【半歩プロの西洋料理】フランスの羊たち
【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?
以前、フランス校に勤務していた頃、私の楽しみの一つは、身近に暮らしている様々な動物を見ることでした。
フランスでは車で少し走っただけでも、道路のすぐ横の牧草地で、羊、牛、ヤギなどが飼われています
みなさんが想像するフランスとは、きらびやかで、洗練されているブランドショップが立ち並ぶパリのような都会かもしれませんが、パリのような大都市は数えるほどです。
実際のフランスは見渡す限りの平原の中に並木道が一本走っているような風景がほとんどで、その有り余るほどの平原のなかにのびのびと動物が家畜として飼われています。
そんな大自然の一本道は自分の車が今何キロで走っているのか解らなくなるほど、同じ変わらない景色がずーっとまっすぐ続いていきます。
さすが食料自給率100%以上を誇る豊かな国です。
日本でも牛などの家畜は飼われていますが、フランスとの最大の違いは、その果てしなく広い敷地を使った規模です。
また、小屋の中ではなく、先にも述べた通り外で放し飼いになっているため、飼っていない人も頻繁に見ることができるところです。
山の多い地方では大きな山の一面を使って飼われていることもあり、首からぶら下げたベルをゴロンゴロンと鳴らし大群で移動をしている様は貫禄があり、反対に可愛げもあります。
私がスイスとの国境近くであるサヴォワ地方の山の中のレストランで研修していた時には、お昼の休憩で家に帰る頃の時間帯は決まってこの辺、休憩が終わって夕方レストランに帰る頃にはいつもあの辺、
という具合に、牛も考えなしに動いているわけではなく、時間帯に合わせて一番居心地のいいところを知っていることが分かりました。
その遠くまで聞こえる大きなベルを首に付けている理由も、広すぎる敷地なのでどこに牛の群れが居るのか解るようにということですので、その果てしない規模がわかっていただけると思います。
また、牛のみならず同様に羊もたくさん飼われています。
フランス校の近くも例外ではなく、いたるところに羊が飼われていて、学校の敷地の牧草が伸びると、年に何回かそれを食べに羊飼いさんが羊の群れを連れてやってきます。学校の庭で羊の大移動が行われるわけです。
その中には大人の羊に必死でついていく赤ちゃん羊の姿もあり、その可愛い姿に癒されたものです。
若々しいやわらかい草をたくさん食べたお母さん羊は栄養たっぷりのミルクを出し、赤ちゃん羊は、そのミルクを必死で飲み敷地中を元気に駆け回る姿は本当に愛らしいものです。
学生はというと、やってきた羊に休み時間にエサやりにいったり、一緒に写真を撮ったりと、良い遊び相手になってくれる存在に喜びます。
そんな、アイドル的な存在の羊と遊んでいると思いきや、そのあとすぐに調理実習で羊の料理をたべて「おいしーい!!」と言ってたくさん食べているのですから、肝の据わった頼もしい学生たちです。
立派な料理人になることでしょう。
そんな羊は何のために飼われているのかというと、ほとんどは羊乳用と食肉用です。
羊乳をそのまま飲むというのはフランスでも少ないですが、羊乳から作られるチーズなどの乳製品はポピュラーな商品です。
羊の独特の香りを持っていて、好みは分かれますが、私は風味豊かでとてもおいしいと思います。
ヨーグルトや、フレッシュなチーズからしっかりと熟成したチーズも、何とも言えない豊満な香りを持ち、癖になる味わいです。
フランス校から車で15分くらいのところに、羊乳のチーズを作る羊飼いさんがいます。学校にも毎週羊のチーズを届けてくれるほっぺの赤い陽気なおじさんです。
個人経営の牧場ですが、敷地はとても広く羊の他にも僅かながらホロホロ鳥、鶏、ガチョウ、牧羊犬が暮らしています。
牧場のすぐ脇には、チーズを作るための工場もあり、新鮮なミルクを使っておいしいチーズが作られています。
日本で羊の肉を食べるといえば北海道のジンギスカンが有名ですが、それは1歳以上の永久歯の生えたムトンと呼ばれ、いわゆる大人になった羊です。
フランスではアニョーと呼ばれる子羊(生後約12か月までの永久歯の生えていない羊)を好んで食べ、有名な地域もあるものの、スーパーなどに普通に並ぶフランス全土で食べられているポピュラーな食肉です。
日本人は大人になった羊を食べる機会の方が多いので、強くなった羊特有の香りを嫌がりますが、子羊であればそれほど嫌な香りも無く食べやすいと思いますし、そのほのかな香りこそが羊の魅力とも言えます。
フランスの全土にたくさんの子羊を使った料理が存在していて、調理法も煮込みやグリル、ロースト、低温調理、包み焼き、ステーキなど様々です。
農業国のこの国では、家畜を飼っていない地域は無いと言えるくらい、各地でとても盛んに酪農が営まれていますが、南に行けば行くほど暑さに弱い牛の姿は少なくなります。
料理のイメージでも、魚介類の豊富な南仏は別格として、フランス南西部を思い浮かべると頭に出てくるは羊の料理や鴨、鶏の料理が多いように思います。
そういえば、夏のヴァカンスで立ち寄ったフランス南西部の小さな村では「AXOA アショア」という、子羊の料理を食べました。
羊のミンチ肉をオリーブオイル炒めにしたような簡単な家庭料理でした。
ですが、にんにくと香り高い唐辛子の効いたシンプルな味付けながらも、
とても美味しく感動したものです
強い太陽の日差しを浴びながらでも、どんどん口に運べるような味わいの素晴らしい料理でした。
そのレストランの他のメイン料理のラインナップはというと、鴨のもも肉のコンフィや豚肉のソーセージ、サーモンのポワレなどでした。
もちろん牛肉のステーキなんかはフランス人も大好きで、探せばどの地方にも出しているレストランはあると思いますが、羊が多い地方では羊を食べ、鴨が多い地方では鴨を食べ・・・というように、どの地方でもなんでも食べられる日本よりはメインとなる食材も地方によって変わってくるのかもしれません。
南フランス特有の、ぎらぎらした太陽の日差しを浴び、暑いテラスのパラソルの下で、ランチをしながらロゼワインをゴクリ・・・。
この料理を思い出すとフランス南西部の景色が思い浮かびます。からっとした気候なので、外での食事も本当に気持ちが良かったものです。
家畜がたくさん!農業大国フランスから、子羊を使った簡単料理アショアをご紹介します!
フランスの夏の日差しを思い浮かべながら食べてくださいね~!