【百人一首と和菓子】霜夜の声
<【百人一首と和菓子】ってどんなコラム?>
お菓子について
霜の降る夜、ひとりでいると、寂しさが際立ちます。恋しい人が近くにいれば、寒さも和らぐことでしょう。
身にしみる冬の寒さを表現するため、練切り生地に小豆粒餡を散らし、寒々しさを表現しました。小豆粒餡が、しきりに鳴くこおろぎに見えてきませんか?
豆辞典
91 後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだじょうだいじん)
歌人名は役職名なので、本名は藤原良経(ふじわらのよしつね)といいます。西暦1169年から1206年を生きた人です。鎌倉時代初期の朝廷で、地位の高い官僚であり、歌人でもあり、書家でもありました。76番の歌の作者の法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)はおじいさんにあたり、95番の歌の作者である慈円(じえん)は父方の叔父にあたります。
父親も詩歌愛好者でしたし、歌人や文芸に親しむような人達が、頻繁に出入りするような環境の家で育ち、作者は幼いころから詩歌の幅広い知識を身につけたようです。
『百人一首』を選んだ藤原定家(ふじわらのていか)の父親である、藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい=83番の歌の作者)に和歌を習い、後鳥羽院の命令によって選ばれた『新古今和歌集』では、79首も歌が選ばれ、仮名序(ひらがなで書かれた序文)を書きました。
さて、歌の方ですが、
こおろぎが鳴いている、寒々とした霜が降りる夜に、寝るための狭い敷き物の上に、自分の衣だけを敷いて、ただひとり寂しく寝るのであろうか。
というくらいの意味です。
ここに登場する「きりぎりす」は、今の「こおろぎ」のことです。男女が一緒に寝るときは、お互いの衣を敷いて寝たようですが、ここでは、自分の衣だけを敷いて一人寂しく寝たのでしょうか。恋人を思って一人で寝る切なさが、物悲しいこおろぎの鳴き声でいっそう募る様子を歌にしています。
本歌取りといって、お手本にした歌がほぼ特定できるので、実体験を歌にしたかどうかははっきりとは分かりません。でも、作者は妻に先立たれ、その時はひどく嘆き悲しんで、叔父の慈円について修行に出ようとし、引き戻されることもあったようなので、この歌のような気持ちは、何度も経験したのかもしれません。
地位も名誉も思いのままのような経歴ですが、38歳の短い人生を終わるとき、彼自身、どのように感じていたのでしょう。
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