまう。そういう中で生け簀が発達したのでしょう。


 

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江戸料理の本質に迫る




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