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食のコラム&レシピ

【半歩プロの西洋料理】わが「もったいない」考

01<西洋>半歩プロの西洋料理

2014.04.23

<【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?>

 

料理を職業として選択すると、料理の「美味しさ」や「見た目」対して、一般家庭とは違った感覚が生まれてくる。一般家庭において、料理は家族の健康や経済性を一番に考える必要がある。仕事を持ちながら一家の台所を預かる立場であれば「いかに手早く短時間に出来上がるか」も大切な要素だろう。美味しさや出来栄えの美しさは、それらがクリアされた上でプラスされる、いわば加点要素のようなものだ。もちろん、料理の出来栄えや美味しさに大きな比重をおく料理好きのアマチュアも多くいることは事実だが、それでもやはり、「絶対に欠かせない要素」とまでは言えないだろう。

 

一方、プロの料理では美味しくて見た目がきれいであるのは当たり前で、一歩進んで「どのような食材を選び、どのように提供するか」が腕の見せ所となる。最近では、新しい調理法を用いてこれまでにない美味しさを追求したり、美しい盛り付けにこだわった料理を提供することで、特色を出そうとする店も増えている。しかし、見た目や味にこだわるほど、本来なら食べることが可能な部分まで取り除いてしまうという、「もったいない」としか言いようのない事態が生じる。

 

取り除かれた部分はいったいどうなるのかというと、もちろん捨ててしまうのではなく、たいていの店ではランチタイムのサービス商品にうまく利用したり、従業員の食事(いわゆる賄い)に使ったりするのだが、レストランを経営している卒業生の話によると、「お客様に出さない部分を賄いに使っている」という話を聞いた従業員の親が、「うちの子供にごみを食べさせるのか」と言って店に乗り込んできたことがあったそうだ。私は、たとえお客様に出さない部分であっても、ごみではなく食べ物だと認識することはとても大切なことだと思っている。しかし、世の中にはそうは感じない人もいるのかもしれない。食に携わる人間として悲しい話だった。

 

私が料理の仕事につく以前の、30数年前の我が家では、野菜サラダなる食べ物は存在せず、刻んだきゅうりやレタス、キャベツにソースやマヨネーズをかけて食べる程度であり、取り除くのはせいぜい芯や色が変わって傷んだ部分ぐらいであった。しかし、料理の仕事を続けていると、「レタスは芯だけでなく固い部分や色の濃い部分を取り除いたほうが美味しいし、きれいだ」と、商売として料理を提供するわけでもないのに丁寧に掃除してしまう時もある。
「それ、どうするの」と家人に意見されたりするが、レタスの切れ端のみならず、すべての野菜くずは、味噌汁をはじめとして立派なおかずになっている。野菜の切れ端の様子を見て、水で程よく煮て即席のだしの素を入れるか、作り置きしてある昆布水で手早く野菜を煮るか、刻んで冷凍してある薄揚げと一緒に煮るかのヘビーローテーションである。レタスもサニーレタスもきゅうりもキャベツもトマトでさえも最後に味噌を入れれば何とかなってしまうし、固いキャベツの芯をステーキのように焼いたり、クレソンの茎だけをお浸しや胡麻和えにしても十分なおかずになるのだ。

 

クレソンの茎、アンディーブの芯、ポロねぎの色のついた部分と手羽先の水炊き・・・懐かしい本気モードの夜食
クレソンの茎、アンディーブの芯、ポロねぎの色のついた部分と手羽先の水炊き・・・懐かしい本気モードの夜食

 

フランスで働いていたころは、外食&ペルソネル(賄い)の食生活では野菜不足となることが多かったので、こういった野菜くずをせっせと集め、夜食に使うことが多かった。一番重宝するのは、クレソンやほうれん草などの茎(茎も食べることができるのに使わない)や、アンディーブなどの芯(サラダ菜の中でも葉に比べて芯が大きい)であった。クレソンンの茎とアンディーブの芯、ローストした鴨や鶏の手羽先(フランスでは最近になるまで手羽先や手羽中を食べるのは一般的ではなかったようで、ほとんど捨てていた)をもらって帰ってそのまま水炊きにしたり、クレソンの茎とトマトの種を軽く炒めたりして日々の野菜不足を補うことが多かったのだ。中でもクレソンとトマトの種のソテーは結構好みに合って、仕事終わりのビールのあてに重宝した。

 

1袋100円、上にある写真のクレソンの2束分以上入っているのでお徳用・・・ただ掃除は面倒
1袋100円、上にある写真のクレソンは2束分以上入っているのでお徳用・・・ただ掃除は面倒

 

今回はそんなフランス時代の思い出のつまった料理をご紹介する。クレソンは日本ではあまり一般的な野菜ではなく、スーパーなどでは中々入手できないが、春先から夏にかけて、道の駅や野菜の即売所ではビニール袋にぎっしり詰まった「成長しきったクレソン」が売られているので、それを使ってもらえばと思う。たっぷりと買い込んできて、優しい枝先はサラダに、少し太い部分はお浸しに、固くて太い茎の部分はトマトと一緒にソテーするか鍋に入れる形で使う。そこそこの大きさの袋にぎっしりとクレソンが入って100円というものを3つ4つ買ってくると、1週間足らずの間は何かしらの形で夕食の食卓をにぎわせてくれるので、ぜひとも余さず使っていただきたい。

 

きれいに長さの揃ったまっすぐなクレソン(20束入り)1束あたり200~250円と高価な食材
きれいに長さの揃ったまっすぐなクレソン(20束入り)1束あたり200~250円と高価な食材

 

今回のレシピ撮影にあたって、クレソンの茎だけとかアンディーブの芯だけを買うわけにもいかないので、できるだけ暴れん坊の成長しきったクレソンを探してもらったのだが、残念なことに季節が少し早かったのか(3月に撮影)、ごらんのようなまっすぐで長さの揃ったクレソンが木箱に入ってやってきてしまった。
こんなにきれいなクレソンでも、レストランの料理として皿に載るのは全体の長さの1/3程度である。葉っぱしか食べないものだと思っている人には「もったいない野菜」の代表格に見えるかもしれない。しかし、すべて食べつくす私にとっては捨てるところのない野菜の一つであることも確かである。