毎日新聞連載 -美食地質学入門- 第49講「そうめん」
8月2日(火)の毎日新聞(夕刊)に「美食地質学入門」が掲載されました。
テーマ食材は「そうめん」。
数あるそうめんの中から、今回は兵庫県たつの市の「揖保乃糸」です。
紙面にある通り、超軟水の揖保川が流れ、小麦が栽培され、海側の赤穂では塩がとれるという環境でこの素麺が作られてきました。
さて乾麺というと、このそうめんの他にもうどん、そばをはじめいくつかの種類があります。
区別が曖昧なものもあり、細いうどんと冷や麦は何が違うのか、などと疑問に思うこともあったりするのではないでしょうか。
そこで今回「そうめん」を取り上げるにあたり、
「日本農林規格(JAS ;Japan Agricultural Standard)」や「乾めん類品質表示基準」による乾麺類についての取り決めを一部紹介しておきます。
JASでは乾麺類を「そば」と「そば以外」に分け、そば以外に含まれる「手延べ干しめん」については生産方法も規定しています。
乾めん類品質表示基準では、「手延べ」など乾麺類に用いられる用語を定義し、その表示について定めています。
その中では「手延べ」と「手延べ以外」に分けて取り扱っており、「手延べ以外」には機械めんが分類され、手打ちうどんも含まれます。
さらに「手延べ」は、太さや形状で「うどん」、「ひやむぎ・そうめん」、「ひらめん」などと分類し表示基準としています。
面白いのは、機械めんと呼ばれるものは、「ひやむぎ」と「そうめん」を太さで区別しているのに対し、手延べは「ひやむぎ」と「そうめん」を区別していません。
ややこしいですね。
ちなみに、太さに関わらず「そば」は「そば」です。
そもそも「手延べ」とは、
『食用植物油、でん粉又は小麦粉を塗付してよりをかけながら順次引き延ばしてめんとし、乾燥したものであって、製めんの工程において熟成が行われたものであり、かつ、小引き工程又は門干し工程においてめん線を引き延ばす行為を手作業により行ったものをいう』、
とのことです。
簡単に言うと、生地を切って麺状にするのではなく、人の手でひたすら細く延ばしていく製法のことです。
ただ引っ張って延ばすと切れてしまうので、細く細く伸ばしてくために油などを使い、熟成期間を入れながら時間をかけての作業になります。
細く細く延ばすほど難しい熟練作業になるので、出来る人が限られ高級品として取引されます。
▲揖保乃糸の中でも一番細い等級の「三神(さんしん)」
多くの産地では、食用植物油を塗りながら延ばしていくのですが、使う油は産地により異なります。
たとえば揖保乃糸は綿実油を使いますが、小豆島ではごま油を使います。
この油が後々品質に影響してきます。
梅雨時の貯蔵中にリパーゼ(脂質を分解する酵素)の働きにより、独特の風味がうまれコシと呼ばれる食感も形成されるといわれます(厄(やく)現象)。
この厄現象の時期を過ごして製造から2年目を迎えたものを「古物(ひねもの)」、3年目のものは「大古物(おおひねもの)」と呼び、高値で販売されています。
▲揖保乃糸の「ひね」シール
はたして、そうめんと地質の関係とは...。
本題の巽先生のお話は、新聞紙上及び毎日新聞ホームページをご確認ください。
さて、今回の料理担当は日本料理の岡田先生です。
▲たたみそうめん
岡田;「たたみいわし」をイメージした揚げ物。
いわしを使った魚醤に「いしる」がありますが、今回はそうめんをこれに浸して低温で焼き、それを揚げて青海苔、ゆかり、粉山椒、グラニュー糖をふりかけ、味や香りに変化をつけました。
▲からすみそうめん
岡田;そうめんを茹でた後、サラッとしたMCTオイルをかけほぐれやすくし、すり下ろしたからすみを混ぜました。そこに薄く叩いた蛸を網焼きにしたものと、からすみを焼いて日本酒(竹泉)に浸したものを添えました。
▲鮎そうめん巻き揚げ
岡田;鮎を背開きし、一夜干しにしました。
叩いた内臓とたで葉、白味噌を混ぜたほろ苦い味噌を挟み、それを茹でたそうめんで巻き、頭も食べられる様にじっくり、そしてカリッと揚げました。
▲冷製そうめん
岡田;茹でたそうめんの上に、トマトウォーターのゼリーと、とうもろこしをピューレ状にし凍らせた後に粉末状にしたものをかけた料理です。
温かい料理の合間の、冷たくてトマトの酸味ととうもろこしの甘みを感じる口直し的な料理です。
▲小田巻風玉蒸し
岡田;うどんを入れた茶碗蒸しを「小田巻蒸し」といいますが、うどんをそうめんに変え、卵生地は宍道湖の蜆でとっただし汁を使いました。お酒を呑んだ後は温かい料理でしめさせていただきました。
合わせるお酒は、田治米合名会社さんの「竹泉」です。
▲純米吟醸 雄町 生原酒 槽口直詰
地元契約栽培米雄町を用いています。
槽口(ふなくち)から直接瓶詰めした、みずみずしい爽やかな口当たりと綺麗なサンと旨味が調和する切れの良い酒です。
かすかに発酵時の炭酸ガスが残っています。
冷酒で始まり、お燗へと移行しました。
※槽(ふね=お酒を搾る装置)
次回9月のテーマは、「沖縄料理」。
どうぞお楽しみに。