【ビバ!!ベバレッジ】食後に鴨、そんなわけない!
ただ今、技術研究所に勤務しています。授業の中心はレストランシミュレーションで、料理・製菓班、クリヨン(客)班、そしてサーヴィス班に分かれて本物のレストランのように実習します。卒業も近づいてきた近頃は、学生もかなりの技術を習得し、私が指導するサーヴィス班も自分たちで準備や打ち合わせを行い、サーヴィス中は客前で料理やお菓子を切り分け、笑顔で料理の説明ができるようになりました。何もできなかった春から比べればこの進歩はすばらしく、教えている立場からするととてもうれしくなります。今では落ち着いた雰囲気ですが、春先はレストラン内といえども私の罵声が響いていました。きついことも言いました。学生はよく1年間付いてきてくれました。
かくいう私も、彼らと同じ年代のころには相当絞られました。サーヴィスマン1年生のときのことです。夕食のサーヴィスで、料理も滞りなく進み、デザートも満足にお召し上がりになり、最後に食後の飲み物をお伺いしたところ、お客様が「カモをおねがいします」。
自分:「鴨?」
お客:「そう、カモ」
自分:「鴨(?)、かしこまりました」
バックヤードに帰って、先輩に、自分:「また鴨が食べたいそうです、どうしましょう?」。先輩はニヤリ。これのことだよ、とカップに注いでくれたのが、カモミールというハーブティーでした。「カモ」とは「カモミール」のことだったのですが、一般的な言い方ではなく、そのお客様だけが使う合言葉のようなものでした。先輩は、そのお客様はいつもそう言ってカモミールを注文するのを知っていたので、すでに淹れていました。お客様と先輩にしてやられました。自分の勉強不足も反省しつつ、お客様にカモミールをサーヴィスしました。
カモミールは、キク科の植物で和名はカミツレ。その花の部分をお茶に使います。ほんのりりんごの甘い香りがし、酸味や渋みは少なく、まろやかなやさしい口当たりです。鎮静作用があって、いらいらや興奮を鎮めてくれて、安眠に導いてくれるとのこと。お腹に優しく、胃炎、胃もたれ、胃の不調にも効果が期待できるそうです。そんなハーブ効果のおかげか?お客様の落ち着いた満足そうなお顔を見ると、一生懸命料理やお菓子をサーヴィスしてきた苦労も報われる思いでした。そのお客様は、楽しい食事の締めくくりには、ハーブティーを飲んでほっと一息つくのが幸せなのだそうです。レストランの仕事の中で、最後の飲み物としてコーヒーや紅茶はもちろん、ハーブティーも大切で、おいしいものを提供しなければと感じたできごとでした。
そんな思い出から、学校でもハーブティーの基礎知識を学生に教え、サーヴィス実習では食後の飲み物のひとつとして提供しています。
■ハーブティーの楽しみ方
ハーブティーの淹れかた
① ハーブを準備します。育てているハーブを使う場合は、若くてやわらかく、きれいな葉を、淹れる直前に摘んできます。そして洗って水気を切っておきます。1杯分(約180ml)で葉っぱ2~3つまみくらい(お好みで)。
ドライの場合は、ティースプーン1杯を目安に。
② 温めたポットにハーブをいれて、沸かしたてのお湯を注ぎ、蓋をして蒸らします。(写真)
蒸らし時間は3~5分程度。長く蒸らしすぎると渋みが出てしまいます。濃く淹れたいときには分量を多くします。
③ 温めたカップに茶漉しで葉が入らないように注いで出来上がり。
ストレート、お好みでレモン、蜂蜜、ミルクを加えて楽しんでください。
ポットで淹れるのが基本ですが、カップとポットの機能が一緒になったものもあり、これなら家庭で手軽に楽しめます。
茶漉しを取り出して出来上がり。ふたが茶漉し受けになってテーブルを汚しません。
数種類のハーブをブレンドして、自分の好みにあったオリジナルのハーブティーを作ることも楽しみの一つでしょう。
飲みやすく、おいしくブレンドすることで、習慣的に飲めるようになります。ある薬効を期待して飲もうと思ったハーブがすっぱく感じるときは、甘みやうまみを多く感じるものをブレンドしてまろやかに仕上げればよいでしょう。
さらにブレンドすることにより、それぞれのもつ薬効の相乗効果が期待できます。たとえばビタミンCの多いローズヒップと、ハイビスカスをブレンドすると、ハイビスカスのクエン酸がビタミンの吸収を助けてくれるそうです。レストランでもオリジナルブレンドを作って、食事の後にふさわしく、消化促進や、リフレッシュ効果の高いブレンドハーブティーを用意しても面白いですね。
薬効や、香りのヒーリング効果もハーブの魅力ですが、イエロー、グリーン、ピンク、ブルーなどいろいろな色があり、目にも楽しませてくれます。マロウはその中でもおもしろく、お湯を入れたときは鮮やかなブルーです。
さらにレモンを一滴加えると、不思議なことにピンクにかわります。
■ハーブティーの種類と効果
一般的に言われていることを簡単にまとめました。ただし、効果は、科学的、医学的根拠が
あるものばかりでなく、俗信も多いそうです。
ミント
・多くの品種あり。お茶にはおもに3種
ペパーミント:メントールが強い
スペアミント:甘みがある
アップルミント:りんごの甘さ+清涼感
・殺菌、発汗、利尿作用。
胃腸不全、食欲不振、便秘、神経不安、花粉症などの改善
カモミール
・主にジャーマン種、ローマン種。花の中心の黄色部分に薬効成分。
・鎮静作用、消化促進。腹痛、風邪、不眠症、生理不順、冷え性、貧血などの改善
リンデン
・セイヨウシナノキ(リンデンバウム、セイヨウボダイジュ)の葉・花。甘い上品な香り。
*仏教で言う菩提樹とは別種
・鎮静作用。安眠。
ヴェルヴェンヌ
・レモンバーベナ<クマツヅラ科>。レモンの香りが爽やか。
・発汗、神経痛、月経痛、偏頭痛、むくみ、不眠症の改善。消化促進、鎮静作用など
マロウ
・和名:ウスベニアオイ。くせが少ない。時間と共に色の変化がある。青から紫へ、
そしてレモンを加えると、ピンクに。
・呼吸息系に効果。便秘、ニキビ、花粉症など。
ローズ
・やわらかな芳しい香り。疲れや落ち込んでいるときに、心身をリフレッシュ
・リフレッシュ効果。肝臓や胃腸のつかれ。便秘、更年期障害、肌のしみなどの改善
ローズヒップ
・ローズの花が咲いたあとの実。さわやかな甘い香り、フルーティーなほどよい酸味。
ビタミンの宝庫
・ビタミンC,A,E,P。疲労回復。目の疲れ、便秘、月経痛、夏ばてや風邪などの改善
レモングラス
・レモンの香りと酸味のあるレモンの味
胃を刺激して消化促進。腸内のガスを排出。
・貧血、自律神経失調症の改善など
ハイビスカス
・刺激のある酸味が特徴。酸味の成分は梅干と同じクエン酸が含まれる
・疲労回復。利尿作用。ビタミンC
ハーブティーはレストランの飲み物だけでなく、普段の生活でも楽しんで飲まれている方も多いと思います。また、ハーブは飲むばかりで無く、料理食材として利用するほか、アロマテラピーやエステ、医療品、シャンプーなど、生活のあらゆるところで使われています。ハーブは紀元前から、病気や怪我を癒すために使われていたそうです。心身を鎮静し、緊張を解きほぐすリラックス効果、疲労回復しすっきりさせるリフレッシュ効果、体内の毒素を出して新陳代謝を高める効果など、さまざまな効果が謳われています。ハーブティーのよいところは、そういった成分が、お湯に溶けて体に吸収されやすい状態で摂取できることもあるようです。そんなハーブの素敵な効果を期待して、日々お疲れのあなた、ストレスがたまっているあなた、たまには気分を変えてハーブティーで癒されてみませんか?
<コラムの担当者>
秋場直純
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