【それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪】 鉄火巻き
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もう何十年も前のことなのに、
自分が学生だったころをありありと思い出させてくれる料理があります。
●鉄火巻き●
高校を卒業して初めて大阪に出てきた僕は、
中之島にあった寿司屋に住み込みで働きながら、毎日元気に辻調に通っていました。
中之島は金融・証券系の会社が立ち並ぶビジネスの中心地。
景気が良かったので、夕方になると仕事を終えたサラリーマンたちが飲み歩く姿をあちらこちらで見かけたものです。
当時の娯楽の一つに、麻雀(マージャン)があります。
雀荘って分かりますか?
文字通り麻雀卓だけが置いてあって、1卓あたり4人が囲んでひたすら麻雀を打つ店です。
店先には混み具合がすぐに分かる空・満の表示板があり、サラリーマンは「空」の店を探して走ります。
今ではちょっと信じられない風景ですね。
僕が働いていた寿司屋はカウンターを持つれっきとした店でしたが、実際は出前が専門で、中之島におよそ400軒(!)もあった雀荘からの注文を、ほぼ独占状態で受けていました。
寿司は食べる音がせず、手が汚れず、一口で食べられます。
勝負の邪魔をしないので、どこの雀荘でも一番人気は寿司でした。
学校の授業は遅くとも16時には終わりますが、放課後にゆっくりする時間はありません。
というのは、17時から寿司を配達しなくてはならないから。
店に飛んで帰ると、すでに、天井に届くほど高く詰まれた寿司桶が並べてあります。
10台の電話は予約のために鳴りっぱなし。
カウンターには寿司職人が7人並び、目にも止まらぬ速さで寿司を仕上げていきます。
なかでも注文が一番多かったのは「鉄火巻き」。
口にポイッと入れられるように、大きさは普通よりも小さめに切り分けていました。
まぐろの切れ端も使えるので、今思えば店にとっては濡れ手に粟だったでしょうね。
すぐ白衣に着替え、バイクに燃料を入れて寿司桶をのせます。
17時になると、バイク5台、自転車5台が散り散りに配達へ。
店と雀荘との往復は夜遅くまで続きます。
勝負に熱中していて代金を後払いにする客もいますから、それを回収するのにまたバイクを走らせます。
余談ですが、雀荘には寿司だけではなく、ラーメンなど麺類の配達も行われます。
相手が強いと、わざと麺をすする音を立てて気を散らせるためだとか。
毎日中之島を走るので、僕と同じように働く他の店のアルバイト生と、同じ信号で引っかかることも。段々と顔見知りになるので、信号待ちをしながら、互いの店の売り上げや仕事の状況について軽く声を掛け合う。そんな交流もありました。
寿司職人7人の手さばきはすさまじいものがありました。
彼らはずっと寿司だけを作り続けてきたので、他の料理は作れません。
その代わり、作業は正確でよどみなく、誇張なしに「神業」のようだと感動したものです。
まさに「七人の侍」でした。
今でも鉄火巻きを食べると、この頃の情景を細部まで、すぐに思い出すことができます。
今授業で学生に教えている、鉄火巻きを上手に巻くコツはこうです。
「寿司飯は少なめに」。
寿司飯が多いと、巻き上がりが広がって手巻き寿司のようになってしまいます。薄く広げましょう。
「思い切りよく、『イチ、ニ』で巻く」。
恐る恐る巻くと、まぐろがずれて中心から外れることになります。
イチで寿司飯と寿司飯をくっつけ、ニでのりしろを巻く。
のりは水分を吸うとピンと張ってくれるので大丈夫です。思い切って巻いてみましょう。
侍のレベルにちょっとだけ近づけるかもしれませんよ。
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料理で笑顔の花を咲かせたい 西垣富雄
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