【日本料理一年生】 32時間目 おから(朝食メニュー5)
私の実家は商家で忙しかったため、祖母が家族の食事を作ってくれていました。だから私にとっては世間で言う「おふくろの味」は「おばあちゃんの味」なのです。その祖母の料理の中で、今でも懐かしく、時々無性に食べたくなるのが、「きらずの炊いたん」です。「きらず」とは「切らずに料理ができる。」という意味です。漢字では「雪花菜」と書き、「おから」のことをいいます。また、「炊いたん」は関西の方言で「煮たもの」という意味です。
おからは、豆腐を作るときの副産物です。豆腐は、浸水させた大豆に水を加えながらすりつぶします。これを「呉(ご)」といいます。この呉を加熱して布漉しして出てきた液体が「豆乳」で、布に残ったのがおからです。「豆乳」が温かいうちに「にがり」を加えて凝固させたものが豆腐です。
だから、おからは「豆乳」の絞りかすという意味で、お茶を出した後の茶がらの「がら」と同じ意味の「から」に接頭語の「御」をつけたもので、宮中の女官たちが使った女房詞(ことば)の一つです。ただ、「からっぽ」の「空」に通じるため縁起が悪いとして、「卯の花」と呼ぶこともあります。
「卯の花」とは、「卯月」に咲く花という意味で、旧暦の4月ごろ可憐な白い花を咲かせる「空木・うつぎ」の花に似ているところから名づけられたようです。
おからは、できあがる豆腐の量に比べると、かなりたくさんできてしまいます。ところが、品質の劣化が早くて保存がきかないため、脱水して保存性を高めたり、家畜の飼料にしたりしています。また最近では、産業廃棄物として廃棄されないように、他の材料に添加して新しい食材に再加工するような研究もされているようです。
料理屋ではおからの煮物は、お惣菜的な感じがするため、お出しすることはほとんどありません。でも、「おから」に、卵黄や調味料を混ぜ、湯煎にかけて煎り上げた「煎り卯の花」と、鯵や鯖といった背の青い魚に塩をあてて、酢でしめた「生寿司」を和える「卯の花和え」を卯月(4月)の献立に加えることがあります。
また金沢地方では、煮たおからを背中に詰めて蒸した2尾の鯛を、腹を合わせて盛り付けた「唐(から)蒸し」を結婚式の料理としてお出しすることがあります。
今回は、松島先生が私の大好物の「きらずの炊いたん」(一般には「五目おから」などと呼ばれる)を紹介してくれます。私と同世代のおじさんたちは、安価で植物繊維をたっぷり含み、身体にもよいおからに「おふくろの味」を感じ取る方も多いと思います。おからを朝から食べて、一日の活力元にしてください。
<このコラムの担当者>
タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
小谷良孝
辻調の御言持(みことも)ち
重松麻希
<このコラムのレシピ>
おから