外食産業は、いまや日本の基幹産業ともいえるほど拡大しています。そんな中、調理師にはたくさんの求人が寄せられています。「料理にかかわる仕事がしたい」と考えている人の中には、たくさんの就職先の中からどの道を選べばいいか、何が自分に合っているのか、進むべき進路に迷っている人もいるかもしれません。自分が進みたい道を具体的にイメージするために、この記事では調理師の主な就職先とその特徴、求人状況について解説します。
調理師が活躍できる場所は
レストランだけじゃない
ひと口に「調理師」といっても、活躍のフィールドはさまざまです。真っ先に浮かぶイメージはレストランや料亭ですが、それだけでなく、ホテルや介護施設、学校給食など、幅広い選択肢があります。
これらは、職場によって働き方や求められるスキルが異なります。より長く業界に身を置くためには、自分がなりたい調理師像に近いものを選ぶことがポイントです。
調理師の就職先と特徴
これまで14万5千人以上の卒業生を輩出してきた辻調グループではキャリアセンターを設け、学生たちの就職活動を支えています。キャリアセンター長を務める金内孔二先生に、調理師の活躍の場としてどんな就職先があるか、それぞれの職場の特徴を聞きました。
レストランや専門店など個人店で働く
辻調グループの卒業生のうち、レストランや専門店など個人店に就職する人は大半を占めます。個人店にはレストランや料亭、中華専門店などさまざまな種類があり、それぞれ規模や価格帯、提供される料理が異なります。
個人店では、お店によって働き方やキャリアの方向性なども違ってきます。
金内「個人店のいいところは、季節に合わせた食材を使ったり、お客様のニーズに合わせて一品一品にこだわりを持って作ったりできる点です。メニューやオーダーの内容、食材の使い方にも小回りがききますね。
最近では、生産者目線を大切に料理をつくりたいと考えている学生が増えています。生産者と直接対話して、どんな想いで食材を育てているか、扱っているかを聞き、交流を重ね、それを料理に活かすんです。
シェフによっては1年目から河岸や市場に連れて行って、競りであったり食材の購入であったりを経験させてくれることもあります。こういった考えを持つ学生にとっては、とても魅力的な環境といえるでしょう。
また、個人店はアルコールを扱っていることが多いので、そうした知識も身につきます」
個人店に就職を希望する学生は、将来自分の店を出したいという独立志向を持っていることが多いといえます。個人店は、一人あたりがこなす仕事の幅が広く、短期間でさまざまな調理技術を身につけることができると言えるでしょう。
また、料理の世界は、ひとつの店で経験を重ね、ステップアップを目的に新たな店に移る転職も一般的です。
金内「将来独立したいと考えているのであれば、複数のお店を経験することでいろんなシェフの考え方、料理の手法、店の構造や経営の仕方を学ぶことができます」
たとえば、菊地 美升さんがオーナーシェフをつとめる西麻布のフランス料理店『ル・ブルギニオン』は、「ミシュランガイド東京2021」で一つ星、「ゴ・エ・ミヨ2021」で3トックを獲得するなど、現在も高い評価を保っています。こちらのお店は、一流の料理人やサービス人を生み出してきた名店としても、よく知られています。
菊地美升さんインタビューはこちら
給食調理人(教育機関や老人福祉施設など)として働く
給食調理人は、小学校や保育園、幼稚園といった教育機関や老人福祉施設などで大勢の人たちに給食を提供します。
給食作りには、レストランやホテルと異なるさまざまな制約があります。
給食調理人は、栄養士が作ったメニューに沿って調理をします。その際、給食を食べる対象に合わせて栄養バランスやカロリー、食材のやわらかさや切る大きさなどを考慮し、さまざまな工夫を凝らします。
給食調理人を目指す学生には、老人福祉施設への就職を案内することもありますね。最近の高級老人ホームでは、食に魅力づけを行い、建物の最上階にレストランを設けて、クオリティの高い料理やお菓子を提供するところもたくさんあります。
給食や医療の一環としての病院給食は、いずれも社会的意義の大きい分野です。
ホテルで働く
辻調の卒業生の就職先として、レストランなどの個人店に次いで多いのがホテルです。
働く場所は、ホテル内のレストランや宴会部門となります。厨房スタッフの人数も多く、大きな組織の中で自分の力を発揮したい人に向いています。
キャリアを積み、ホテルの総料理長を務めることになれば、すごい人数の料理人チームを率いることになります。これも魅力の1つです。
ホテルでは、各セクションに分かれて調理をしていきます。長期目標を持って取り組むことで、5年後、10年後に大きくレベルアップできるのもホテルの特徴です。
金内「ホテルではセクションごとに分かれて仕事をするので、ひと通りの仕事ができるようになるまでには個人店と比べ長く時間がかかります。
そうした意味で、長期的な目標を持ったり、自分から能動的に学んでいく姿勢が求められます。ただ、徹底的に1つのことをやり続け、それを極めてから次のセクションへ異動していくので、10年経ったときには非常に高いレベルで仕事ができるようになっています」
ホテルは勤務時間が明確であることが多く、自分の時間を大事にしたいという人にも合っているといえるでしょう。
チェーン店で働く
全国に展開するレストランチェーンも就職先の1つです。
レストランチェーンでは、厨房で実際に調理する仕事はもちろん、新メニューを開発するメニュー開発部門で働く調理師もいます。
大手企業になると待遇面や福利厚生が充実していることが多く、企業に勤める中で調理師として自分の力を発揮したいという人には適しています。
独立・開業して働く
個人店のレストランや専門店で修行したり、ホテルでスキルを磨いたりした先には、独立して自分の店を持つという夢をお持ちの方も多いことでしょう。
独立開業することで、料理はもちろんお店の内装や空間、コンセプトにまでこだわって、自分のスタイルで料理を提供することができます。
一方で、自分の店を持つからには、食材の調達から店舗の経営コスト、人材を雇うのであれば人件費など、美味しい料理を出すだけでなく経営者としての手腕やスキルが求められます。
自分のお店を持つためには、調理師免許は必須ではありません。ただし、食品衛生責任者の資格を持つ人を最低1人、お店に置く必要があります。
食品衛生責任者の資格は、食品衛生学、食品衛生法、公衆衛生学、確認試験からなる
6時間の講習を受講することで取得できます。調理師免許を持つ人なら申請するだけで取得することができます。
調理師のキャリアパス
レストランやホテルで働く調理師のキャリアパスについて、辻調理師専門学校の高岡先生は次のように話します。
高岡「私たちが若かった頃は、修行期間は10年、30歳前後で独立してお店を持つことが一般的でした。それが今では、長くて5年ほどと大幅に短くなっています。なぜなら、独立開業を目指すのであれば、資金の準備以外は調理師学校で身につけたスキルだけで十分なのです。独立開業に対して自分で自信が持てるかどうかで、独立までの期間は短縮することができます。
ただ、独立することだけがキャリアのゴールではありません。最終的に自分が目指しているゴールはどこか、柔軟に考えてキャリアパスを描いてほしいですね」
企業から求められる調理師の人材像
さまざまな「食」の現場で必要とされる「調理師」。企業からはどういった調理師が求められているのでしょうか。辻調グループキャリアセンターの中嶋章裕先生はこう言います。
中嶋「企業が求めている調理師の人材像について企業採用担当者にインタビューしたところ、『挨拶や基本的なマナーがしっかり身についている人』という回答でした。もう1つ、『調理に関する知識があること』です。
専門学校に入らなくても、高校を卒業してすぐに料理人になることはできます。さらに、調理師免許を持っていなくても飲食業界への就職は可能です。経験年数を重ねることで調理の技術力を上げていくことはできるからです。
しかし、知識はなかなか身につきません。なぜこの切り方をするのか、なぜこの蒸し方・焼き方をするのか。専門学校で学べばそうした知識を身につけた状態で就職することができます。企業としても、調理の知識がある人材を求めています」
辻調グループに来ている
具体的な求人例
2019年の一般職業の平均有効求人倍率は1.55倍でした。一方で、辻調理専門学校の求人倍率は15.7倍と大幅に高くなっています。
情報引用元:厚生労働省
辻調グループでは、就職活動をする学生をキャリアセンターがサポート。辻調グループ対象の合同企業説明会には、下記のような優良企業が参加しています。
2019年度の参加企業実績
リーガロイヤルホテル、ミリアルリゾートホテルズ、京都𠮷兆、プチ・プランス、帝国ホテル、ドンク、T・YOKOGAWA、アニヴェルセル、うかい、シャノワール、かめいあんじゅ、シェラトン都ホテル大阪、阪急阪神ホテルズ、Plan・Do・See、トゥーストゥース、ハイアットリージェンシー大阪、ひらまつ、ホテルグランヴィア京都、CITABRIA、リゾートトラスト、美濃吉、菊の井、キルフェボン、五感、WDI JAPAN、星野リゾート、プリンスホテル、ル・クロ、ザ・リッツカールトン大阪、フォーシーズ(ジョエル・ロブション)、ホテルオークラ、エーデルワイス、資生堂パーラー ほか多数
業界に14万5千人以上の卒業生を送り出してきた実績のある辻調グループでは、業界にネットワークを持っていて、幅広い選択肢の中から自分が調理師として活躍できる場を探すことができます。さらに、就職後の転職相談など、卒業後のサポートにも力を入れています。飲食業界の多様化に伴って、調理師の就職先の選択肢は広がっています。さまざまな求人がある中、最初の活躍の場を選ぶには、キャリアステップを含めそれぞれの職場の違いを知ることが大切です。調理師としてどんなキャリアパスを歩みたいかを考え、自分にあった職場を選びましょう。