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食のコラム&レシピ

【半歩プロの西洋料理】 ハンバーグ考、って程たいしたものではないが・・・

01<西洋>半歩プロの西洋料理

2012.08.22

<【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?>

前回(6月)、「トマトソース」についての昔話をしながら「洋食屋さんの料理」をいくつか紹介した。洋食屋さんのメニューと言えば様々あるが、やはり外せないもののひとつにハンバーグがある。そこで今回はハンバーグについて少しお話を広げてみたいと思う。

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やっぱり定番はハンバーグにデミソース

ハンバーグの名前は、ドイツのハンブルグという都市に由来していると一般によく言われている。13世紀にヨーロッパを席捲した「タタール人」は、硬い馬肉を細かくたたいて生の状態で食べていた。「タルタル」と呼ばれるようになったこの料理からヒントを得て、ハンブルグの労働者がひき肉料理を作るようになり、これが、19世紀以降にドイツ系移民によってアメリカにもたらされて「ハンブルグ風のステーキ」として広まったとされている。日本にも明治以降に様々な西洋料理と共に「ジャーマンステーキ」の名で伝わったといわれているが、庶民が口にすることは少なく、広く一般に普及したのは戦後、1960年以降の高度経済成長期に安価な挽き肉を使った栄養満点の家庭料理として紹介されて以降だと考えられている。

ヨーロッパ社会では古くから挽き肉を使った料理が知られていた。例えばソーセージは挽き肉を腸やその他の内臓に詰め、乾燥させてそのまま、あるいはボイルして、焼いてと様々な方法で食べられていた。また、今ではハンバーグの生地の応用料理として捉えられているミートローフなどはその原形ともいえるものが古くから食べられていたようで、硬い肉を挽き肉にして、様々な混ぜ物をして焼いたものはローマ時代の書物にも載っている。

硬ければ刻んでおいてから食べるという単純な発想は洋の東西を問わず自然に発生してくるものなのかも知れない。

今でこそ、料理のレシピ本が巷にあふれ、インターネットでも料理関連のブログが様々あり、情報に事欠かないようになったが、一昔前は学校によく一般の方からの料理に関する質問の電話があった。料理を作っている真っ最中にどうにもならなくなって切羽詰っていたり、本当にまったくの初心者であったり、とにかく何故?が続く知識欲にあふれた質問であったりと様々なものがあり、学校の授業とはまったく違った意味で大変なことのひとつであった。

そんな中で聞いたハンバーグについての素朴な質問をいくつかピックアップしてみよう。

まず多いのは、「肉は何を使うか?」と「配合や割合」の質問である。それに続いて多かったのは「しっかりと練るというのは一体どのくらい練るのか?」という質問、あるいは焼く前に「どんな形にまとめるのか?」、焼くときの「火加減は一体どうするのか?」といったあたりに話しが集中していたように記憶している。今回は「肉は何を使うか?」、「肉の割合」、「練り方」あたりに話の中心をおいて見たいと思う。

肉は基本的に牛肉と考えるとよいと思う。元々は馬肉の料理であったという説もあるようだが、日本では一般的ではなく、どちらかと言えば高級な食材になるので、同じ赤い肉である牛肉をベースに考えてみたい。

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フランス人のランチにはハンバーグではなく、ステック・アッシェ

もし、肉の味や食感を大事にしたければ牛の挽き肉100%で何の混ぜ物もしないのがよいだろう。例えばハンバーグを「子供の食べ物」とみなしがちなフランスでも「ステック・アッシェ」と呼ばれる牛挽き肉を使ったお手軽で安価なステーキが存在していて、仕事の合間に食べるランチとしては広く認識されている。フランス人はミディアムであったり、レアであったりと様々な焼き方で食べるのだが、日本の食肉事情を考えるとたとえ牛肉100%でも完全に火を通しきることが大切だと思う。

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左側は火が通りきっていない状態なので、どんなにいい肉を使ってもハンバーグとしては×を付けなければいけません

完全に火を通してしまうとどうしても肉が硬く焼きしまって水分や脂分が失われやすいので、全体の2~3割程度は脂身にするとよいだろう。水分をなるべく保つためには、焼く前の形を薄くして手早く焼き上げることが大切である。食べたときの食感を柔らかくするためには生パン粉などの混ぜ物を増やすことを考えてもよいかもしれない。

ハンバーグでは牛肉と豚肉を配合するのが一般的だがその割合は様々である。多くの場合は牛肉がメインで、その何割を豚肉にするか?という論議になることが多い。

私としては、牛肉と豚肉を組み合わせて牛肉の味わいをはっきりと残したいのであれば、豚肉の量は牛肉の量の1/3以下にするとよいと考えている。より牛肉の味わいを強調したいときには「4:1」まで牛肉の比率を上げることにしている。また、冷めることを前提にしたお弁当や、長時間煮込んで、肉が固く締まってから柔らかくもどる煮込みハンバーグなどの場合は、豚肉のにおいが気にならないように香味野菜などを補って半々の割合にすると、冷めても、長時間煮込んでも柔らかく食べることが出来る。つまり、焼いて火を通し「作ってすぐに食べるハンバーグは牛:豚を3:1」に、煮込んで食べたり、お弁当にしたりして「作ってすぐに食べないハンバーグは牛:豚を1:1」にするのが、私がハンバーグを作る際の基本的な肉の配合となるのである。

最近でこそ、スーパーの店頭において「牛挽き肉」、「豚挽き肉」のパッケージが並ぶようになったのでそれを利用するとよいが、まだまだ関西では「豚肉」のイメージがよくなく「肉=牛肉」と考える消費者が多いため、店頭に並ぶのは「牛挽き肉」と「合い挽き肉」の二種類であることが多い。この場合ハンバーグには合い挽き肉を選択し、一度作ってみてから配合を考えてもよいだろう。もちろん合い挽き肉は店によって牛肉と豚肉の比率が違っていたり、日によって肉の部位が変わっていたりと品質が安定しないこともあるのだが、商品の回転が速く安定して販売が行われている店舗は品質が一定しているので、そうしたお店で売られている合い挽き肉だけを使って、加える混ぜ物によって調整するとよいと思う。

混ぜ物に関しては細かく話すと長くなるので簡単にまとめよう。

・「野菜」は味を増して肉の臭いを押さえ、焼き上がりを柔らかくする

・「卵」は生の生地を柔らかくし、焼き上がりをしっかりとひきしめる

・「生パン粉」は生の生地を固くし、焼き上がりをふんわりとさせる

・「牛乳」は生の生地を柔らかくし、焼き上がりをしっとりとさせる

それぞれの役割を考えてレシピにとらわれない分量で作ると作業がしやすく、オリジナリティのあふれたハンバーグになることだろう。

次に練り方であるが、レシピ本の多くには「冷やす」と「しっかりと練る」の二つが書かれている。冷やすことはとても大切で、肉の温度が10℃を超えるとつながってひとつにまとまる力が一気に失われ、出来上がりのまとまり感が損なわれてしまうし、もちろん衛生上も問題がある。「しっかり練る」の定義がわからないという質問が多いが、しっかり練れば練るほどつながりが生まれ、なめらかで固くしまったハンバーグになる。ただし、練れば練るほど焼き上がった生地は縮みやすくなり、脂肪分や水分が失われやすくなるので、しっかりと寝かす必要がある。そこで私がお勧めするのは肉の全分量の1/4から1/3をしっかりと練ってそれを使って残りの肉をつなぎ合わせるという方法である。これならば、しっかりと練った部分は全体に分散されてしまうので、休ませる時間が短くてすむのだ。

手順は簡単で、肉の一部をしっかりとすりつぶすように練り、つなぎや調味料類を加えてベースにし、残りの肉を軽く混ぜてから、最後に軽く練り合わせるというもので、詰め物入りのソーセージを作るときの手法をハンバーグに応用したものである。

私の推奨する練り方

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ゴムベラですりつぶすようにする        氷で冷やし続けるのが、大切

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ベースを作ってそこに残りの肉を        軽く混ぜるだけでなめらかにつながる

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ゴムベラで潰した生地(左)は脂がなじみなめらか、手でひたすら混ぜても(右)脂は塊のままで、なじみにくいようです

最後に焼くことに関してであるが、焼く前の形はとにかく薄くして、短時間の加熱で中心まで火が通るようにして水分が失われにくいようにすることが大切である。ただし、簡単に裏返すことが出来ることも肝心である。それとよく言われる「焼くと膨らむので中央をくぼませる」作業をすると、出来上がったハンバーグの形も悪くなり焼きムラが生まれることが多い。私は表面を平らにして1cm間隔で包丁の背中などで格子目を入れてから焼いている。こうすると膨らみが全体に分散して表面が平らに焼けるのだ。

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お勧めは薄く均等な厚さ(1.5cm程度)。平らにして格子目を入れましょう

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格子を入れるのと、中央をくぼませてから休ませて焼くのとではこんなに違いが出ます

ハンバーグを焼く際は「焦がさない程度に強い火で一気に焼く」のが理想であるが、鍋蓋やオーブンを使用することも交えて「短時間で中心まで火を通す」ことを心がけることを一番においてもらうとよいだろう。

ハンバーグの生地はひとつ自分のベースを作っておくと、混ぜ物の特性を利用して工夫さえすれば様々な料理にアレンジできるので、料理のレパートリーを一気に増やしてくれるもののひとつです。単純に見える料理を丁寧に作り、しっかりと身につけることこそが「半歩プロ」なのかも知れない・・・そう、思いませんか?

*お知らせ:2012年6月に公開したコラム、「トマトソースよ、何処へ行く?」に、「タルタルソース」のレシピを追加しました。