【とっておきのヨーロッパだより】人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!~ガレット編①~
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【とっておきのヨーロッパだより】人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!
第1回 ソバ粉編① |第2回 ソバ粉編② |第3回 お祭り編① |第4回 お祭り編②
フランスでありながら独自の文化を保ちつづけるブルターニュ。このシリーズでは、私自身がブルトン人との交流のなかで知ったブルターニュの魅力を、食文化を踏まえながら少しずつ紹介していきたいと思います。
今回はブルターニュのスペシャリテとして最もポピュラーと思われる2つの「ガレット」について紹介したいと思います。
■ブルターニュの2つの「ガレットGalette」
「ガレットGalette」と聞いて最初に何を思い浮かべますか?
「ガレット」という言葉自体は「丸くて平たいもの」を指します。そのため、キリスト教の公現祭の日に食べる(ガレット・デ・ロワ Galette Des Rois)や、観光地として知られる中世の街ペルージュPérougeのスペシャリテ「ガレット・ペルジエンヌ Galette Pérougienne」、ブレス地方の伝統菓子「ガレット・ブレサンヌGalette Bressanne」など、ガレットと呼ばれる様々なお菓子が各地に存在します。
ですが、なかでも最も高い名度を誇るのが、ブルターニュのソバ粉のクレープ「ガレット・ブルトンヌGalette Bretonne(ブルターニュ風ガレット)」ではないでしょうか?ソバ粉を使用するという特殊性からか、フランス人に聞くと、「ガレット」といえばブルターニュのソバ粉のクレープを一番に挙げる人が多いようです。日本でも1990年代の初頭には専門店が現れ、手軽な割にしっかりと食欲を満たしてくれることから自然と人気を集め、今ではすっかり定着した印象があります。
そんな世界進出を果たしたガレットですが、実はブルターニュには「ガレット」と呼ばれるスペシャリテが実は2つあります。ひとつはこの「ソバ粉のクレープ」。そしてもうひとつは「クッキー」です。どちらも「ガレット・ブルトンヌGalette Bretonne(ブルターニュ風ガレット)」と呼ばれるため状況で判断するしかありませんが、主に西部のバス・ブルターニュBasse Bretagneと呼ばれる地域で、バタークッキーのことを「ガレット・ブルトンヌ」と呼ぶことが多いようです。
(左)そば粉のクレープのなかでも最もスタンダードな、ハムとチーズと卵を乗せて四角く折り返した「コンプレットComplète」
(右)画家のゴーギャンGauguinゆかりの地でもあるポン=タヴェンPont-Aven発祥のバタークッキー『トラウ・マッドTrau Mad』
■「ガレットGalette」と「クレープCrêpe」
ブルターニュにはただでさえ2種類のガレットがあるわけですが、なんとこの「ソバ粉のクレープ」に対する呼び方も地域によって異なります。ブルターニュはかつての言語学的な領域区分に基づいて、西東に分けて紹介されることがあります。この東西の境界線は歴史と共に変化しており、厳密なものではありませんが、主にブルトン語が話されていた西側を「バス=ブルターニュ Basse Bretagne(ブルトン語でブレイス・イーゼルBreizh Izel)」、ガロ語、オイル語が主要言語だった東側を「オート=ブルターニュHaute Bretagne(ブルトン語でブレイス・ユーエルBreizh Uhel)」と呼んでいます。私の個人的な印象ですが、バス=ブルターニュ(西側)は今もなおよりブルトン文化の特徴を色濃く残している地域、いわばディープ・ブルターニュ、そしてオート=ブルターニュ(東側)はブルトン文化への誇りは保ちつつも、レンヌRennesを窓口として常に新しい文化と接触し、より国際化してきた地域だと感じています。
(左)グレーのエリアがバス=ブルターニュ、ブルーのエリアがオート=ブルターニュ 参照地図Oie blanche: Carte de la Haute-Bretagne séparée de la Basse-Bretagne par la limite linguistique du breton selon Francis Gourvil en 1952
(右)バス=ブルターニュでは毎年、ブルターニュ文化をたたえる大きなお祭りが行われる。詳しくはお祭り編をご覧ください
日常的にブルトン語を話しているブルトン人の友人は、「ガレット」という呼称は、レンヌを中心に徐々に広まった新しい呼び方だと話していました。というのも、ソバ粉・小麦粉に関わらず、クレープ全般のことをブルトン語では「クランプースKrampouezh」と言い、もともとは「焼いた生地」という意味の言葉なのです。ソバくらいしか農作物が育たなかった時代には、クレープは当然ソバ粉でつくったものでした。つまりブルトン語圏であるバス=ブルターニュ(西側)では「クレップCrêpe」というと自動的にソバ粉のクレープのことを指します。ただしブルトン語を話さない人の中には、「クレップ・ド・ブレ・ノワールCrêpe de Blé Noir(ソバ粉のクレープ)」と、より正確に呼ぶ人もいれば、「クレップ・サレCrêpe Salé(塩味のクレープ)」と呼ぶ人もいます。それに対し、日本語でも一般に「クレープ」と呼ばれている小麦粉でつくる甘いもののことは「クレップ・ド・フロモンCrêpe de Froment 小麦粉のクレープ」と厳密に表現するか「クレップ・シュクレCrêpe Sucré(甘いクレープ)」と表現します。
一方、オート=ブルターニュ(東側)ではソバ粉のクレープといえば自動的に「ガレット」で、「クレップ」といえば小麦粉の甘いクレープのことを示すことが多いようです。また、「ガレット」はソバ粉でつくった生地そのもののことも指すこともあるようです。
それでは、東西の境界線あたりはどうなのかというと、ヴァンヌVannesの南、モルビアン湾あたりのクレープ屋では、それぞれ「ガレット・ド・ブレ・ノワールGalette de Blé Noir(ソバ粉のガレット)、「クレップ・ド・フロモンCrêpe de Froment 小麦粉のクレープ」とちょうど両方が混ざった形になっていて、ちょっと納得していました。
とはいえ、実際は、これらの名称は提供する側の好みの問題で、オーナーの出身地に左右されることもあれば、ブルターニュ外から来る客がわかりやすいように、あえて区別して表記しているケースも少なからず見受けられます。
ただ、地域に関わらずガレットをメインディッシュとして提供する店のことは総じて「クレプリCrêperie(クレープ屋)」と呼ばれ、 「Galetterieガレットリ(ガレット屋)」とは言わないことからも、やはりガレットという名称が後から広まったものだと感じます。
(左)西のカンペールQuimperにあるクレプリのメニュー。「Crêpe de Blé Noir」と「Crêpe de Froment」で、どちらも「Crêpe」
(右)左半分が東のヴィトレVitréにあるクレプリのもの。ソバ粉のクレープが「Galette」で小麦粉のクレープは「Crêpe」
右半分は東西のちょうど中間あたり、ヴァンヌVannes近郊のクレプリのメニュー。「Galette de Blé Noir」と「Crêpe de Froment」
ブルターニュにはこうしたクレプリが無数にあり、定食屋さんで食事をするように日常的に利用されています。最初にメインディッシュとしてソバ粉のクレープを食べ、食事の締めくくりに甘い小麦粉のクレープを食べて一食とするのが一般的。ソバ粉クレープの最もスタンダードなものはハムとチーズと卵を乗せて四角く折り返した「コンプレットComplète」と呼ばれるものですが、店ごとに様々な具材を包んだり乗せたり趣向を凝らしたオリジナルメニューがあるので、メニューを眺めるだけでも楽しくなります。
また、店によっては小麦粉ではなくソバ粉の生地でつくった甘いクレープを出していることもあります。値段的にも、ソバ粉のクレープが、コンプレットで7〜10ユーロ、甘いクレーブは3ユーロ前後とリーズナブルなので、気軽に利用できるのも魅力のひとつ。もちろん、食事のお供にはブルターニュ産のシードルCidre(リンゴの発泡酒)を!シードル専用の「ボレBolée」と呼ばれる陶器の器でいただくのが主流です。クレプリでの食事体験はこちらをご覧ください。
(左)甘いクレープのトッピングの一番人気はバターと砂糖のみですが、ブルターニュの塩バターキャラメルもおススメ
(右)シードルはやはり陶器のボレでいただきたいもの。お店それぞれに赴きのあるボレを用意している
■どちらも美味しい、モチモチしっかり生地とパリパリ薄焼き生地
実は、ソバ粉のクレープは、呼び方だけでなく、生地の食感も地域によって違います。これはあくまで個人的な感覚ですが、「ガレット」と呼んでいる場合の生地は一般的に厚みがあって、ソバの風味が強く、焼きたてはパリっとしていますが時間がたつにつれモチモチした食感になってくる感じがします。色も濃い茶色で1枚食べれば満腹になるくらい食べ応えがあります。
逆に「クレップ」と呼ばれている場合の生地は小麦粉のクレープと同じくらいか、さらに薄く、パリパリでサクッとした食感です。色も東のものよりも淡く、何枚でも食べられると思わせる軽さがあります。以下の2つの写真からその質感の違いが伝わるでしょうか?
(左)東のサン・マロSaint-Maloにあるクレプリのハム・卵・チーズ・マッシュルーム・生クリーム・燻製ベーコンがトッピングされた「Galette」
(右)西のカンペールQuimperにあるクレプリのハム・卵・チーズ・マッシュルーム・ゲメネのアンドゥイユ(注1)がトッピングされた「Crêpe de Blé Noir」
なかでも特に、ブルターニュ最西部、カンペールQuimperを県庁所在地とするフィニステールFinistère県のものが特に薄い気がします。同県で毎夏行われるブルターニュ文化のお祭り「フェスティバル・ド・コルヌアイユFestival de Cornouaille」の屋台で見かけたソバ粉のクレープも、カンペールの西25kmにあるイワシ漁で栄えた港町ドゥアルヌネDouarnenezの市場で見かけたものも、その繊細な生地のあまりの薄さに驚きました。ソバ粉は小麦と違いグルテンを含まないので、ムラなく薄く伸ばすのは至難の技なのですが、大量の生地を次から次へと焼き上げていく様は感動的でもあります。
大きく東西で分けてお話してはいますが、もちろんこれも各店のクレープ種の配合によって実際は千差万別です。フィニステール県内で最も人口の多いブレストBrest在住の友人は、どちらかと言うとモチモチしっかり生地に慣れ親しんでいると話していましたし、カンペール市内にも、厚みのあるクレープを提供する店もあります。ですが、ブルターニュに来たら、この2つの食感の違うソバ粉のクレープを、ぜひどちらも体験してほしいと思います。
(左)カンペールで開催された「フェスティバル・ド・コルヌアイユ」で見かけたクレプリの屋台
(右)ドゥアルヌネ の屋内市場にあるクレプリ。焼いた生地だけを買いに来る客で行列ができる人気店
■一家に2台!?家庭用クレープ焼き器「ビリッグBilig」
もはやブルターニュのソウルフードといっても過言ではないこのソバ粉のクレープは、もちろんクレプリでしか食べられないものではありません。そう、ブルターニュの多くの家庭に、家庭用のクレープ焼き器があるのです!例えるならば、大阪の一家に一台あると言われる、たこ焼き器のような感じでしょうか。フランス語では「クレピエールCrêpière(クレープ焼き器)」とか「ガレティエールGalettière(ガレット焼き器)」と言われるものですが、ブルターニュでは一般的に「ビリッグBilig(もしくはBillig)」と呼ばれています。これはブルトン語でクレープ焼き器を指す「ピリッグPillig」がフランス語化したもので、フィニステール県ではそのまま「P」の発音で「ピリッグ」と呼ぶ人もいます。
このクレープ焼き器の生みの親と言われているのが、1949年創業の『クランプース社Krampouz』。それまでは暖炉の薪の上に円形の鉄板を乗せて焼いていたクレープでしたが、ガス式のビリッグを発表するや否や、瞬く間に普及したそうです。その後、ガス式よりも利便性の高い一般家庭向けの電気式商品を次々と開発し、現在フランスではビリッグ市場をほぼ独占しています。そのため、ビリッグのことをメーカー名で「クランプース」とか「クランプーズ」と呼ぶ人もいるようです。
(左)家庭用の電気式のビリッグ。ボディがステンレス製のものが多いなか、まれにカラフルなシリーズもある
(右)業務用のビリッグ。家庭のものよりも骨格がしっかりしていて電力も強い
さて、実際にブルターニュの友人の家庭でこのビリッグを使ってソバ粉のクレープを焼いてもらいました。2つの別の家庭で焼いてもらいましたが、まず驚いたのは、なんとどちらの家庭も同時に2つのビリッグを準備したことです。理由を聞くと、2つのビリッグは温度を変えて設定し、片面を焼いた後、ひっくり返してもう一面も焼き、生地をパリパリにするためなのだそうです。ちなみにトッピングは後に移した方のビリッグで行います。クレプリでは、同じビリッグ上でひっくり返し、盛り付けまでしているのを見たことがありますが、その方が効率的と言うわけですね。一家に一台ではなく、一家に2台というのが「通」なようです。
(左)写真の中央の筒状のものは自分で布をつめてつくった自家製油引き。鉄板にうっすら程よく油を引くのに最適
(右)かなり年期の入ったビリッグ。家族団らんの食事や、友人をもてなすときによくクレープをするとか
先に述べたように、ソバ粉の生地を均一に伸ばして薄く焼くのは非常に難しいはずなのに、友人たちは、いとも簡単にあっという間に焼きあげてしまうから驚きです。同じブルターニュでも、それぞれ東西まったく別のエリアに住んでいる友人ですが、どちらもとても薄焼きでした。東の友人は母方が西のバス=ブルターニュ出身だそうで、やはり子供のころから薄くいた生地に慣れ親しんでいるそうです。
ソバ粉のクレープも、小麦粉のクレープも、お腹いっぱいになるまでたっぷりと食べて、それでもなお余ったクレープ種は、使い切るまで焼いてしまいます。それを綺麗に畳んだり重ねたりして常温で保管し、早ければ翌日の朝食でジャムやバターをつけて食べたり、またフライパンで暖めておやつにしたりします。そういえば、スーパーでもすでに焼いてある生地だけが売っていたり、クレープスタンドに生地だけ買いに来ている人を見かけることがあります。クレープがパンと同じくらい、ブルターニュの食卓に定着しているということが分かります。
(左)ナイフを入れると細かく砕けるくらいにパリパリの生地。軽いので何枚でも食べてしまう
(右)翌日、朝食に出てきた前日のクレープ。パンと同じようにバターや自家製ジャムをぬって、常温でもおいしくいただける
■職業としてのクレープ職人「クレピエCrêpier」
それでは、最後にもう一つ、ソバ粉のクレープがブルターニュの人たちの生活と切っても切れないものだということを裏付けるブルターニュならではのものを紹介します。それは、クレープ職人養成学校です。クレープ職人として独立したり、クレプリでプロとして働く人材を育てる学校のことです。現在フランス各地にあるほぼ全ての学校が私立のプライベートスクールですが、そのいくつかは公的機関の研修基金が認める「職業に必要な技術を身につける研修プログラム」を提供しています。
今回私は、ブルターニュの首都とも言われるレンヌにある『ウー・エム・セー・エコール・メートル・クレピエEMC² -Ecole Maître Crêpier』を訪問しました。フランス北西部の大手新聞社が発行する雑誌の別冊として大々的に特集されたこともある学校で、ブルターニュならではのノウハウを広くプロモーションするために結成された企業組合『プロデュイ・アン・ブルターニュProduit En Bretagne(ブルターニュ製)」にも加盟しています。食の発展を目的としてレンヌに設立された、料理学校ほか複数の研究機関から成る食の複合研究施設『ソントル・キュリネール・コントンポランCentre Culinaire Contemporain』の一角にあります。
(左)この3階建ての近代的なビルの最上階に 『ウー・エム・セー・エコール・メートル・クレピエ』がある
(右)新聞社『ウエスト・フランスOUEST FRANCE』の発行する雑誌『ブルトン・オン・キュイジーヌBreton En Cuisine』別冊の特集記事
前身はレンヌの南40km、モール・ド・ブルターニュMaure-de-Bretagneにある製粉会社『グループ・セルベールGroupe Celbert』が、1989年にレンヌ設立した学校でした。プロのクレープ職人を育てる施設をつくってほしいという数々のクレプリからの要望に応え、当時の商工会議所の職業訓練開発担当責任者の援助を受けて開校するや否や、初年度から60名にのぼる受講者が集まったそうです。その後1992年に株式会社となり、1996年には姉妹校としてピッツァ職人を育てる『エコール・メートル・ピッツアイオロEcole Maître Pizzaïolo』を立ち上げました。そして、正社員8名の小さな学校ではありますが、2013年、この最先端の設備を備えた新天地に移転し、他の研究機関や企業と連携してさらに活発に活動を続けています。年間の受講者数はおよそ300人。その90%はフランス国籍ですが10%は外国からの参加者だそうです。
(左)ビリッグ10台を備えたピカピカの実習室。この裏にもう1つピッツアの実習が可能な窯を備えた実習室と研究用ラボがある
(右)大きなモニターを備えた講習室。ここでセオリーや衛生、経営の授業が行われる
1回のコースは10名(最大人数12名)で、計70時間の授業を10日間かけて行います。ハンズ・オン形式の実習のほかセオリーの授業もあります。そのほか、器具や設備の使い方から、様々なトッピング、生地の応用法、材料であるソバ粉や小麦粉の種類や特性、開業を前提とした衛生面に関する授業まであるそうです。この日は偶然にも、コース初日だったようで、新しく登録した受講生たちが、先生の立ち合いのもと、ドキドキしながら基本的な生地を焼いていました。なかなか先生の手本のようにうまく行かず、悪戦苦闘している姿がほほえましかったです。ちなみにこの学校ではそば粉のクレープを「ガレット」と呼んでいました。
(左)手際よく、スイスイとクレープ種を延ばしていかないと、すぐに穴ができてボロボロの生地になってしまう
(右)受講者の年齢は男女とも意外と高く、同校の資料によると平均年齢は43歳だとか
ここで、専属の技術スタッフ3名のうちの一人、トマ先生にガレットについて聞いてみました。
「ガレットはシンプルな生地をつかう世界。海外から受講者がやってくるのも、基本的な知識と技術を身に着ければ、各国の様々な形態の食のシーンに適応できる食文化だからだと思います。だからこそ応用が大事です。ここでは、ガレットだけでなく、同じ生地をつかった様々なおつまみやスナック、食事についても伝授していきます」
(左)専任講師のトマ・ナルシスThomas NARCISSE氏。新しいメニューの試作をしたり、仕上げをしたりする研究用ラボにて
(右)目の前であっという間にガレット生地をつかったおつまみ、トマトのマリネのガレットカナぺをつくってくれた
また、この学校には、いわゆる実践用のシミュレーション・レストランがあり、一般のお客様を有料で迎え入れています。カウンター席のほか、最大30席のホールがひとつと、小さなテラス席もあります。受講者は最初の1週間で基本的な技術を身に着け、2週目には実際の客を相手にクレプリのシミュレーションを行います。受講生のほとんどが、受講後すぐに実際の現場に入るそうですので、ここは、まさに短期間でクレプリのすべてを学べる学校といえます。
この日もクレプリはオープンしていて、お昼時になると予約をしていた客が次々とやって来ました。客層は近隣のオフィスで働く人たちや、常連の家族連れやご夫婦が多いそうです。
(左)主にレジやドリンクのサービスに使用しているカウンター
(右)天気のよい日はテラス席とテラスに面したスペースにテーブルが出る。奥には30席のメインダイニングがある
私もしっかり食事をいただいて来ました。今日はコース初日ということで、受講生がつくったクレープをいただくことはできませんでしたが、気持ちのよいテラス席で、トマ先生作の美しいランチセットをいただきました。日替わりのソバ粉のクレープと小麦粉の甘いクレープ、そして小さなカラフェでシードル1/4本(約185ml=ワイングラス1杯半くらい)がついて、なんと10.90ユーロ。※
お腹もしっかり満たされるボリュームです。学校とはいえ、こんなにリーズナブルでおしゃれなクレプリなら、常連さんができるというのも納得。
(左)燻製サーモン、ニンジンと長ネギのバターソテー、シブレット入りレモンクリームがトッピングされたガレット 「ラ・ノルヴェジエンヌLa Norvegienne(ノルウェー風ガレット)」
(右)ハチミツにつけたイチゴとチョコレートのソース、アーモンドの薄切りがトッピングされたクレープ「ラ・モランゴLa Morango(イチゴガレット)」
いかがでしたか?今回の取材で、まずはブルターニュにおける食事としてのクレープの浸透度と、クレープ職人の需要の高さを実感することができました。また、「人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!」シリーズのソバ粉編では、素材であるソバ粉そのものに目を向けて紹介しましたが、その素材を活かす職人そのものを育てるということも大事なのだと改めて感じました。
ブルターニュを訪れる機会があれば、いろんなクレプリを訪ねて、トッピングも食感も違う様ざまなクレープにトライして、ぜひお気に入りのクレプリを見つけてください。
※1ユーロ=132円(2018年9月26日現在)
(注1)ブルターニュ南部、モルビアン県の町ゲメネ・シュール・スコルフ特産のソーセージ状の豚肉加工品。豚の大腸に大腸を差し込んで作られるため、切り口が同心円状になる。
取材協力:
EMC² Ecole Maître Crêpier, Pizzaïolo et Cuisinier
8 Rue Jules Maillard de la Gournerie, 35000 Rennes
+33 (0)2 99 34 86 76
https://www.ecole-maitre-crepier.fr/
引用地図:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Carte_Haute-Bretagne.svg?uselang=fr
■ブルトン語の読みの表記について
本コラムではMouladurioù Hor Yezh社発行の辞書「GERIADUR BIHAN BREZHONEG-GALLEG GALLEG-BREZHONEG」の発音記号に基づいてカタカナ表記にしています。
ブルターニュに関するコラム
ガレットについて http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/galette.html
カンカルの牡蠣について http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/oyster.html
有塩バターについて http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/butter.html
ブルターニュのカレー(香辛料)について http://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/karigosse.html
カンペール焼きについて http://www.tsujicho.com/column/cat/post-392.html
もご参照ください。
担当者情報
- このコラムの担当者
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佐藤 重文 SATO SHIGEFUMI
■現職(肩書き)
辻調グループフランス校 教務部 運営部長■出身校
京都外国語大学 フランス語学科■経歴
趣味は海外旅行、カバンひとつでどこにでも行っちゃいます。 特技はあまり寝なくても平気なこと。ショートスリーパーと人はいいます。 おいしいお酒とおいしいもの、飲み屋めぐりが大好きです。 なぜだか、ブルターニュ、カタルーニャ、ケルト文化が気になって仕方がありません(笑 - バックナンバー