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食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】魅惑の国、ギリシャの地中海料理(2)

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2013.09.13

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

フランス校生活では夏と冬、共に約3週間ずつヴァカンスがあります。フランス人の多くも夏のヴァカンスを楽しみにしており、太陽を求めに南フランスや諸外国への旅行をします。
僕は今年の夏のヴァカンスで、以前(2008年) と同じくギリシャに行ってきました。その時は一般的な料理や飲み物などを紹介しましたが、今回はさらに踏み込んで独特の食文化をレポートします。

アテネのパルテノン神殿 ミコノス島(注1)、アノ・ミリの丘の風車
(左)アテネのパルテノン神殿
(右)ミコノス島(注1)、アノ・ミリの丘の風車

アテネに到着した途端「ここはヨーロッパなのか?」という錯覚に陥ります。
もちろんギリシャは、現在の地理的区分では辺境に近いとはいえ、れっきとしたヨーロッパ諸国の一つです。ただ、普段生活しているフランスをつい "ヨーロッパ" の基準にしているところがあるのかもしれませんが、アテネの中心地「シンタグマ広場」の周りにはパルテノン神殿をはじめ、数々の歴史的建造物があり、自分の中で思い描くヨーロッパのイメージにはない異国的な風景が広がります。

そしてその食文化自体も、広いヨーロッパの中でも独特の特徴を持っています。ギリシャは19世紀までの数世紀の間、オスマン帝国の支配下に置かれていたことから食文化にも中近東料理の影響、とりわけ隣国であるトルコの料理やお菓子の影響が随所に見られます。
地中海料理の代表食材のオリーブ油やハーブ、トマトやなすなどの夏野菜をふんだんに使い、ヨーグルトまで料理にアレンジします。新鮮な魚などはシンプルに網焼きにして食するなど、素材の味を堪能できる料理ばかりです。

フランス料理のようなモダンなレストランはあまり見る事が無く、フランスでいえば庶民的な食堂であるビストロにあたる「タベルナ ταβερυα」が多くあります。アテネやミコノス島ではタベルナやバーが多く集まる通りもあり、観光客や地元の人々で賑わっていました。ギリシャの人々は特に夏、外食を好んで行ない、夕食であれば21時以降に食べる事が多いそうです。
日本の感覚だと遅い夕食、といった感じですが地元ギリシャではシエスタをとる習慣が残っているため、このようなゆっくりとした生活パターンが繰り返されています。美味しいものを食べ、お酒を飲み、時には歌って踊り...、とにかく生活を楽しんでいる感じがしました。
アテネ、キダシネオン通りにあるお店で、歌って踊る陽気な人達 ミコノス島、リトル・ヴェニス(注2)にあるカフェ
(左)アテネ、キダシネオン通りにあるお店で、歌って踊る陽気な人達
(右)ミコノス島、リトル・ヴェニス(注2)にあるカフェ

そのタベルナで味わってきた料理とお菓子や、旅行中に知り合った地元の方達のお勧めなどを紹介します。

パプツァキ παπουτσακι (なすの詰め物)
パプツァキ
ローストしたなすにラタトゥイユのような野菜の煮込み料理を詰めて冷やしたものです。刻んだミントを加えることで、油っぽさが消されて風味もよくなっていました。
バリエーションでピーマンや玉ねぎなどの詰め物もありました。

チャポディ・オシャパ χταπόδι οχάρας (タコの炭火焼き)
チャポディ・オシャパ
地中海沿岸の地域で食されるタコですが、このお店ではやわらかくなるまで塩ゆでし、注文が通ると表面を炭で焼いてくれます。
他のお店、もしくは地方によっては...
(1) 白ワインで蒸し煮にした後で炭火焼き
(2) 取れたてのタコを岩などに叩きつけた後、炭火焼き(叩きつけることで繊維がやわらかくなる)
(3) 叩きつけた後、天日干しにしてから炭火焼き(干すことで余分な水分が抜け、味が凝縮する)
(4) 生のまま炭火焼き
といった所もあるようです。
オレガノやレモン汁、オリーブ油をかけて頂くのですが、塩ゆですることでもっちりとした食感が生まれて甘みも引き出されます。そして炭で炙るので香ばしく、ウゾ(注3)が止まらなくなります。
その他「タコのマリネ」や「タコとフェンネルのトマト煮込み」などもありました。

ジュヴァルラキア γιουβαρλακια (ミートボールのレモンソース)
ジュヴァルラキア
牛ミンチ肉にお米や玉ねぎ、香辛料などを加えてミートボールを作り、ゆでて火を通します。ソースは水、オリーブオイル、塩、こしょうを温め、卵を加えて濃度をつけ、仕上げにたっぷりのディルを加えたものです。

スゥトズカキア σουτζουκακια (ミートボールのトマトソース煮込み)
スゥトズカキア
こちらも牛ミンチ肉でミートボールを作りますが、トマトソースで煮込んだものです。僕の食べたお店では付け合わせが塩ゆでした米だったので、ミートボールにお米は入っていませんでした。
他のタベルナを見てみるとイタリア料理の影響でしょうか、パスタが添えてあったりします。


ポリチコ・ケフチコ πολιτικο κλέφτικο (子羊の煮込み)
ポリチコ・ケフチコ
子羊のお尻の肉を糸で巻き、形を整えて煮込む料理で、フランス料理のナヴァラン(子羊肉を玉ねぎやトマト、水で煮込んだ料理)を思い起こさせるものでした。店の人に聞いてみたところ、"ポリチコ" は家庭風にココット鍋(ふた付きの鋳物鍋)で火を通す、という意味があり、"ケフチコ" は「巻く」という意味があるそうです。
地中海料理らしくズッキーニやピーマンも入っていましたが、ギリシャ独特と感じた特徴は仕上げにマスタードをたっぷりと加え、フェタチーズ(注4)を添えることです。

パスティッチョ παστίτσιο (パスタとベシャメルソースのグラタン)
パスティッチョ
「ムサカ」という、なすと挽き肉(ミートソース)、ベシャメルソースを数段重ねてオーブンで焼いた、東地中海で非常にポピュラーな料理がありますが、それと同じく、メイン料理でした。
ムサカはアラブ料理の影響を受けていますが、このパスティッチョはイタリア料理の影響を受けています。イタリアから伝わった経緯や歴史は不明ですが、隣の国で陸続きの為、ギリシャに定着したようです。
ロースト用鍋などにミートソースで和えたマカロニを敷き詰め(ギュッと押し込むのが正解?)ベシャメルソースとチーズをかけてオーブンで焼いたものです。ムサカ同様、四角く切って提供されるのが一般的なようです。

バクラヴァ μπακλαβάς
バクラヴァ
何層にも重ねたパート・フィロ(注5)と澄ましバター、クルミやアーモンドなどのナッツ類、シナモンや丁子などの香辛料を重ね、シロップや蜂蜜をたっぷりとかけてオーブンで焼いた菓子。どこのお店でも高さは4~5cmはありました。
パート・フィロをたくさん重ねているため、上部はパリパリでパイ生地のような食感、下部は蜂蜜やシロップを吸ってねっちりとしています。シロップや蜂蜜にレモン汁やローズウォーター(注6)を加えて特徴を出しているお店もありました。しかし、すごく甘い!
もともとこのお菓子は紀元前8世紀ごろ、トルコ南東部あたりで作られていたようです。そして中近東の国々を中心にギリシャや中央アジア、アメリカなどに広まりました。現在ではギリシャの町中のお菓子屋では必ずと言っていいほど置いてあり、年代問わずに愛されるお菓子です。
バクラヴァ
ディスプレイされたバクラヴァ


ヌガー νουγατς
ヌガー
砂糖と蜂蜜、水あめ、泡立てた卵白などを混ぜ合わせて煮詰め、アーモンドを加えて固めたお菓子です。古い歴史があり、ヨーロッパから中東の広い地域で似たものが作られていますが、ギリシャでも代表的なお菓子の一つです。
名前はフランス語の「ヌガー」という名称が浸透しているようですが、フランスで一般的なヌガーよりも蜂蜜の風味が強いようで、また丸くツルッとしたウエハース生地でサンドしてあるのが特徴です。丸い形で直径12cm、厚さは1.5cm程度の大きさです。どこのお菓子屋さんでも写真のように包装紙に包まれて売られており、適当に切り分けて食べるそうです。

まだまだ日本では知られていないような料理やお菓子がたくさんあるようなので、興味が沸いてきます。自分になじみのあるフランス料理にはない特徴を持った食文化なので、奥が深そうですね。

そして今回、絶対行くと決めていたお店を紹介します。アテネのプラカ地区にある1909年創業の『ブレトス BRETTOS』です。自家製でウゾを作る傍ら、バーも経営しており連日満員の人気店です。
ブレトスBRETTOS
ブレトスの外観

ウゾも樽から注いでの提供。通常に出回っているようなアルコール度数40%のものは3.50ユーロ、蒸留を2度行った46%のものは5.00ユーロで飲めます。その他、ギリシャ特有のリキュールも40種近く飲めるのが特徴です。
店内に入ると天井まで並んだリキュールの瓶がライトで輝いて非常にカラフル、店内右側には酒樽が積まれており、オリジナルのウゾが保存してあります。食事をする前に1杯ひっかけて行くのもよし、食事後に立ち寄るのもいいかもしれません。
店内に並べられたリキュールの数々 たくさんの酒樽が並んでいます
(左)店内に並べられたリキュールの数々
(右)たくさんの酒樽が並んでいます


食後酒としてはギリシャ南端にあるクレタ島原産の「ラキ raki」(注7)などいかがでしょう。ウゾの仲間で、地元ではお客をもてなす際や再会を誓う時に飲まれる事が多いそうです。
お店には自家製の蜂蜜を添加してあるものもあったので、注文してみました。値段はウゾと変わらず、普通のラキは3.50ユーロ、蜂蜜入りのものは4.50ユーロでした。蜂蜜が入っているのでトロッとしており口当たりがやわらかく、少し紅茶のような香りがしました。
ラキ
ラキ

では最後にアテネで知り合った方に教えてもらった、ウゾを飲む時にお勧めのおつまみと食後酒です。早速、お店に行って入手!
エギナ島(注8)原産のピスタチオナッツ スパルタ産のセミドライソーセージ。オレンジの皮が入っています
(左)エギナ島(注8)原産のピスタチオナッツ
(右)スパルタ産のセミドライソーセージ。オレンジの皮が入っています

特にスパルタ(注9)産ソーセージが美味しいですね。オレンジとスパイスの香りが重なって、アルコール度数の強いウゾとの相性は最高です。

そして日本でも数年前に流行りましたね、マスティハ(注10)。それを使ったリキュールが「マスティック mastic」で、ヒオス島(注11)で作られています。アルコール度数25%、味はリキュールなので当然甘いのですが、香りはヒノキや八角の香りがします。
マスティック
マスティック


以上、今回の旅での食べ歩きレポートでした。
今回の訪問で、またまたギリシャの事が大好きになってしまいました。お土産も買ってきたので、フランスでも少しだけギリシャ生活が楽しめそうです。

よーし、来年の夏のヴァカンスもギリシャで決まり!!!


取材協力店
BRETTOS
住所:41, Kidathineon street 105 58 Athens


(注1) アテネの南東、約150kmに位置する、エーゲ海に浮かぶ島。
(注2) 街並みがイタリアのヴェニスに似ていることから、このように呼ばれています。日本で言うなら「小京都」といった感じです。
(注3) ギリシャを代表する無色透明のリキュール。ブドウの搾りかすから作られ、アニスの香りがするのが特徴。
(注4) ヤギや羊のミルクから作られる圧縮タイプのチーズで、保存する為に食塩水に漬けてあります。
(注5) 小麦粉やとうもろこしの粉で作られる、紙のように薄い生地。
(注6) 薔薇から抽出された水分。お菓子や飲み物の風味付けでヨーロッパや中近東諸国でよく使われます。
(注7) 製法はウゾと同様ですが、アニスは入っていません。クレタ島産のブドウで作られているもののみラキと呼ばれます。
(注8) アテネの南西、約30kmに位置する島。
(注9) アテネから西へ85km、険しい山々に広がる町。
(注10) ヒオス島にしか育たないウルシ科の木で、それから採れる樹液の事を指します。その樹液には殺菌作用があるとされ、古くから食品や化粧品など幅広く使われてきました。
(注11) 東エーゲ海諸島にある、トルコに比較的近い島。マスティハの木が生い茂っています。

『魅惑の国、ギリシャの地中海料理』(2008年3月20日公開) もあわせてご覧下さい。