【百人一首と和菓子】あかつき
<【百人一首と和菓子】ってどんなコラム?>
お菓子について
恋において、夜明けの別れほどつらいものはありません。
和歌には、季節は明確に書かれていないのですが、恋の寂しさから秋をイメージし、秋の七草である葛から取れる葛粉を使って、葛焼きを作りました。
月の部分には、栗の甘露煮を加えて、口解けのよさの中にも食感を出しました。
表面に上用粉をまぶしてさっと焼くことで、寂しげな月を表現しています。
豆辞典
30 壬生忠岑(みぶのただみね)
生まれた年も亡くなった年もはっきりしませんが、平安時代前期を生きた人で、41番の歌の作者壬生忠見の父親です。官位は低かったようですが、歌人としては有名で、『古今和歌集』の選者の一人であり、三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)という歌詠み名人にも名前が入っています。
『和歌体十種(わかたいじっしゅ)』という歌論書を著したともいわれます。御厨子所(みずしどころ)に膳部(ぜんぶ)として仕えていたことがあるようなので、宮中の料理人だったと分かります。
今で言うと、流行のシンガーソングライターでありながら、料理の腕前も中々の人という感じです。
さて、歌の方は、
有明の月が夜明けも知らないふうに空にかかっていたときに女性と別れてからというもの、私は明け方ほど、つらく苦しいものはなくなりました。
というくらいの意味です。
同じ歌が『古今和歌集』にも入っていますが、こちらは「よみびとしらず」といって、歌の作者を不明としています。
当時の恋は、男性が女性の家に通う形式です。夜になると男性が女性の家にやってきて、夜がまだ明けきらないうちに帰ってゆきます。この別れのとき、どういうわけか、女性の態度が大変よそよそしかったのです。そのとき以来、夜明け前のあかつきになると、このときのことを思い出して、大変つらくなったというのです。
「つれなく」見えたのが、女性か、月か、この両方かと解釈が分かれたり、女性に逢って帰るときの気持ちか、逢えないで帰るときの気持ちかとも解釈が分かれたりしているようですが、おおよその意味で解釈したとしても、作者のつらい気持ちには、1,000年以上の時を越えて、共感できる歌のように思います。