【半歩プロの西洋料理】涙が止まりません。
このタイトルは、あるときエコール辻大阪の実習室で学生が言った言葉です。
さて、みなさんは何を想像するでしょうか。
そうです、「玉ねぎ」のみじん切りです。
目を真っ赤にしながらその学生が聞いてきました。
「涙を流さずに玉ねぎを切るにはどうしたらいいですか?先生が平気そうなのはなぜですか?」
この質問を切っ掛けに、玉ねぎの調査をはじめてみました。
・玉ねぎの歴史について
玉ねぎの原産地は中央アジアとされています。そこからエジプトに、そして地中海沿岸からヨーロッパへと伝わっていきました。
玉ねぎはとても古くから栽培されており、紀元前3000年頃の古代エジプトの壁画にも描かれています
ピラミッドを建設するための労働者の食糧として、栄養価が高い玉ねぎが配給されていたとも言われています。
さて、日本には江戸時代に長崎に入ってきたのですが、当時は鑑賞用に留まり、食用に栽培されることはなかったそうです。
日本で初めて食用に玉ねぎが栽培されるようになったのは1871年の北海道になります。
そして、現在では玉ねぎは日本での野菜の生産量では第4位となっています。
・玉ねぎの成分について
玉ねぎが切られる、つまり細胞が切断されると、細胞の中のある種の物質が酵素に接触し、さまざまなにおい成分(硫化アリルなど)に変化します。
酵素の作用でできた硫化アリルには、ビタミンB1の吸収を促進したり、血栓の生成予防、インスリンや胃液の分泌促進、免疫機能の向上、がんの予防などの効果があると言われています。
また、玉ねぎに含まれる「ケルセチン」はビタミンPとも呼ばれるポリフェノールの一種です。この「ケルセチン」にも、動脈硬化を予防したり、活性酸素によるダメージを防いだり、血液をサラサラにする作用があるそうです。
・どうして涙がでるの?
さて、どうして玉ねぎを切ると涙が出るのでしょうか。何もせずにそのまま置いてある玉ねぎからでは、涙が出るようなことはないですよね。
それは、涙を流させる成分が、玉ねぎを切った時に初めて生成されるからです。
先ほどの説明のように、玉ねぎを切ると、さまざまなにおい成分が生成されますが、そのうちの一つが、涙を流させる成分(催涙成分)なのです。
この催涙成分は揮発性があるため、空気中に飛散し、それが目を刺激して涙が出てくるのです。
・では、本題の涙を流さずに玉ねぎを切る方法です。
まず一つ目は切れ味のいい包丁を使うことです。細胞を出来るだけ壊さないように押しつぶさずに切ることで催涙成分の発生を抑えていこう、ということですね。
私は切れ味のいい包丁と、押しつぶさないように切る技術が相まって、自然と涙を出さずに玉ねぎを切ることができていたようです。
もう一つの方法は温度が低い状態だと催涙成分が揮発しにくいこと、また酵素の反応が弱くなることを利用する方法です。
つまり玉ねぎを切る前に、冷蔵庫入れておいたり、急ぎの場合は氷水で冷やしたりするといいわけですね。
とはいえ、酵素の反応が少ないということは硫化アリルの生成が少なくなるということなので、涙を流さないことが一概にいいとは言えません。
冷たくした玉ねぎをみじん切りにした後は、すぐに使用せず、容器に密封して置いておくと、容器の中で酵素がしっかりと反応して硫化アリルが生成され、かつ催涙成分は外に逃げないので、涙を出さずに済むことになる、と言えるでしょう。
さて、学生からの質問を切っ掛けにいろいろと玉ねぎについて調べてみたところ、いろいろと有益な情報を得ることが出来ました。
調べて得たものから、効率よく栄養をとれそうな材料の組み合わせを考えて料理を一品考えてみました。
「豚ばら肉の煮込み、玉ねぎとりんご酢風味」です。
夏バテ防止に「ビタミンB1」が豊富に含まれている豚肉、その「ビタミンB1」を摂りやすくするための玉ねぎ。油脂が多く、甘味のある食材ですので、それらを食べやすくするために酸味をつける食材として、リンゴ酢を使用したレシピです。
今回のレシピでは豚ばら肉の塊を使用していますが、もちろんカットされたものを使用していただいても問題ありません。
夏バテ防止だけでなく、まだまだ残暑が厳しい今の季節にもピッタリのレシピですので、ぜひご家庭でも作ってみてくださいね。
参考文献:「料理のなんでも小事典」(講談社ブルーバックス)
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