【とっておきのヨーロッパだより】春夏が旬のフランスきのこ
天然キノコと言えば「秋」のイメージが強いですが、フランスでは春から夏もキノコの旬です。日本でもおなじみのキノコですが、フランスには日本とは比べものにならないくらい多くの天然キノコが出回ります。
今回は、ソテーするだけでもジューシーでうまみの詰まった天然のキノコを求めて、オーベルニュ地方にある天然キノコを扱う会社トラポン社Traponを訪ねてみました。トラポン社は天然キノコの卸売業者です。自家での栽培も行っており、まさにキノコのプロフェッショナルです。
リヨンから西に車で約2時間走るとブドウ畑の風景とはうって変わって深い霧がかかった、森林に囲まれた高原地帯に入ります。さらに山道を登っていくとトラポン社のある標高550m、小さな村アンベールAmbert に着きます。ここトラポン社は秋のセープを中心に栽培キノコも含めて年間120~300万kgのキノコ27種類を扱うそうです。中央山塊を中心に約60の小規模集積業者からキノコを集め、国内外の大手業者、パリのランジス市場に出荷します。日本にもトラポン社のキノコがノーザン・エクスプレスという業者を通して出荷されています。また、キノコの魔術師として知られるレストラン「レジス・エ・ジャック・マルコンRégis et Jacques Marcon」やパリの「ランブロワジーL'Ambroisie」など一流レストランにも卸しています。
トラポン社の看板 アスパラ・ソバージュも販売中
今回伺ったのは5月の半ば。今が旬の天然キノコを見せてもらいました。出荷の時を待つ、モリーユ、ムースロン、サン・ジョルジュ、ジロールというフランスを代表する天然キノコが専用の大型冷蔵庫の中に所狭しと積み上げられていました。
モリーユmorilleの和名はアミガサタケといい、3月末から5月にかけて採取され、フランスでは春の訪れを知らせてくれる天然キノコです。価格も高価で、人気の高いセープと肩を並べる高級キノコでもあります。今回の取材にあたり、私自身もモリーユ狩りに行きたいと、多くの関係者に思いをぶつけてみたものの、みんな口をそろえて言うことは「知っていても内緒だから・・・」と教えてもらうことが出来ませんでした。プロの方でもモリーユを探すのはとても大変だそうです。
形は名前通り、蜂の巣のような網目模様の傘で中が空洞になっています。モリーユは、モリーユ・ブロンド(ブロンド色のモリーユの意)、モリーユ・ノワール(黒いモリーユの意)、モリーユ・ロンド(丸いモリーユの意)など何種類かありますが、必ず傘の部分と軸の部分が繋がっているそうです。よく、見た目そっくりのヴェルプVerpeというキノコと混同されがちだけど、ヴェルプは傘と軸が別々になっているとトラポン氏が実物の2種類を手に取り、教えてくれました。今までモリーユだと思い込んでいたものが、実は違う種類だったなんて、驚きと発見が同時にありました。一度もヴェルプと表記されているのを見たことがないですが、ヴェルプ・ド・ボエムverpes de bohéme(オオズキンカンブリタケ)という名で売られているそうです。実際、市場でも混同されがちなのだとか。見た目はそっくりですが、香りがモリーユより劣るそうです。皆さんも機会があったら確かめてみてくださいね。
モリーユは傘と柄がくっついている ヴェルプは傘とくっついていない
調理法は、ソテーや煮込み、ソースやクリームで和えたりします。また、ジュラ地方のヴァン・ジョンヌというワインとの相性も抜群です。ただし、毒をもっているため生では食べることが出来ません。モリーユは旬が2ヶ月間と他のキノコに比べても大変短く、年中使えるように乾燥したものが多く出回っています。一般家庭の食卓にフレッシュのモリーユが並ぶことは少ないようですが、一流レストランでは欠かすことができない春の食材の一つです。
この時期ムースロンmousseronというシバフタケがあります。ムースロンは芝生、牧草地に生息します。トラポン氏が「その辺の牧草地にも生えているよ」と言うので、後日シャトーの芝生をまじまじと探してみると、なんと見事にムースロンがポンポンと生えていました。ムースロンの特徴は、ビターアーモンドのような強い香りがあり、よくオムレツを作る時に一緒に混ぜ込んで食べられます。
また、同じく芝生に生息するトリコローム・ド・ラ・サン・ジョルジュtricholome de la St Georgeという白いキノコがあります。和名はユキワリといい、特徴は胡椒のような香りがするといわれます。どちらも春を告げる食材としてレストランでよく見かけます。
ジロール
もうひとつ、フランス料理に欠かすことの出来ないキノコ、ジロールgirolleも見せてもらいました。旬は6月から9月にかけてなので出始めたばかりの小さなものばかりでしたが、日本では見ることが難しいしっかりと締まった状態で、香りも強く立派なものがカゴに詰まっていました。和名はアンズタケといい、特徴は名前の通り、アンズのような香りがあります。水分量がそれほど多くないので痛みにくく、長距離の運搬にも耐えることが出来るらしく、日本にも比較的良い状態で輸入できるそうです。
続いて初夏から秋にかけて、トランペット・ド・ラ・モールtrompette-de-la-mort(クロラッパダケ)、セープcèpe(ヤマドリタケ)、シャントレルchanterelle(ミキイロウスタケ)などが出てきます。秋になればピエ・ド・ムートンpied de mouton(カノシタ)、プルーロットpleurote(ヒラタケ)、ピエ・ブルーpied bleu(ムラサシメジ)もフランス料理の食材として食卓を飾ります。
プルーロットの天然物は9月末から12月までですが、栽培種は一年中出回っています。皆さんもご存知の通り、日本でもヒラタケは栽培されています。「ヒラタケ」の名前のものも出回っていますが、「シメジ」もヒラタケの栽培ものですし、「エリンギ」「アワビタケ」もヒラタケ属の栽培キノコです。日本でもとてもなじみのあるキノコなんです。プルーロットには、ルージュ(赤)、グリーズ(グレー)、ジョーヌ(黄色)、ローズ(ピンク)など数種類あります。トラポン社では4月から7月までグリーズとルージュを栽培しており、その様子を見せてもらいました。
黒い培養袋の中に菌糸と低温殺菌して麦藁を砕いたものが詰まっていて、袋の表面に5か所程穴が開けられています。その穴に光が当たると、約2週間でプルーロットが顔をのぞかせます。特徴として、ルージュは香りが強く、若いものはメロンの香りがします。またグリーズよりも強い生命力があります。発育が良く、実際の収穫回数でいうと、同じ培養袋から12週間で5~7回収穫が出来るルージュに比べて、グリーズは12週間で3回の収穫と少なく、人件費、時間などのコストが余計にかかりますが、味と香りは素晴らしく、保ちがよいそうです。
栽培場の中は、グリーズが5~10℃、ルージュが18~20℃と、温度・湿度が管理されています。特にルージュは菌糸の働きで培養袋の中心温度が約30℃になるそうで、外気温が低くなるとサックを何段も重ねてやることで、四方が温まり、菌糸の苦手な温度下降を防ぐそうです。1トンの培養袋(625個)から約300kgのプルーロットが収穫でき、堅い部分を従業員が手作業で取り除くため約200kgの可食部分になります。その後、品質の見極める分別作業が行われます。特に綺麗なものは、いわゆるフランスの星付きレストランに出荷されます。調理法は、パセリ、にんにくと一緒にソテーするなどシンプルな食べ方が適します。肉や、白身魚、貝類などの付け合せに使われます。
掃除前のプルーロット・グリーズ 掃除後のプルーロット・グリーズ
日本ではなかなかお目にかかれないフランス産の天然キノコ。バターでさっと炒めるだけで立ち上る香りはまさに極上の香り。
キノコ好きの私ですが、ますますキノコの魅力にとりつかれました。昔からの夢だった「モリーユ狩り」はおあずけとなったものの、普段何気なく調理に使っている天然キノコの魅力を再確認したと同時に栽培者の愛を感じたキノコ取材でした。
みなさんもフランスに来た時はその時期だけの天然キノコを存分に召し上がってみてはいかがでしょう。
<コラムの担当者>
飯田 ゆうき
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