ヤニック・アレノ「Hotel Le Meurice」総料理長[第2回]
聞き手:柴田泉氏(月刊「専門料理」編集長)
■ホテル『ル・ムーリス』シェフに就任、そして三つ星を獲得■
●2003年に『ル・ムーリス』のシェフに就任されましたが、その前年ぐらいから『プラザ・アテネ』とか『ジョルジュⅤ』とかいったパリの高級ホテルがどんどん刷新され、レストランもレベルアップが計られていた、ある意味華やかな時代だったと思います。『ル・ムーリス』に誘われたということは当然自分もそういったスターシェフたちの一人になるということだったと思います。最初に声をかけられたときはどういう思いを抱きました?
いや、そんな風には思わなかったです。『ル・ムーリス』は高級で格調高いホテルですが、いわゆる"インターナショナル"なホテルというコンセプトは持ったホテルではありませんでした。でも、あまりにひっそりとし続けていたので、誰の話題にものぼらないほどになっていたのです。そこでなんらかのプッシュ(強化)が必要だということで私がレストランのレベルアップのためのミッションを受けたということです。ですから私もスタッフもほんとうにハードに仕事をし、とてもいい結果を出すことができました。2003年の総売上高は700万ユーロを出しましたし、昨年は1800万ユーロに到達しました。これはものすごい発展だと評価しています。
●スタッフはどのように集めましたか?
38名でスタートしましたが、この38名は今までの人脈を通じて個々に呼び寄せました。
●現在は何名ですか?
今は料理、製菓合わせて74名のスタッフがいます。
●『ル・ムーリス』のシェフの誘いを受けた時に、このような料理のイメージでやろうと考えると思うのですが、その部分はどのように考えましたか?
基本的には『スクリーブ』の時と同じ方法をとりました。まずは従来のカルト(メニュー)を精査しました。これだけのホテルになりますと基本的には問題のない内容ですので、後はこれらの料理をどのようにアレンジできるか、進化できるかということをずっと考え続けました。
例えば今まで普通の乗用車に乗っていたのに、いきなり大型車に乗り換えたと想像してみてください。もちろん制動距離もより長くかかるし、車の回転半径もまったく異なります。厨房もこれと同じことなのです。『ル・ムーリス』は「箱」としてとても大きいので、大型車の感覚が実際に運転してみないとわからないのと同様に、実際に中に入って稼動してみないとわからない部分が沢山あったのです。私は料理の進化はやはり実際に厨房で仕事をしつつ変えていくしかないように思います。
●その結果として、着任してすぐ翌年に二つ星を獲得し、さらに翌年には「三つ星にもっとも近い店」のカテゴリーにノミネートされました。こういった手ごたえを感じるということはシェフとして喜ばしいことだと思いますが、このあたりのお気持ちを少し語っていただけますでしょうか?
結果はともかくとして私たちのチームはパリ中でも三つ星獲得ということに最大の「やる気」を持っていたと思っています。そりゃ「三つ星」獲得を目標とするっていうのは身が引き締まると言いますか、高揚した気持ちになると言いますか、表現しがたいほどわくわくするものです。でも、すさまじい時間を共に過ごしました。一瞬たりともそのことを考えない時はなかったし、皆で語らないことはなかったです。
最初、二つ星を獲得したときはまったく予想外でした。確かに必死で仕事もしていましたけれど、二つ星の評価を得るとは思ってもみませんでした。発表の当日も仕事をしていて、ポール・ボキューズ氏からファックスが送られてきて知ったほどですから(笑)。マスコミ、メディアもそんな予想はまったく語っていませんでしたし、驚きでした。でも、三つ星に関しては確信がありました。先ほども言いましたようにそれを目的に頑張ってきたのですから。「獲得できないわけがない」と思っていました。
●二つ星評価の時はまったく予想外だったのが、三つ星評価の時は確信があったのは何が要因なのでしょう?チームの状態とか?
まずはチーム全体がそのことを目的に懸命に仕事をしたということでしょう。でも、私たちはガイドブックのために仕事をしているわけではありません。お客様のために仕事をしているのです。
毎回、お客様が満足し、繰り返し食事にいらっしゃる。私たちは 日々、お客様をもっと喜ばせよう、満足させようと仕事をし、そして同じ料理は出さないようにしよう、いや、以前よりも美味しいと思われる料理を作ろうとしているわけです。星の評価がつけられる、それはその店の料理にお客様が満足しているということ、それだけです。星の評価というものはお客様の気持ちの反映なのです。
もし、ある日、星の評価を失ったらそれはお客様の期待を裏切った結果でしょうし、その店のチームの仕事がお客様の望むレベルに達していないということにすぎないのです。要するにこれらの評価は仕事の結果でしかありません。
●何度かお食事をさせていただいたことがありますが、本当に文句なしに幸せな気分になれますね(笑)。そういう場所は本当に少ないと思います。
まさにお客様にそういう気持ちを抱いていただくためには常に細かいところまで気を配り、常に前に向かってチーム全体を動かしていく必要があります。
料理もいつも同じものを提供するのではなく、新たな風味を作り出していかなければならないのです。そして、常にチームで意見を言い合う環境を作っていくことも大切なのです。何度も言いますがレストランという「箱」は一人で作れるものではなく、チームでしか作れないものなのです。お客様をもてなすことに情熱を持つマネージャーがいて、お客様のために世界一のキャーヴを作ろろうとするソムリエがいて、舞台裏にいるすべての料理人たちがいてできるものなのです。
ですからチーム同士でどれだけコミュニケーションをとるか、お互いがどれだけ刺激し合うかといったようなことがとても大切になってくると思います。
Hotel Le Meurice
228, rue Rivoli
75001 Paris, FRANCE
+33.01.44.58.10.55
ヤニック・アレノ氏<シェフズ・インタビュー>第3回目は、3月30日更新予定です。
お楽しみに!