「将来、人間の仕事をロボットやAIが奪う」。こんな話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。近年では、調理師が働く食の現場でもデジタル化が進んできています。技術が進歩していく中で、今後調理師の働き方はどうなっていくのでしょうか。現在の調理師の需要や将来性について解説します。
調理師の需要
2019年度の一般職業の有効求人倍率は1.55倍。それに対し、辻調理専門学校への求人倍率は15.7倍と大幅に高くなっています。
「食」は、人が生きていくうえで欠かせない要素。さまざまな食の現場に携わる調理師という仕事は、今後も需要が尽きないものと思われます。
情報引用元:厚生労働省
調理師が活躍できる場所は多彩
調理師が活躍できる場は、レストランや料亭、ホテル など、一般的にイメージされるもののほかにもたくさんあります。
学校や保育園、老人ホームなどで給食を作る給食調理人、病院で入院患者のために病院食を作る病院調理人。料理を作って提供するだけでなく、CM用の料理を作ったり、食品関連の企業で食品開発に携わることもあります。
調理師の求人状況についてより詳細な情報は、こちらの記事で解説しています。
調理師という職業の将来性
今後調理の世界でAI化が進むことで、デジタル技術が人間の仕事を奪うのではないかといわれています。そうした中、調理師という職業に将来性はあるのでしょうか。
AIには置き換えられない調理師の仕事これからも調理師の仕事はなくならない
最近では、さまざまな現場でAIやロボット技術が取り入れられています。飲食業界でも、大手チェーンのレストランでは均一の味を出したり、スタッフ不足を補ったりするために、調理の過程にロボットを導入するなどデジタル化が進んでいます。
数年のうちに人の仕事が機械に奪われると言われていますが、未来には、調理師はどんな働き方をしているのでしょうか。辻調理師専門学校の岡本健二先生はこう言います。
岡本「大手チェーンのオペレーションを人から機械に置き換えるというような取り組みは、今後も進んでいくでしょう。しかし、調理師の仕事がなくなるわけではありません。
例えば、寿司や天ぷらをカウンター越しに出すスタイルの日本料理店では、店主とお客様という『人と人』との関係性は今後ますます大切にされていくのではないでしょうか。最近では西洋料理や中国料理の分野でも、こうしたスタイルのお店が増えてきています。
AIではお客様との関係性を構築することはできません。それは、料理人にしかできないことなのです」
食文化がある限り調理師の需要はなくならない
人は、食べることで命をつないでいます。ふだんは自宅で自炊をしている人も、時には友だちとご飯を食べに行ったり、ステキなレストランでお祝いをしたり、仕事で疲れた日にはテイクアウトやデリバリーサービスを利用したりするでしょう。
また、学校や保育園で出される給食や、入院患者が口にする病院食を調理する人は、これからも必要とされていきます。社会の高齢化が進むことで、老人福祉施設で提供される食事をつくる人も求められます。いずれもとても社会的意義の高い仕事であるといえます。
食文化が続く限り、調理ができる人の需要はなくならないでしょう。
日本料理に対する海外からのニーズは高い
訪日外国人の消費動向調査では、外国人が訪日前に期待していたことのトップには長年「日本食を食べること」がランクインしています。
情報引用元:国土交通省観光庁
G20大阪サミットの首脳夕食会で調理を担当した岡本先生は、日本料理に対する海外からのニーズは依然として高いといいます。
岡本「日本料理はユネスコ世界遺産に認定されるなど、世界でも認められた文化です。日本料理は今後さらに海外で求められる時代になるでしょう。
特に、外国の現地の食材を日本料理のルールに沿って調理するというところに需要がありそうです。今後、日本から海外進出する料理人もさらに増えていくのではないでしょうか」
社会課題に向き合う調理師たち
社会課題に向き合う調理師たちも増えています。
たとえば、フードロスの問題。環境省の調査では、日本では年間約2,500万トンもの食品廃棄物が排出されています。このうち、年間約600万トンは、まだ食べられるうちに廃棄されてしまうもの。こうしたフードロスの問題を含む環境問題について、料理を提供する側として有識者との会議に参加したり、環境問題を訴えるメニューを考案したりする人もいます。
情報引用元:環境省
また、日本では食料自給率の低下や農業従事者の高齢化が深刻化しています。そんな中、新しく就農し、自分で直売所を立ち上げたり、ネット通販で全国に販売したりする若者が増えています。こうした農家と直接契約をして地産地消に取り組むなど、地方創生を支える飲食店もあります。
農業と深く結びつくのが「ジビエ料理」です。ジビエ料理はもともとヨーロッパで発展してきた食文化で、野生鳥獣の食肉を意味します。ジビエ料理は農作物を荒らす鹿やイノシシといった害獣対策となるばかりか、森林保全、地域産業の活性化にもつながっています。
調理師の活躍のフィールドは
今後も広がっていく
岡本先生は、今後も調理師の活躍の場はより広がっていくだろうと考えています。
岡本「近年では、料理をプロデュースするような仕事が増えてきています。たとえば、テレビの監修やCMに使われる料理の作成など、フードコーディネーターのように料理を総合プロデュースするような仕事ですね。
そうした仕事をするには、ある程度の技術と考える力が必要です。お店に勤めるよりも高いスキルが求められるかもしれません。こうした活躍の場は、今後もっと広がっていくでしょう」
辻調理師専門学校の卒業生の中にも、自ら新しい活躍の場を切り拓いた人たちがいます。
たとえば、東京の老舗フランス料理店やビストロで修業を積んだのち、結婚を機に家政婦を始めたタサン志麻さん。“予約がとれない伝説の家政婦”としてメディアから注目され、出版したレシピ本が続々ベストセラーとなりました。志麻さんは現在も家政婦を続けながら、食品メーカーのレシピ開発や講師業などで活躍しています。
タサン志麻さん インタビューはこちらから。
プロの料理人の技を動画で学べる食材キットを宅配するサービスを立ち上げた、efoo株式会社代表取締役の山本篤さん。フランス料理店や和食レストランに勤めたあと、料理責任者として複数店舗の立ち上げや運営をしていましたが、起業を志してプログラミングスクールへ。レシピ動画がついたスタディ型食材キットの宅配サービスをリリースしました。
山本篤さん インタビューはこちらから。
岡本「辻調理師専門学校の卒業生は変化に強く、時代が求めるものを自ら考えて提供する力を身につけています。これは、学校での学びが大きいと考えています。料理をただコピーして再現するのではなく、学んだ理論のもとに料理を作ることができる。
だからこそ、自分のアタマと腕さえあれば、どんな状況が起きても形を変えて進んでいけるのだと思っています。調理師は『考える仕事』でもあると思います」
調理師の仕事は多様化しており、今後もなくなることはありません。一方で、多様化しているからこそ、将来どんな「食」の道に進めばいいのか迷っている人も多いのではないでしょうか。辻調理師専門学校に入学する学生のほとんどは、学校で調理の知識と技術を学びながら自分の将来を見つけていきます。食の世界で生き抜くたくましさを身につけながら、自分の将来を描いていきましょう。