Vol.5 『Hajime Restaurant Gastronomique Osaka Japon』オーナーシェフ 米田肇氏
■スタッフたちへの思いと今後のヴィジョン■
辻:お客様に自分の料理を100%理解させる、と言っても100%理解させるのは不可能だと思いますが、
いずれにせよそのためには従業員全員に米田さんの料理に対する考え方を理解させる必要があると思います。
そのためにはどのようなことをされているのですか?
米田:ずっと喋ってます。ずぅっと喋ってます。「本当によく喋りますね」って言うぐらい喋ってます(笑)
(笑)
辻:現在スタッフは何人?
米田:厨房は6名、サービスが5名ですね。
辻:スタッフの育成のために特に意識されていることは?
米田:う~ん、実際のところ私の店の今の体制はまったく完璧とは言えません。現在、作りあげている最中です。私自身も経営者としての経験はぜんぜん不足していますし、教育する先輩としてももっともっと勉強する必要があると思っています。大変なことは事実ですが、「とにかくいいものを出そう。そこにつきる」ということを全スタッフに常に言い続けています。
辻:チームワークの意識づけをすれば彼らのモチベーションにも繋がってくるし、もっともっと米田さんの料理を理解しようという気が起きてくるのでしょうね。
米田:いや、今はどこの会社でもそうでしょうけれどオーナーが突っ走っていて、ついていくスタッフがへとへとになっているという状況ではないでしょうか。
辻:米田さんの料理は、料理の解釈、素材の解釈などに関してもかなり先をいっている料理だと思うんです。本当はその技術論だけでも1時間ではなりないほどだと思いますが、お店で働いてらっしゃる若手の料理人でいわゆるクラッシックな料理の経験のない人たちに最先端の料理を理解させるというのは大変でしょうね?
米田:大変です。そういう若い人たちはきっとクラッシックな料理を出すレストランで働くことになると思います。
辻:そういう店に戻るということですか?
米田:そうです。
辻:そういったことは歓迎する?
米田:結局、そのスタッフが成功するのが一番だと思うんです。なんらかのきっかけで私の店に興味を持っていただいて、勉強しようと思っている人たちなので、全員成功して欲しいですね。そういう面では他の料理、例えば中国料理なんかも勉強しないと駄目だよ、とはよく言っています。
辻:今はすべての料理を勉強したほうがいいと。
米田:そうですね。
辻:店としては今の形からどのように発展させていきたいですか?
米田:こういうことを言うと誤解をされるかも知れないのですが、現在やっている店の形態は私でなくても出来ます。要は普通にお客さまをお迎えして、テーブルクロスをきちんと敷いて、料理を出すこういうのは私の店でなくてもされています。東京に行けば三つ星店もありますし、フランスに行ってももちろん三つ星はあります。
レストランという形態は「自分は料理が好きだ」「美味しいものを食べたい」という考え方で作る場合と「食」というものをもうひとつ深いところまで感じ取ってもらいたいという考え方があると思うんです。私は今それを料理というものを通してやりたいと思っているのです。フランスを初め多くのシェフたちがメッセージをこめた料理を提供されていますが、私を含めてまだそれは"料理"なんですよね。それよりも先にいきたいと思っています。
辻:そういう風に次から次へと様々な視点から考える人たちが世界に何人かいるから飲食業界は発展していくのじゃないかなと思います。
米田:発展しないことにはもう駄目だと思いますね、本当に。
辻:いいものを作る
米田:ほんとうにいいものを作るって言うことですね。
もうひとつ考えることとして、私は日本人ですけれど、日本人の美意識というものはかつて千利休が考えた<茶の文化>から止まっていると思うんです。もちろんその美意識の完成度を高めていったということはあります。
でも、まったく新しい美意識が生まれてもよかったのではないかとも思います。とりわけ現在は様々な文化が入って
きていますし、そんな中で新しい日本人の美意識が作られていってもいいのじゃないかな、と思うんです。
辻:ありがとうございます。では最後の質問です。米田さんにとって「創る人」の条件とは?
米田:う~ん、ひとつは情熱を持つということですね。もうひとつは自分の思い描いたことをそれが完成するまであきらめないということ。これにつきると思います。
辻:ありがとうございます。最後に米田さんの店の食卓に必ず載せられているお客様への「メッセージ」を
読んでい終わりたいと思います。
<「メッセージ」を読む>
今日は本当にありがとうございました。
■参考・関連図書■
「美食進化論」(辻芳樹著・木村結子著/晶文社)
これからの美食の可能性を模索した、刺激あふれる食エッセイ。
「美食のテクノロジー」(辻芳樹著/文藝春秋)
辻調理師専門学校校長、辻芳樹が3年をかけて世界のトップシェフ6人を徹底取材、美食を生む現場の秘密がついに明かされる。
次回の12月10日(金)からはシェフズインタビューの第3回目<『Toshi Yoroizuka』のオーナーシェフ 鎧塚俊彦 Vol.1>です。