【独逸見聞録】ジャム類の原材料:果物 ~ジャム(其の弐)~
ヨーロッパでは、10月最後の週末に「夏時間」が終わり、3月末の週末まで約5ヶ月「冬時間」が続く。「夏時間」期間中には、様々な果物が収穫時期を迎えてきた。だが、秋も深まると、国内産の果物といえば、リンゴ位しか見当たらなくなる。勿論、流通事情の良い今日では、ヨーロッパ南部や諸外国からの輸入果物は、沢山出回っているが・・・。
日本と比べると、外観にはそれ程拘らないため、大きさや形などは不揃いなものも多いが、新鮮な果物が豊富な時期には、そのまま生食する他、デザートを作ったり、簡単なケーキを焼いたりと、旬の味と香りを存分に楽しむ。また、「ジャム(Konfitüre:コンフィテューレ)」や「コンポート(Kompott:コムポット)」などの保存食にも加工される。
今回は、ジャムの主要材料となる、果物の種類と分類、その特性について紹介する。
★果物の分類
果物の総称は、「オプスト:Obst」である。同様に果実のことを、単数では「フルフト:Frucht」、複数の場合は「フリュヒテ:Früchte」と呼ぶ。
これらの果物をタイプごとに分ける場合、リンゴや洋ナシなどは、「仁果類(Kernobst:ケァルンオプスト)」、アプリコットやサクランボなどは、「核果類(Steinobst:シュタインオプスト)」、そして、スグリやキイチゴなどは、一般に「ベリー類(Beerenobst:ベーァレンオプスト)」と呼ばれる。
オレンジやレモンなどは、「柑橘類(Zitrusfrüchte:ツィトルスフリュヒテ)」、パイナップルやバナナなどは、「熱帯性果物(Tropische Früchte:トローピッシェ・フリュヒテ)」または「外来果物類(Exotische Früchte:エキゾーティッシェ・フリュヒテ)」と呼ばれている。
◆仁果類(Kernobst:ケァルンオプスト)
仁果(じんか)類は、主にバラ科のある属(特にリンゴ属およびナシ属)に属する、大木及び潅木の果実、及び温暖な気候で生産される仁果様の果実を収穫するもの。
種とそれを包む羊皮紙状の心皮で構成される芯を、果肉が包んでいるのが特徴。
芯を除いた果実は、生食あるいは調理加工して食する。
左から、マルメロ(Quitte:クヴィッテ)、リンゴ(Apfel:アプフェル)、数種類の洋ナシ(Birne:ビルネ)。
◆核果類(Steinobst:シュタインオプスト)
核果(かくか)類は、バラ科のサクラ属に属する大木で生産される果実、及び温暖な気候で生産される核果様の果実を収穫するもの。1個の硬い殻に包まれた種を果肉が包んでいるのが特徴。
種を除いた果実全体は、生食あるいは調理加工して食する。
左側上から、桃3種:蟠桃(Plattpfirsich:プラットプフィルジッヒ)、ネクタリン(Nektarine:ネクタリーネ)、モモ(プフィルジッヒ:Pfirsich)。
中央上から、ミラベル(Mirabelle:ミラベッレ)、セイヨウスモモ(Zwetschge:ツヴェチゲ)。
右側上から、サクランボ(Kirsche:キルシェ)、アプリコット(Aprikose:アプリコーゼ)。
◆ベリー類(Beerenobst:ベーァレンオプスト)
ベリー類及びその他小果実は、表面積/重量比の高い果実を有する多年生植物、あるいは低木に由来する。
種子を含む果実全体は、通常、生食あるいは調理加工して食する。
*イチゴは、実際の食生活では果物として扱われているが、植物学的には、草本性植物の果実を利用するという点で「果菜(かさい)類」に属し、スイカ(Wassermelone:ヴァッサーメローネ)やメロン(Melone:メローネ)と共に野菜に分類される。ドイツでは、ブドウ(Traube:トラウベ)など共に、「ベリー類」に分類されている。
上段左から、ビルベリー(Heidelbeere:ハイデルベーァレ)、キイチゴ(Himbeere:ヒムベーァレ)、クロイチゴ(Brombeere:ブロムベーァレ)。
下段左から、イチゴ(Erdbeere:エァトベーァレ)とセイヨウスグリ(Stachelbeere:シュタッヒェルベーァレ)、赤フサスグリ(Rote Johannisbeere:ローテ・ヨハニスベーァレ)。
ドイツでは、果物や野菜は量り売りにされることが多いが、ベリー類の様に小型で傷み易い果物は、専用のケースに入った状態で販売されている。この容器は、「ベーァレンシャーレ(Beerenschale)」と呼ばれ、500g、250g用などがある。パルプ(Holzschliff:ホルツシュリッフ)製の他、OPS、PET、PPなどの素材を使用した透明容器(Kunststoffschale:クンストシュトッフシャーレ)もある。
◆柑橘類(Zitrusfrüchte:ツィトルスフリュヒテ)
柑橘(かんきつ)類は、ミカン科ミカン属の常緑性潅木の果実を収穫したものである。
果実は球状で、芳香性の油分を含んだ果皮の内部に、薄皮に包まれた果汁に満ちた果粒状の果肉を含む。
果実は、生食やジュース、あるいは調理加工して食する。
左上から時計回りに、オレンジ(Orange:オーランジェ)、グレープフルーツ(Grapefruit:グレープフルート)、レモン(Zitrone:ツィトローネ)、ライム(Limette:リメッテ)、キンカン(Kumquat:クムクヴァット)、ミカン類(Mandarine:マンダリーネ)や(Clementine:クレメンティーネ)。
◆熱帯産果物類(Tropische Früchte:トローピィッシェ・フリュヒテ)
「外来果物類(Exotische Früchte:エキゾーティッシェ・フリュヒテ)」とも呼ばれる。
熱帯及び亜熱帯果実類は、多年生植物、通常潅木、あるいは大木の未成熟あるいは成熟果実に由来する。
果実は、生食あるいは調理加工して食する。
左上から時計回りに、パイナップル(Ananas:アナナス)、ザクロ(Granatapfel:グラナートアプフェル)、バナナ(Banane:バナーネ)、マンゴー(Mango:マンゴ)、キウイ(Kiwi:キーヴィ)、パッションフルーツ(Passionsfrucht:パッションスフルフト)。
★ペクチン含有量(Pektingehalt)
「ジャム」は、果実や野菜に多量の砂糖を加えて煮詰めた(105℃)もので、ある程度の粘度を持つ加工食品である。
植物の細胞壁や細胞間質の中には、「ペクチン(Pektine:ペクティーネ)」という名前の、天然の「ゲル化剤(Geliermittel:ジェリアーミッテル)」が含まれている。このペクチンは、「多量の砂糖」と「強い酸」の存在下で加熱されると、ゼリー状の網目構造を作る性質を持っている。
ペクチンの含有量は、植物の種類によってそれぞれ異なる。また、同じ種類の果実でも、その「成熟段階」によって、含有量は大きく変化する。
ペクチン含有量の低い果実でジャムを作る場合には、市販されているペクチンを添加し、補うこともできる。また、ペクチン含有量の高いものと低いものを組み合わせて、ミックスジャムにしても良い。因みに、市販されているペクチンは、柑橘類の表皮や、リンゴの搾りカスを原料として製造されたものである。
◆高(hoch)
リンゴ(Apfel:アプフェル)、マルメロ(Quitte:クヴィッテ)、オレンジ(Orange:オーランジェ)、セイヨウスグリ(Stachelbeere:シュタッヒェルベーァレ)、赤フサスグリ(Rote Johannisbeere:ローテ・ヨハニスベーァレ)、セイヨウスモモ(Zwetschge:ツヴェチゲ)など。
◆中(mittel)
アプリコット(Aprikose:アプリコーゼ)、ミラベル(Mirabelle:ミラベッレ)、モモ(Pfirsich:プフィルジッヒ)、キイチゴ(Himbeere:ヒムベーァレ)、クロイチゴ(Brombeere:ブロムベーァレ)など。
◆低(nieder)
洋ナシ(Birne:ビルネ)、イチゴ(Erdbeere:エァトベーァレ)、サクランボ(Kirsche:キルシェ)、パイナップル(Ananas:アナナス)、キウイ(Kiwi:キーヴィ)など。