【怖くない、怖くないインターナショナルクッキング】アメリカ地方料理・その①
<【怖くない、怖くないインターナショナルクッキング】ってどんなコラム?>
サウスウエスト・キュイジーヌのルーツは、「米国南西部」と総称される地域全般に広がっています。特にアリゾナ、ニューメキシコ、テキサスの3州がこの地域に当てはまります。中でもテキサスは広大な州で、「テックス・メックス」と称される独自の料理があり、メキシコの影響が強く表れています。これらの3州はいずれもメキシコと国境を接しているため、料理もメキシコ風ですが、南西部の料理は本来のメキシコ料理とは全く別物です。米国では局地的に気候が異なるため、唐辛子の中でも特に辛い一部の品種は、南西部の山間部ではほとんど育ちません。そのため、南西部の料理はメキシコ料理ほど辛くはありません。またこの地域ではトマトがよく「サルサ」として食べられています。コリアンダーやハラペーニョ・チリ、ライムジュースなど地元産の食材と混ぜ合わせて作られた冷たいソースです。この地域で冷たいサルサが好まれるのは、気候にも一因があるのでしょう。なにしろ夏になると、各地の気温が45℃以上にもなる土地柄ですから。
さて南西部の説明はこれくらいにして、以前に訪れたことのあるレストランについて少し記しておきましょう。ずいぶん前のことになります。1993年9月下旬のニュー・メキシコ州サンタフェの有名なレストラン「コヨーテ・カフェ(Coyote Cafe)」の料理です。
1階はブティックで料理書や調味料などが販売されており、2階がレストランになっています。当時のオーナー・シェフはマーク・ミラー氏(Mark Miller)で、1987年に自分のこの店を出すまでの間、サンフランシスコ郊外のバークレイ(Barkeley)にある有名店シェ・パニス(Chez Panisse)のシェフとして凄腕をふるっておられた方です。料理の特長は、メキシコ料理の素材を使ってカリフォルニア風にアレンジされたように感じました。因みに現在のオーナー・シェフはエリック・ディステファノ氏(Eric Distefano)。
まず前菜として、クリスピー・フライド・チキン・エンパナダス(Crispy Fried Chicken Empanadas)。火を通してほぐした鶏肉と赤ピーマンをとうもろこしの生地で包んでラードで焼き上げたもの。付け合わせはスイートコーンとピリッと辛く味付けしたペパーレリッシュ(唐辛子と玉ねぎなどの野菜を酢と香辛料で漬け込んだもの)にタイムの香りをつけ、ソースはチポトレ・チリを使った旨味のあるものでした。
次にチルド・イエロー・トマト・ガスパチョ(Chilled Yellow Tomato Gazpacho)。黄色いトマトで作った冷たいスープに、蟹の身と辛くないペパーのサラダを添えていました。
メイン・ディッシュは、フィレ・オブ・ビーフ・ウィトラコチェ(Filet of beef HUITLACOCHE)。ウィトラコチェとは、とうもろこしの果穂に生えるキノコの一種で、黒くて柔らかく、食べなれていない人にはちょっと好きになれないもののように感じました。付け合わせは野菜のソテーと赤イモのグラタンでした。
デザートは、プラム・アーモンド・タート(Plum Almond Tart)。プラム入りのタルトに粗刻みのアーモンドも詰められ、バターミルクで作ったアイスクリームが添えられていました。その周りにはローストした皮付きのアーモンドスライスを散らし、キャラメルソースがかかっていました。
以上のような内容で、日常とは違う面白い食材や盛り付けでお客の興味をひきつけていたように思います。
では今回の料理について、説明しましょう。今ではアメリカ全般でよく食べられ、親しまれているチリ・アンド・レッドビーン・スープ(Chili and redbean soup)。「唐辛子と赤いんげん豆のスープ」と名づければいいでしょうか? 少し崩れるまで柔らかく煮込んだ豆のスープに、ブレンドしたチリパウダーのほのかなスパイスの香りと唐辛子のピリッとした心地よい辛味が混ざり合い、ついもう一口もう一口と食べてしまうような飽きのこない味わいに仕上がっています。コーンブレッドを添えて、ぜひお召し上がりください。
<コラムの担当者>
スパイスの魔術師 三木敏彦
<このコラムのレシピ>
唐辛子と赤いんげん豆のスープ
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