【とっておきのヨーロッパだより】小さな村の素敵な祭り~ボージョレー地区・オワン村~
<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>
オワン Oingt はフランス第2の都市リヨン Lyon から約40キロ北西に位置する小さな村。辻調グループフランス校シャトー・ド・レクレールのあるリエルグ Liergues 村からは目と鼻の先の距離にある、大変美しい村です。
フランスでは市区町村の境界に必ず地名の標識があります。オワン村には県道96号線が通っています
(左)少し離れた場所から眺める村
(右)オワンを紹介する看板。村の入り口で見つけることができます
(左)村への入り口の1つ、ポルト・ド・ニジー Porte de Nizy
(右)村のシンボルの1つ、ドンジョン・ア・モット Donjon à motte (注1)
私がこの村を初めて訪れたのは、今から10年ほど前になります。「ピエール・ドレ Pierres dorées (黄金の石)」と呼ばれる、この地方独特の黄色がかった石の建物が立ち並ぶ村自体ももちろん美しいですが、高台に位置する村から見ることのできる周辺の景色は本当に素晴らしく、眺めているだけで心が癒されたことを覚えています。眼下に広がる眺めは、 "パノラマ" という言葉がまさによく当てはまると思います。
村から見る景色。写真では、中々雄大さがお伝えしきれないことが、本当に残念です
村の周りには、ボージョレーワインを作るためのブドウ畑が広がっています。間もなく収穫の時期です
オワンには、先史時代すでに工具類(明らかに人の手で加工された石など)が使われていた痕跡がみつかっており、古くから人が暮していた場所のようです。見晴らしがよい場所でもあり、古くから交通の要衝として人の行き来が盛んで、商人とともに繁栄していきます。しかしペストの流行や、度重なる多くの戦争、ルイ14世の治世下に重税が課せられたことなどから、次第に村は衰退し、人口も減っていきます。
村としての再生が始まるのは1950年代以降。水道の整備や、自動車の普及により周辺への移動が容易になったことで人口が回復してきました。オワンは、今では「フランスの最も美しい村」(注2)として名を知られるようになり、毎年いくつかの祭りが催されます(注3)。その祭りの一つ、「フェスティバル・ド・ロルグ・ド・バルバリー Festival de l'orgue de barbarie」が9月に行われることを聞きました。
祭りを紹介するポスター
「オルグ・ド・バルバリー」とは、手回しオルガン(注4)のこと。つまり、手回しオルガンの祭りなのです。1981年から始まり今年で33回目を迎えるこの祭りは、2人の手回しオルガン愛好家の男性、フェーヴル Faivre氏とビオレ Biolay氏の出会いによって始まったそうです。1970年後半にリヨンで行われた手回しオルガンの祭りで出会い、共にオワンの出身であることを知った2人は、オワンの道沿いで一緒に手回しオルガンの演奏を始めます。彼らが設立したオワン村の友好協会には、手回しオルガンをこよなく愛する村長をはじめ、オワンの住人の多くも参加するようになり、手回しオルガン愛好の輪を広げていきました。
そして今日では、20の鍵盤を持つ小さいものから、400の鍵盤を持つ大きいものまでたくさんの種類の手回しオルガンがオワンの祭りで演奏されています。また、アコーディオンや自動演奏のピアノなども演奏されるようになりました。毎年9月の1週目の週末に2日間行われるこの祭りは、約15000~25000人の来訪者でにぎわいます。今年の2日間は天候にはあまり恵まれず、時折雨模様となってしまいましたが、それでも多くの来訪者がありました。
観光案内所。中ではアンティークなオルゴールなどが展示されていて無料で見学することができます
(左)展示していることが分かる入口のポスター
(右)展示物の1つ、自動演奏オルゴール
それでは、祭りの様子をご紹介します。
祭りへと誘う入口付近にて
オルガンから心躍る楽しいメロディが奏でられていて、中央の人形も一緒に動きます。こちらのものは自動演奏されていて、祭りをアピール中です。
手回しオルガン奏者からは曲目の歌詞が見物客の何人かに手渡され、それを見ながらみんなで歌います。民謡や童謡、あるいは「愛の讃歌」など、フランス人には歌詞を見なくても歌えるくらいお馴染みの曲が多いようで、皆、楽し気に歌っていました。
道沿いは多くの人でにぎわっていて、それぞれの演奏者を囲み、一緒になって歌います
多くの手回しオルガンは、穴の開いているカートリッジを交換することで、曲を変えられる仕組みになっています。
オルゴールの両端に蛇腹折りになったカートリッジが見えます。片側から入れ、オルゴールを通って反対側に出てきます
この祭りには、ヨーロッパ各国から奏者が参加していて、それぞれの国民性を感じさせるコスチュームを見る事も楽しみの一つです。
(左)イギリスから (右)イタリアから
他にも、ドイツやスイスからの参加者もいました。
(左)いろいろなタイプの演奏装置が展示され、曲が奏でられています
(右)メリーゴーラウンドも設営され、子供たちが楽しんでいました
ところで、祭りといえば日本でも屋台がつきものではないでしょうか。この祭りでも見つけることができました。ワッフルやクレープ、ホットドッグなど様々な美味しそうな屋台が立ち並びます。ソーセージや鶏肉などをバーベキューのように焼き、フライドポテトやパンと一緒に販売している屋台などもありました。
ワッフルをいただきました。粉砂糖をたっぷりと振り掛けています。焼き立てで温かくやわらかくてあっという間に完食
別の場所では綿菓子が売られていたので思わず購入。値段が書いてなかったので、聞いてみると「サ・デポン Ça depend (その時による)」と言われびっくり。どうやらできた大きさなどで値段を決めているようでした。私の買ったものは2ユーロということでした。久しぶりに食べたせいか、とても懐かしく感じました。
ぎこちなさそうではありましたが、笑顔で作ってくれました。
祭りを存分に楽しんだ後は、お土産探しです。近くにお店がありました。
(左)オワン近郊で作られたボージョレーワイン
(右)地元産の素朴なサラミソーセージとチーズ
白ワイン、ロゼワイン、赤ワインそれぞれ購入できます。フルーティーで飲み口の良いワインが特徴です。ラベルの説明によると、よく冷やして、豚肉加工品やチーズと一緒に飲むとよいようです。近郊ではサラミソーセージやチーズの生産者も多く、ワインを購入したお店にもありました。他にも、飲み口の良い地ビールやボージョレー地区ならではのブドウ果汁100パーセントのジュース、ワインのコルクに見立てたチョコレート菓子など、地元の珍しいお土産をたくさん携え、帰路につきました。
オワン村にはこの祭りの時だけでなく、晴れた日に時間があれば、心癒すために何度となく訪れています。祭りのある時もにぎやかでよいですが、普段の静かなオワンも景色をながめるだけでも価値ある所だと思います。レストランも数件あり、ご紹介したお土産を購入するお店も普段から営業していますし、リヨンやフランス校近郊にお越しの際にはぜひ立ち寄っていただきたいです。写真ではお伝えできない景色が、きっと皆さんの心と体をリフレッシュさせてくれるのではないでしょうか。
1ユーロ=約130円(2013年9月現在)
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(注1):ドンジョンとは「天守」という意味に近いが、日本の天守閣とは少し違い、主塔ではあるが、最上階に
見張り役が配された塔をいう。モットとは「小丘」のことで、円形に土を掘り、その土で中央に小丘を作ったもの。
ドンジョン・ア・モットには実際に中に入り上まで階段で上がることもできる。
現在では、周辺から出土した化石の展示や、村の歴史資料館的役割も果たしている。
(注2):オフィシャルサイト http://www.les-plus-beaux-villages-de-france.org/en
フランス語では「レ・プリュ・ボー・ヴィラージュ・ド・フランス Les Plus Beaux Villages de France」といい、
2012年7月5日現在、全部で157の自治体が選ばれている。
(注3):他の主な祭りには、「コンスクリ」(もともと徴兵適齢者を祝う祭だが、現在は10年周期の同年者を共に
祝う祭になっている)、「クレシュ」(キリスト降誕の場の模型を飾るもの)などがある。
(注4):カートリッジ(紙でできたミュージックロールや本のように折りたたむブックタイプの音符情報)に手動で
空気を流し、自動演奏する楽器。自動演奏オルガン、ストリートオルガンなどとも呼ばれる。
フランスのレストランでは、予約時に誕生日など記念日である事を告げると、この手回しオルガンの演奏で
祝ってくれる店もあります (リヨン近郊の三ツ星レストラン『ポール・ボキューズPaul Bocuse』にて)
参考文献
『Parmi les plus beaux villages OINGT』 Andrée Margand, Daniel Rosetta著、 Editiond du Poutan刊