【独逸見聞録】 アイスクリームのデザート ~アイスクリーム(其の弐)~
パフェ類の総称は、「アイスベッヒャー(Eisbecher)」という。イチゴのパフェ(Erdbeerbecher:エァトベーァベッヒャー)の様に、果物やナッツなど主材料の名前が「Becher:ベッヒャー」の前に付く場合が殆どである。
アイスベッヒャーを中心とした品書きのことを、特に「アイスカルテ(Eiskarte)」と呼ぶ。今回は、この中から「アイスクリームを使用したデザート(Eisdessert:アイスデセーァ)」を紹介する。
レストランのデザートとして、またはアイスクリーム専門店では、ほぼ一年中楽しむことができるが、普通のカフェや菓子屋の中には、春から秋にかけての季節限定というところもある。
★ゲミッシュテス・アイス(Gemischtes Eis)
一番基本的なのが、2~3種類を盛り合わせたミックス・アイスクリーム(Gemischtes Eis:ゲミッシュテス・アイス)である。大抵の場合、品書きの一番初めに書いてある。
ミルヒアイス(Milcheis)、クレームアイス(Kremeis)、フルフトアイス(Fruchteis)やフルフトゾルベ(Fruchtsorbet)など、様々な種類のアイスクリーム(Speiseeis:シュパイゼアイス)の中から、好みのものを組み合わせる。
泡立てた生クリーム(Schlagsahne:シュラークザーネ)を添えることもできる。これはただ単に泡立てただけで、基本的に甘みは付いていない。
生クリームの有無によって価格が違う。生クリーム付きの場合は「ミット・ザーネ(mit Sahne)」、無しの場合は「オーネ・ザーネ(ohne Sahne)」を選択する。
アイスクリームには、「アイスゲベック(Eisgebäck)」と呼ばれる焼き菓子が添えられる。
円錐形や円形のワッフル(Eiswaffel:アイスヴァッフェル)、扇形ワッフル(Fächerwaffel:フェッヒャーヴァッフェル)、紙巻煙草状の「ホールヒッペ(Hohlhippe)」などがある。フィンガービスケット(Löffelbiskuit:レッフェルビスクヴィート)や乾燥焼きしたメレンゲ(Meringe:メリンゲ)なども、用途に合わせて使用する。
★アイスベッヒャー(Eisbecher)
様々な種類のアイスクリームを中心に、果物やナッツ類、チョコレートやアルコール類を、味の方向性を考慮して組み立てる。
果物を使ったものの代表は、イチゴのパフェ(Erdbeerbecher:エァトベーァベッヒャー)、フルーツパフェ(Fruchtbecher:フルフトベッヒャー)などである。ヨーグルト(Joghurt:ヨーグルト)とフルーツの組み合わせも人気がある。
左は、イチゴのパフェ(Erdbeerbecher:エァトベーァベッヒャー)。
右は、リンゴとシナモンのパフェ(Apfel-Zimtbecher:アプフェル-ツィムトベッヒャー)。
フルーツのパフェ(Fruchtbecher:フルフトベッヒャー)のヴァリエーション。
他にもメロン(Melonen-:メローネン~)、キウイ(Kiwi-:キーヴィ~)、パパイア(Papaya-:パパーヤ~)、パイナップル(Ananas-:アナナス~)、ブドウ(Weintrauben-:ヴァイントラウベン~)、バナナ(Bananen-:バナーネン~)などがある。
左は、メロンのパフェ(Melonenbecher:メローネンベッヒャー)。
右は、バナナのパフェ(Coppa Banana:コッパ・バナーナ)。
ナッツ類を使ったものは、ヘーゼルナッツ(Haselnuss-:ハーゼルヌス~)、クルミ(Walnuss-:ヴァルヌス~)、ココナッツ(Kokosnuss-:ココスヌス~)など。
左は、クルミのパフェ(Walnussbecher:ヴァルヌスベッヒャー)。
右は、卵のリキュールのパフェ(Eierlikörbecher:アイァーリキューァベッヒャー)。
卵のリキュール(Eierlikör:アイァーリキューァ)や、チョコレートのリキュール(Schokoladenlikör:ショコラーデンリキューァ)、アマレット(Amaretto)などのアルコール類を使用した大人のデザートも多い。お酒に弱い人や子供連れの場合など、かなりアルコールの効いたものもあるので、注意が必要である。
アイスベッヒャーの名前には、パイナップル等のトロピカルフルーツを使用した「ハワイ(Hawaii:ハヴァイ)」や、チョコレートとサクランボ、キルシュヴァッサーを組み合わせた「シュヴァルツヴァルト(Schwarzwald)」の様に、地名が付いていることもある。
◆ハイセ・ヒムベーァレン(Heiße Himbeeren)
ヴァニラアイスクリーム(Vanilleeis:ヴァニレアイス)は、どんな素材とも組み合わせることのできる万能選手である。熱々のキイチゴのソースを添えた「ハイセ・ヒムベーァレン(Heiße Himbeeren)」の別名は、「熱い愛Heiße Liebe:ハイセ・リーベ)」。
同様に熱いサクランボのソースを添えた「ハイセ・キルシェン(Heiße Kirschen)」もある。
◆クープ・デーネマルク(Coupe Dänemark)
熱いチョコレートソース(Schokoladensoße:ショコラーデンゾーセ)を個別に添えると「デンマーク風クープ」になる。「Coupe Danmark」と表記される場合もある。
◆プフィルズィッヒ・メルバ(Pfirsich Melba)
ヴァニラアイスクリームの上に、半割りの桃(Pfirsich:プフィルズィッヒ)のコンポートを乗せ、「メルバソース(Melbasoße:メルバゾーセ)」と呼ばれる、キイチゴのソースを掛け、泡立てた生クリームを絞り出して飾る。
フランス料理史上名高い料理長オーギュスト・エスコフィエが、当時人気絶頂のプリマドンナ、ネリー・メルバに捧げたデザートとして知られている。
◆ビルネ・ヘレーネ(Birne Helene)
ヴァニラアイスクリームの上に、半割りの洋ナシ(Birne:ビルネ)のコンポートを乗せ、泡立てた生クリームを絞り出し、チョコレートソースを添えた古典的なデザートである。
ジャック・オッフェンバックのオペレッタ「美しきエレーヌ」がパリで上映されていた頃に、オーギュスト・エスコフィエによって考案された。
◆バナーネンシュプリット(Bananensplit)
アメリカのアイスデザート「バナナ・スプリット(banana split)」が原形であるが、ドイツでも「定番」のひとつとなっている。バナナの長さに合った、楕円形や舟形の器を使用することが多い。
縦割りのバナナでアイスクリームを両側から挟み、泡立てた生クリームで飾り、チョコレートソースを掛けたものである。
左は、バナーネンシュプリット。右は、ピノキオを模したキンダーアイステラー。
◆キンダーアイステラー(Kindereisteller)
様々な形のワッフルやカラーチョコスプレーを用いて、子供達の喜びそうな動物やキャラクターを模している。通常のアイスベッヒャーと比べると、サイズは小さめである。
ピノキオ(Pinocchio:ピノッキーョ)やスノーマン(Schneemann:シュネーマン)、ハチ(Biene:ビーネ)、ネズミ(Maus:マウス)やクマ(Bär:ベーァ)などが定番である。
◆シュパゲティアイス(Spaghettieis)
一般的には、泡立てた生クリームの上に、ヴァニラアイスクリームを専用器具で麺状に押し出し、イチゴのソースと削ったホワイトチョコレートを添えたデザートで、その名前は外観に基づいている。イチゴのソースは、スパゲッティ料理に付き物のトマトソース、ホワイトチョコレート(またはココナッツ)はチーズの役割である。
シュパゲティアイスは、1960年代の終わり頃に、マンハイムのアイス専門店「ダリオ・フォンタネラ」によって考案された。当時900マルクだった特許申請料金の支払いを、フォンタネラが望まなかったため、特許によって保護されなかった。
現在では、ドイツ中何処の「アイスカルテ(Eiskarte)」にも載っている。
専用の機械を使用して、アイスクリームを一気に麺状に押し出す。
左は、定番のトマトソースのスパゲッティ風。右は、ナッツ類を使用してアレンジしたもの。
イチゴやバナナなどの果物を組み合わせたものもある。
◆シュヴェーデンアイスベッヒャー(Schwedeneisbecher)
シュヴェーデンアイスベッヒャーは、ヴァニレアイス(Vanilleeis)、アプフェルムース(Apfelmus)、アイァーリキューァ(Eierlikör)と泡立てた生クリーム(Schlagsahne)で構成されている。「旧東ドイツ(DDR)」の典型的なレシピで、今日でもドイツ東部の飲食店や家庭で好まれている。
このアイスベッッヒャーが、最初に現れたのは東ベルリンのアイスカフェで、1952年のことである。同年、オスロで冬季オリンピック開催中、スウェーデンと旧西ドイツのアイスホッケーチームが対戦し、スウェーデンが7:3でこの試合に勝った。旧東ドイツの国家評議会議長、ヴァルター・ウルブリヒトは、旧西ドイツの敗北に歓喜し、彼好みのアイスベッヒャーに「スウェーデン」の国名を付けたと言われている。
舟形のモダンな器に盛られたシュヴェーデンアイスベッヒャー。
旧東ドイツの都市ゲーラ(Gera)のアイスカフェにて撮影。
【撮影協力(アイスカフェ):
Eiscafé Zampolli
(Hauptstraße 61 Offenburg)】
<コラムの担当者>
Kimiko Kochs
<バックナンバー>
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