食と料理に関する専門知識を備え、お客様においしい料理を提供する「調理師」。レストランや料亭、カフェ、学校給食、ブライダルなど、活躍の場は多彩です。料理を作ってお客様に提供する以外にも、テレビの監修をしたり、フードコーディネーターのようにCMの料理を作ったり、プロデューサーのような立場で料理に携わる仕事も増えてきています。そんな調理師という仕事には、どんな人が向いているのでしょうか。料理の経験、スキルのほかに、どのようなことが求められるのでしょうか。
調理師に向いている人の性格
辻調理師専門学校卒業生の就職状況を見ると、レストランや料理店など専門店で働いている人が大半を占めています。
こうした調理師の仕事に向いているのはどんな人なのでしょうか。さまざまな職場はあれど、料理をつくり、提供し、人が喜んでくれることに幸せを感じられることが原点といえるでしょう。
食の仕事は、人が喜んでくれる姿を実際に見ることができる数少ない職業です。「食べることが好き」「つくることが好き」「人が”おいしい”と喜んでくれることがうれしい」。こう考えることができれば、調理師に向いていると言えるでしょう。
これまで多くの卒業生を送り出してきた辻調理師専門学校の岡本健二先生、高岡和也先生、辻調グループ キャリアセンターの羽田幸先生に聞きました。
専門学校に入学して調理師の勉強をしていく中で、伸びていく人の特徴はどんなところにあるのでしょうか?
岡本「今まで携わってきた学生の中でも、好奇心旺盛で何にでも興味がある子は、とにかく手を広げ、何でも質問して全部吸収しようとします。その後、徐々に自分の進路選択の幅が狭まっていくとともに、より自分の希望する道を深く掘り下げる方向に変わっていきます。
このように、アンテナを広く立てている学生は、卒業してからも吸収力が早いですね。私たち教員が授業以外の余談で話したことも敏感にキャッチしていて、『あのとき先生が言っていたものを作ってみました』『野菜を育てるために自分で種を買って試して見ました』とすぐ行動に移しています。そういう学生は、卒業してからもいい方向に向かっている印象です」
ポジティブ思考も大切です。高岡先生は次のようなエピソードを挙げ、視座を高くもってポジティブに考えることで調理師としての道が拓けると話します。
高岡「辻調に勤めて5年半が経った頃、フランス校に勤務する機会を得ました。1年半フランスに滞在して、その間には現地の三ツ星レストランで研修するチャンスもありました。料理のコンクールで世界に行かせてもらったこともあります。プレッシャーも大きく、もちろんたくさん苦労もしましたが、そうした体験をさせてもらえたことはとてもラッキーだなと思っているんです。
学生にも大変なときこそ『自分は運がいい』とポジティブに考えられるようになってほしいですね。
そんなふうに、大きな物の見方ができる人、視座を上げてものごとを考えられる人が調理師に向いているのではないでしょうか」
性格的な適性のほかに、これから調理師として飲食業界で働くために必要な志とはどんなものなのでしょうか。羽田先生は、次のように話します。
羽田「なぜその企業(お店)がいいのか、飲食業界がいいのか、はっきりと自分の言葉で言える学生は『ああ、大丈夫だなあ』と安心できます。
最近は安定志向を持つ学生が増えていますが、中には挑戦心の大きい学生も一定数存在します。そうした学生の中には、「有名店に行きたい」という気持ちだけが先走ってしまう人もいますが、最初に就職する先として、本当にそこでなければいけないのか自問してみることを勧めています。
自分でしっかり考えて選択をした学生は、その先で厳しいこと、辛いことがあっても頑張って働き続けることができます。本人の中で『なぜ自分はこの道に進み、何を目指しているのか』が、スタート前にしっかりと心に刻まれているかどうかが、苦しいときの拠り所となります」
調理師になるために
今やるべきこと、できること
調理師になるには、料理が好きという気持ちや料理の経験のほかに、どんなスキルや能力を身につければよいのでしょうか。
基本的な挨拶やマナーを身につけておく
岡本先生は、包丁で食材を切ったり、材料を適切に保管したりといった技術面での知識やスキルは最低限と前置きしたうえで、それよりも大切なことに「挨拶」や「基本的なマナー」を挙げます。
岡本「この業界に限ったことではありませんが、基本的な挨拶や返事がしっかりできている子ほど、安心して送り出すことができます。この業界のある意味よいところで、就職するときには求める技術が水準に到達していなかったとしても、努力次第で伸ばしていける要素が多いんです。
それよりも、基本的なマナーであったり挨拶、人との接し方が大切ですね。入学した当初は挨拶ができなかったり、人前で話せなかったりする子も、授業の中で発言する場やディスカッションの機会を与えることで少しずつ自信がついていきます。卒業するときにはほとんどの学生がそうしたマナーを身につけています」
マナーや挨拶については、辻調理師専門学校の卒業生もその大切さを実感しています。
(卒業生アンケートより)
在学中にしておくと良いこと
在学中に日常の挨拶や実習中の声かけ、先生など目上の人や周りの人に対する気遣いなどしっかり癖づけて習慣にしておいたほうがいい。
就職してからのアドバイス
礼儀はすごく大事です。当たり前のことですが、自身で気づいていなかった悪い礼儀で怒られることがあります。返事は大きく、やる気のあることが伝わるように、聞かれたことにハキハキと応答することも大切です。
技術よりも挨拶や気配り、1年目だからこそできること(怒られても何度もやること、何でも質問すること)を大切にすると先輩からも良い印象になると思います。
基礎的な調理の知識と技術を身につけておく
調理のプロとして現場に出るためには、調理の基礎的な知識と技術が身についていることが求められます。
岡本「専門学校に入学する時点では、ほとんどの学生が料理についての技術や経験は『ゼロ』の状態です。
私は高校時代、家族経営の割烹料理屋でアルバイトをしていました。当時、料理屋のご主人が店のメニューにある料理を教えてくれて作業工程は把握していたんですが、専門学校でいちから習ってみると、どんどん新しいことを知ることができました。
包丁の切り方ひとつにしても、『今日は学校で2つ新しい切り方を覚えたぞ』という感じで、ゼロから知識や技術を学ぶことができたんです。知識や技術はゼロの状態でも、専門学校に入学してから学ぶことができます」
また、手先の器用さはあまり関係がなく、はじめはうまくできなくても、あきらめずに何度も繰り返し練習することで、誰もが技術を身につけることができるといいます。
安定した美味しさを届けられる「味覚」を身につけておく
料理の経験がない人にとっては、どんな調味料を使うとどんな味わいが出せるのか、調理の仕方によって食材がどんな味わいになるのか、想像がつかないでしょう。
そうした感覚は、これから専門学校で学ぶことで身につけることができます。辻調理師専門学校では味覚教育という授業を設け、調理師に必要な味覚を養います。
授業の中では、「塩味」「酸味」「甘味」「苦み」「うま味」の五味を基本とした味覚トレーニングも行われます。味覚には個人差があるため、自分自身の味の感じ方を把握することも大切です。
そうした授業と並んで、ふだん食事を食べる際どんな調味料が使われているか、どのような調理法が使われているかといったことを分析する癖をつけるのもよいでしょう。
「折れない気持ち」を
持ってほしい
調理師に向いている性格やスキル、能力のほかに、社会人として現場に出たとき必要なのは「折れない気持ち」だと高岡先生は言います。
高岡「私自身、社会人として辻調師理専門学校で教員として勤務し始めたときには、大勢の同期の中で自分自身を『できない』と感じ、もがき苦しんでいました。
辞めてしまおうかと考えることもありましたが、先輩が気にかけてくれて少しずつ仕事をさせてもらえるようになったんです。それに応えたいと思い、一つずつできることを増やしていって、今があります。
働き始めると、誰しも辛い時間が一定期間あるでしょう。そのときに、仕事を辞めずに済むようなスキル、折れない気持ちを持たせて卒業させてあげたいですね。
辻調理師専門学校の学生の中には若干経験者がいるものの、ほとんどの人は初心者ばかりです。スタートラインは一緒なので、安心して飛び込んできてほしいと思います」
自分がつくった料理で人を幸せにしたい、「おいしい」と言ってもらえることが嬉しい人は、調理師に向いているといえます。そして何より料理をすることが「好き」だという気持ちが大切です。「食べることが好き」「つくることが好き」。そんな人は安心してこの世界にチャレンジしてみてください。