【日本料理一年生】 36時間目 鯖きずし
●鯖きずし●
今年の日本料理一年生は、背の青い魚の中で、我々に馴染みの深い鯖を使ったメニューを紹介しています。今回は「鯖きずし」についてお話します。
「きずし」は、「生寿司」とか「生鮨」などの漢字をあてることがあり、みなさんよくご存知の「握りずし」や「巻きずし」と同じすしの仲間です。
もともと「すし」は、タイ北部で作られていた「プラソム」や「プララー」から始まったのではないだろうかといわれています。タイ語で、「プラソム」の「プラ」は「魚」、「ソム」は「お酢」という意味です。「プララー」はタイ風の「熟(な)れずし」で、川でとれた小魚を塩漬けにし、もち米と共に漬け込んで乳酸醗酵させて作る保存食です。現在でもタイ北部ではこれらの料理が家々に作られていて、作り方も家ごとに異なるようです。
こういった料理が中国を経て、弥生時代に米と共に日本に伝わったといわれています。現存するものでいちばん有名なのが、滋賀の「鮒ずし」です。
●道の駅、東近江市の「あいとうマーガレットステーション」で販売されていたものです●
「鮒ずし」の作り方は、まず、冬にとれた琵琶湖の子持ちの鮒を「つぼ抜き」といって、えら蓋から内臓を取り出し(卵巣は残します)、樽に入れて、たっぷりの塩で塩漬けにします。そして、夏に充分に塩のまわった鮒を、今度はご飯と共に樽に漬け、冬まで乳酸醗酵させるのです。
出来上がったとき、鮒のまわりのご飯はおかゆのようにドロドロになっているため、鮒だけを取り出して薄切りにして食べます。特有の香りがあるため、敬遠する人も多いようですが、酒の肴としたり、ご飯の上にのせて「お茶漬け」にして食べたりするのが最高といわれています。
さて、「きずし」は、「すし」の本来の形である「熟(な)れずし」を即席にしたものです。鯖に塩をあててしばらくおき、乳酸発酵の時間を短縮するため、酢でしめて「熟(な)れずし」に近い状態にするのです。「熟(な)れずし」の生に近い状態のものを「生熟(な)れずし」といいますが、これが「きずし」の語源ではないかといわれます。
「きずし」という言葉は西日本、主に関西圏の言い方で、東日本では「しめ鯖」といわれています。一説には、鯖の処理の方法は同様なのだけれども、酢に浸す具合が異なるともいわれます。この説でいうと、「きずし」は酢の浸かり具合が深くて、「酢の物」のひとつとして何もつけずに食べますが、「しめ鯖」は酢の浸かり具合が浅いため、「刺身」のひとつとして山葵や生姜とともに醤油をつけて食べることが多いということです。
●本校で作った「鯖松前ずし」●
この「きずし」を使った京都名物が「鯖松前ずし」です。かって、京の都は海から離れていたため、日本海の若狭湾でとれた鯖の内臓を取り除いて開き、塩をあてたものを人が担いで、福井県の小浜から京都市の出町柳を結ぶ「鯖街道」を通って運んでいました。約80kmを一昼夜かけて運ぶ間に、鯖全体にほどよく塩が行き渡っていたため、そのまま酢に浸せば「きずし」が出来上がりました。
●本校で作った「鯖松前ずし」と「箱ずし」の盛り合わせ●
この「きずし」とすし飯を合わせて「棒ずし」を作り、北海道の松前から北前船で運ばれた昆布で巻いたものが「鯖松前ずし」です。これは出来上がりをすぐに食べるよりも、2~3日おいたものの方が、鯖とすし飯と昆布が一体となってより美味しくいただけます。
タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
小谷良孝
辻調の御言持(みことも)ち
重松麻希
<このコラムのレシピ>
鯖きずし
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