【好吃(ハオチー)!中国料理!】干すことは三文の得~乾貨 ガン フオ~
畑川:皆さん、こんにちわ。慌しい4月が過ぎ去り、小休憩のゴールデンウィークは満喫出来ましたでしょうか?私の実家のある秋田県からはゴールデンウィーク前後に桜だよりが届きます。同じ日本にいて2度も花見気分を味わえるなんて、お得な気分ですね(笑)
さて、2012年度の中国料理班はタイトルにもありますが「乾貨 ガン フオ:乾物」に焦点を当てて、料理とコラムを紹介していきます。今期もどうぞお楽しみに♪
それでは本題です。
「乾貨 ガン フオ:乾物」とは中国料理において乾燥材料、乾物類を指します。そのものの大半が高級な上に、希少性、薬効性などがあり中国料理の宴席には欠かせないものなのです。
なぜ乾貨にする必要があるのか?と思いますよね。タイトルにもありますが、大きく分けて「三文の得」があるのです。
1.材料の保存、輸送に便利
現代のような生鮮食品の保存技術のない時代、食材は産地に近い地域での消費が普通でした。乾燥させることで遠方への輸送が可能となり、食材が他地域へと流通し、それを使っての貿易が可能となりました。江戸時代の日本から中国への俵物三品(干しアワビ、フカヒレ、干しナマコ)などが良い例ですね。
2.ストックが効き、いつでもどこでも食べられる
重量、嵩が減少しますので貯蔵に適すようになります。海産物を山間部で食すこと、その逆もまた可能となります。
3.生では味わえない風味と歯ごたえを得る
「乾鮑 ガン パオ:干しアワビ」などは生の時はコリコリとした食感ですが、干すとねっちりとした食感に変わります。「冬 トン グゥ:干し椎茸」は干すことでビタミンDが活性化され、強化されるように、生の時よりも栄養価が上昇する材料もあります。
このように大まかではありますが、良いことが沢山なのです。保存技術、輸送技術が発達した現代では生鮮食品がどこでも食べられますが、過去の食文化における乾貨の大切さがよく分かりますね。
中国では珍しい食材を総称して「山珍海味 シャン チェン ハイ ウェイ」といい、その中に乾貨が多く含まれます。
少しだけ例を挙げてみます。
日本では馴染みの少ないものも普段使いされていることに驚きますよ。
<山珍>
「冬 トン グゥ:干し椎茸」、「木耳 ムゥ アル:キクラゲ」、「竹 ヂュウ スン:キヌガサタケ」、「猴頭 ホウ トウ モー:ヤマブシタケ」など一番種類が多いのはキノコ類です。さらに珍しいものになると「蹄筋 ティー チン:アキレス腱」、「鹿茸 ルゥ ロン:鹿の角」、「象鼻 シヤン ピー:象の鼻」などもあるのです。
<海味>
「乾鮑 ガン パオ:干しアワビ」、「海参 ハイ シェン:干しナマコ」、「魚翅 ユィ チー:フカヒレ」、「魚肚 ユィ トゥ:魚の浮袋」、「燕窩 イエン ウオ:海ツバメの巣」などの高級乾物や、身近なものでは「干貝 ガン ペイ:干し貝柱」、「蝦米 シャー ミー:干しエビ」、「乾魚 ガン ヨウ ユィ:スルメ」、「 ハオ チー:干し牡蠣」などがあります。
まだまだ数え切れないほどあるのですが、ここまでにしておきましょう。
さて、乾貨を扱う上で非常に重要なことをまだ紹介していませんのでまとめておきますね。
まずは<選別法>です。
1.虫食いのないものを選ぶ
表面に小さな穴などがないかを確認して下さい。
2.色で判断
総体的に新鮮な状態に近い色合いを持つものが良いです。黄ばみや黒い斑点、カビの生えているものは避けて下さい。
3.形、大きさで判断
表面に傷があったり、欠けているものや崩れているもの、更には本来の形状からかけ離れているものは避けたほうが良いでしょう。
4.新しいものを選ぶ
乾物とて鮮度があります。古いものは変色したり、戻した後に歩留まりが悪かったりするので注意が必要です。
つぎに<保存法>です。
1.密閉する
空気に触れると変色するものもあるので、保存瓶やビニール袋に入れて外気を遮断して下さい。真空パックや脱酸素剤などは長期の保存を可能にします。
2.冷凍する
冷凍することで保存中の変質を長期に渡って防ぐことが可能となります。ただし、小分けにしておかないと表面が結露し、使用しない分まで湿気ってしまいます。
3.湿気を避ける
湿気を帯びることでカビが発生したり、腐敗することがあります。湿気ってしまった時は天日干しして乾燥させましょう。
最後に<戻し方>です。
大別すると<水発 シュエイ ファー:水戻し>、<油発 ヨウ ファー:油戻し>に分かれます。後者は中国料理においても特殊な方法となります。
<水発①>:冷水に浸ける
水に浸けただけで食べられる柔らかさになるものが該当します。(キノコ類など)
<水発②>:熱湯に浸ける
冷水に浸けるよりも早く戻ります。ただし、材料によっては味が流出したり、変色することもあるので注意して下さい。
<水発③>:冷水に浸けてから煮る(蒸す)
水に浸けただけでは柔らかくならないものは、加熱して柔らかくします。(アワビ、フカヒレなど)
※<水発>は材料の大きさ、固さによって水に浸ける時間が異なるので注意して下さい。
<油発>
揚げることで材料に気泡が入り、食感が変化します。(アキレス腱、魚の浮袋など)
と長くなりましたが、以上が中国料理における乾貨の考え方と扱い方になります。
先にも記しましたが、2012年度の中国料理班のテーマは「乾貨 ガン フオ:乾物」です。
しかし、馴染みのないものではなく、日本国内で簡単に入手でき、食卓に並ぶ頻度の高い材料をご紹介しますので、ご安心を。
例を挙げるなら大豆、干しエビ、切り干し大根、ワカメ、干し椎茸etc...ってとこでしょうか。
日常的なものが美味しい中国料理に化けるのを楽しみにして下さい♪
最後になりますが、今回の「菜脯煎蛋 ツァイ プゥ ヂエン タン:台湾風大根入り卵焼き」で使用した切り干し大根と干しエビを紹介しておきます。
<切り干し大根>
<製法>
秋~冬にかけて収穫した大根を細切りにし、広げて天日干しにする。切る太さ、形状によっていくつかの種類に分れます。
・割り干し大根: 縦4つ割り(宮崎県)、ゆで割り干し大根: 縦4つ割り(長崎県)、
花切り大根:花型に抜いて干す(愛知県尾張地区)
<選別>
茶色がかっていたり、黄ばんでいるものは避けて下さい。新しいものの色は白色です。
<保存>
高温多湿を避け、密閉して保存しましょう。気温が上がると茶色に変色するので、夏場は冷蔵庫で保存するのが好ましいです。
<戻し方>
水で一度表面を流し、ゴミが付着していれば取り除きます。水発①で20分程度で十分戻り、味が抜ける材料ではないので、たっぷりの水に浸けて下さい。
<補足>
食物繊維、カルシウムが豊富に含まれています。「菜脯 ツァイ プゥ」という台湾産の大根の漬け物があり、こちらは塩漬け発酵させた後、切らずに干したものです。日本では流通が乏しいため、切り干し大根を代わりに使用するケースが多いです。
<干しエビ>
中国では海水産のものと、淡水産のものに分けられています。
前者は「開洋 カイ ヤン」、「金鈎 チン ゴウ」、「海米 ハイ ミー」と呼ばれ、後者は「湖米 フゥ ミー」と呼ばれようですね。
日本では海水産のものをムキエビ(アカエビ)と呼び、主に流通しているようです。淡水産のエビ(手長エビ、沼エビ)などもいることはいるのですが、こちらはあまり出回ってはいません。
名の通り、殻を剥いたエビを使用して製造されます。数種類ある干しエビの中では味わいが一番濃いとされます。
他にも一般に流通しているものを、小さい順に例として挙げておきましょう。
・オキアミ
瀬戸内海、富山、三河、有明海で漁獲されます。食用と釣りの撒き餌とは全くの別物とのこと。
・チヒロエビ
フィリピンなどの南西諸島でよく漁獲されます。大きさはサクラエビと同じくらいですが、それに比べてやや白色。日本では米菓に練りこまれて使用されています。
・サクラエビ
国内では駿河湾のみで漁獲される。見た目の鮮やかなピンク色と、甘みのある味わいが特徴です。
<製法>
熱湯または塩茹でし、乾燥させて残った殻を取り除きます。
<選別>
大きさが揃っていて、光沢があり、赤みを帯びていて大きさにバラつきのないものを選びましょう。上の写真の左側が粗悪品で右側が良品。
<保存>
高温多湿を避け、密閉して保存します。学校では冷凍庫にて保存しています。
<戻し方>
水発①で20分程度が一般的。
注意点としては味が抜けないように、ひたひたの水分量で戻すことです。
長時間の煮炊きものに使用する時は、乾燥のまま煮汁に加えると、煮汁の中で旨味を出しながら十分に戻ります。
中国料理では水発したものに紹興酒を振りかけ、葱、生姜のくずを乗せて20分蒸してさらに臭みを除く方法をしています。
<補足>
カルシウムが豊富に含まれています。非常に旨味がある材料なので、煮物などに入れると旨味だけでなく栄養の補填にも役立ちます。