【ビバ!!ベバレッジ】中米コーヒー農園を訪ねて パナマ共和国編1
<【ビバ!!ベバレッジ】ってどんなコラム?>
前回のグアテマラより空路約2時間30分でパナマの首都パナマシティに到着した。街は亜熱帯地域特有のむっとするような湿度と共に人が溢れ、エネルギッシュな賑わいを感じた。
街中は緑が少ない印象だったが、市庁舎が建ち並ぶ地域だけは整備されて緑が多い。そこはアメリカ統治下に軍司令部のあった地域だと聞かされた。そんな近代建築や高層ビルが立ち並ぶ地域もあれば海沿いのバラックのような家々もあり、こちらは漁師達の家と言う事だった。こうした地域の一角に太平洋とカリブ海を結ぶパナマ運河が流れている。
パナマシティから北西のコスタリカ方向へ車で3時間程行くとバル火山を中心にコーヒー産地が広がる。今回訪れた「ボケテ」と言う地区は平均標高1,100m。日本の避暑地のように湿度が低く快適な地区で、パナマでも有数のコーヒー産地である。後に知った事だが、アメリカ人が退職後に一番移住したいと言われる土地だった。空気がとても澄んでいて川の水の透明度に驚いた。
<ボケテのコーヒー農園を流れる川>
訪問先のドンパチ農園のセラシン氏は「今でこそ水質は非常に良くなったが、昔はコーヒー豆の精製で出た汚水を川に流して随分水質を悪くした時期もあった」と語っていた。
パナマのコーヒー生産量は年間7,200kgで世界で25位である。グアテマラの生産量の約3.3%に過ぎないが、近年、古くからの品種を栽培しながら自然環境に配慮した栽培法を行い、注文に応じて少量単位で豆を精製することで品質を高め、高価格となっている。
パナマのコーヒーノキの栽培方法はまず山間部で苗木を育てる事から始まる。
<苗床の発芽>(ドンパチ農園製作資料より)
種子を苗床に蒔いて発芽させる。種子は普通、水につけずにそのまま蒔くが、セラシン氏の父の頃は種子を水につけてから苗床に蒔いていたそうだ。なぜそうしたかは分からないが、その答えを求めて、ドンパチ農園では現在、試験的に水につけて蒔く方法も行っている。
<発芽した種子>(ドンパチ農園製作資料より)
通常、1カ月半~2カ月で発芽する。
<発芽から約1カ月の苗木>(ドンパチ農園製作資料より)
苗木が小さい間は日陰にするためにネットで覆う場合もある。
<膝の高さ程に成長した苗木から畑に植林する>(ドンパチ農園製作資料より)
苗木はポットで育てて畑に植林することが多いが、この農園はコーヒーの畑の裾野に苗木を育てる土地があり、畑までの移動距離が少ないので、地植えしているとのことだった。
ボケテの気候は北東のカリブ海から風が吹き、朝の間は霧が多く、昼と夜の寒暖の差が大きい。この点についてセラシン氏は、霧より寒暖の差がコーヒーに与える影響が大きいという。つまり気温が下がる時にコーヒーの実に養分が吸収され豊かな香りや味わいを形成すると言う事だった。
土壌は火山灰が多く水はけが良い。この点はグアテマラと共通する。土地の傾斜は非常に強いが、なぜ畑の土が流れないか不思議だった。セラシン氏に聞いてみると、こんな説明をしてくれた。
<植林の図>
土地の低い側にコーヒーノキを、土地の高い側に根がしっかりとはったシェイドツリーを2種類植林して、土が流れないようにしてある(背の高い木のほうが根が深くしっかりとはる)。摘果後にシェイドツリーを剪定して太陽の陽を木にあてて花を咲かせる。
コーヒーノキの植林は、太陽の光が畑全体に均一にあたるようにされている。一見しただけではどのように計算されて植えられているかは分からないが、長年農園で培われているものがあるのだろう。
また、それぞれの農園では数種類の品種のコーヒーノキが植林されている。これはブレンド用に数種類のコーヒーが必要であると同時に、古くからの品種を守るためでもある。
<畑と運搬用道路>
パナマのコーヒー農園の多くは、自然を守りながらコーヒーノキを栽培している。農園のある山間部は豊かな自然が残り、多くの植物や動物が生息していた。写真の運搬道路も道が狭く、轍のほかは草に覆われている。道の両側に植わっている緑の濃い背の低い木がコーヒーノキ(手前に赤い実が見える)で、それ以外のやや背の高い木はシェイドツリーだ。背が高いシェイドツリーの葉が茂ると地面に陰が出来て土壌が乾燥しにくくなるので、グアテマラの農園にあった貯水用の穴は、ここには必要ない。一方、大量生産主義の農園では、土壌の保水性を高めるシェイドツリーを植えず、コーヒーノキだけを植林する。生産性は高く保たれるが、土壌は痩せ、やがてはコーヒーノキの栽培にも大きな影響を与えることとなる。
次回はボケテ地区におけるコーヒーの精製法を紹介する。
*ドンパチ農園のセラシン氏が本校で開催したテイスティングセミナーの様子はこちら