【半歩プロの西洋料理】 フレンチデリ
デリカテッセン delikatessen という言葉は、みなさんご存知だと思います。ドイツ語で調理済み食品、またはそれを販売する店を意味します。あえて日本語に置き換えるとすれば「惣菜屋」といったところでしょうか。
日本ではデリカ、デリなどと略されていることもありますが、そのようなヨーロッパ風の「惣菜屋」を最近ではスーパーや百貨店のコーナーでよく見かけますし、専門店も増えています。
こうしたお店で欠かせないのが豚肉(食肉)加工品です。フランス語ではシャルキュトリ charcuterie といいますが、ベーコンやソーセージだけでなく、パテ、テリーヌなども含まれます。もともとは豚の肉や内臓を中心に、その他の家畜や家禽、ジビエの肉などを保存するために作られたもので、塩漬けやコンフィ(脂煮)、くんせいなど様々な加工品があります。
本場のヨーロッパでは、各地にその土地ならではのサラミやパテなどがあります。味付けや形、調理工程の違いに目を向けてみても楽しいですね。
豚肉(食肉)加工品は保存がきくものが多いです。今回は、中でも塩漬けやコンフィ(脂煮、脂漬け)を使ったフランスの地方料理をご紹介します。
まず、フランス南西部のカスーレ Cassoulet という料理です。フランスのラングドック=ルシヨン地方やミディ=ピレネー地方の名物料理で、白インゲン豆と豚のバラ肉や皮、ソーセージ、あるいは羊、がちょう、鴨の肉などを土鍋に入れ、長時間煮込んで作る料理です。地方や家庭によって様々な組み合わせがあります。
カステルノダリー、カルカソンヌ、トゥールーズの3つの町のカスーレが特に有名です。カスーレ界の首都と自負するカステルノダリーでは、豚の皮、背肉、スネ肉、肩肉、モモ肉、場合によって鵞鳥のコンフィ、トマトを使います。カルカソンヌでは羊のモモ肉や季節によってはヤマウズラが入ります。そしてトゥールーズ風カスーレは、鴨のコンフィとソーセージが使われます。僕は鴨のコンフィが好きなので、このトゥールーズ風カスーレが一番のお気に入りです。それぞれの地区が本家本元を自称していますが、どのカスーレが本家本元なのか、500年以上経った今でもわかっていません。
伝統的なこの料理を守るために、アカデミー・ユニヴェルセル・デュ・カスーレ Académie Universelle du Cassoulet というカスーレの協会ができるほどで、多くのフランス人に愛されている料理だということがわかります(ちなみに、私がはじめてカスーレを食べたのは、この協会の創設者の一人であるアンドレ・パッション氏のお店ででした)。
ご家庭でカスーレを作られる際は、ソーセージやベーコンだけでも十分おいしく食べられます。人数分を一気に焼くと時間がかかりますので、一人分ずつ焼いていくことをおすすめします。また、オーヴンで焼く際には、必ず耐熱性の容器を使ってくださいね。
次にご紹介するのは、ピペラード。スペインとフランスの国境近くの"バスク"という地方の伝統料理です。トマトやピーマン、玉ねぎ、にんにくと、ピマン・デスプレット(エスプレット唐辛子)で作る、野菜の煮込みです。卵料理や生ハムに添えて食べることが多いです。
バスクの特産はまず、生ハムです。バイヨンヌハム jambon de Bayonne が有名で、あとはスペインのハモン・セラーノや、一躍有名になった、ハモン・イベリコなどがあります。
そしてパプリカ、トマトです。"バスク風"という料理がありますが、"バスク風"とつくとパプリカ、トマト、生ハム、にんにくが入ります。
また、バスク地方にあるエスプレット村は、ピマン・デスプレット(エスプレット唐辛子)を生産していることで有名です。唐辛子の中ではフランス国内で唯一、原産地管理呼称(AOC)、原産地保護呼称(AOP)によって認定されています。この村以外で生産されたものは、「piment d'Espelette = ピマン・デスプレット」 を名乗ることができません。唐辛子というと辛味の強いものを想像されるかもしれませんが、私たちの身近にある一味唐辛子などに比べると、辛味はあまり無く、ほのかに甘味もあって、香りのいい唐辛子です。
シャルキュトリと夏野菜の煮込みの組み合わせを、ぜひお楽しみください!