第20回メートル・ド・セルヴィス杯 [プロ部門] 西洋料理・伊藤健人先生が準優勝
2023年11月9日(木)、セルリアンタワー東急ホテルで開催されたサービスコンクール「第20回 メートル・ド・セルヴィス杯」決勝において、辻調理師専門学校の伊藤健人先生が準優勝という成績をおさめました。本大会は、フランスレストラン文化振興協会(APGF)のもと、フランスに本部を置く権威「クープ・ジョルジュ・バティスト協会(CGB)」の特別後援により運営されている、日本国内唯一の世界基準のレストランサービスコンクールです。
伊藤先生が本コンクールにエントリーしたのは初めてとのこと。予選は3つの課題からなる書類審査、準決勝では予選通過上位10名による外国語(フランス語または英語)によるオーダーテイク・料理実技・デザート実技審査がおこなわれ、準決勝上位5名からなる決勝審査に駒を進めました。決勝審査は一般公開で、バンケットホールにレストランを用意し、1名のコミ・ド・ラン(アシスタント)とともに1卓4名のゲストにフルコースのメニューをサービス。ゲストのお迎え、コミ・ド・ランへの指示と円滑な進行、テーブルセッティング、使用器材の準備、料理の知識、ゲストとの会話力、お見送りまでの振る舞いなど、総合力が審査されました。
調理師学校の教員として日ごろは教壇に立つ時間が長く、必然的に現場のサービスマンより経験が浅くなる中、初出場ながら準優勝という結果は快挙と言えます。伊藤先生、おめでとうございます!
●第20回 メートル・ド・セルヴィス杯《2位(2ème)》●
伊藤 健人〔いとう けんと〕先生 (辻調理師専門学校・西洋料理)
●伊藤先生のコメント●
この度は栄えある賞をありがとうございます。本コンクールには初めての挑戦で、準優勝という結果を得ることができ、驚きとともに自信にもなりました。メートル・ドテルとは、ゲスト(お客様)へサービスをする部門の最高責任者です。ゲストを迎え入れる前のプランや特別メニューを作成することはもちろん、スタッフに指示を出しながら、テーブルサービスをおこないます。
実は元々サービスに興味はなく、正直にいうと接客は好きでなかったほうです(笑)。転機となったのは、辻調上級校の辻調理技術研究所(以下「技研」)で、サービスの授業を本格的に受けたこと。当時、担任は三浦和也先生(第15回大会優勝)で、サービスの授業は秋場直純先生(第13回大会準優勝)が受け持っておられました。外来講師には、宮崎辰さん(クープ・ジョルジュ・バティストサービス世界コンクール優勝)という鉄壁のラインナップです。普通、接客といえばアルバイトをイメージしますが、レストランサービスは全くの別物で、ゲストの反応を直接見られるのが楽しかった。徐々にサービスの世界に感化されていきました。技研時代の出会いがなければ、今の自分はなかったと思います。
卒業後は東京のジョエル ロブションと大阪のプレスキルで現場経験を積んでから、母校へ教員として戻ってきました。コンクールにはずっと出場したかったので、準備は絶えず続けていました。様々なアドバイスをくださった先輩方に、この場を借りてお礼申し上げます。
書類審査、実技ありの準決勝、決勝と駒を進めるにしたがい、難度は上がっていきます。準決勝はオーダーテイク・料理実技(鴨ローストの切り分け)・オリジナルデザートのフランベ実技審査でしたが、時間も仕事内容も技術面では問題はないだろうと手ごたえがありました。準備段階で試行錯誤したデザートが、そこに込めたストーリーも合わせて大変評価されたと聞いたときは嬉しかったです。
ところが決勝審査は準備期間もなく、ブラックボックスで挑むスタイルなので、初出場の私にとっては不安ばかりでした。フルコースを提供する形式が採用されたのも、久々だったようです。何が来ても対応できるように練習していましたが、それでもやはり手探り状態で、最後まで半信半疑だったのが正直なところです。蓋を開ければ2位という成果を得られたことで、しっかり準備できていた自信がつきましたし、自分の強みを認識することもできました。料理人がベースとしてあることも、良い方向で作用していると改めて思いました。メニューを見ただけでも料理がイメージできるし、深いところまでゲストに十分な説明ができる。これは大きな強みだと思います。
私がサービスしか知らない人間なら、例えば料理人が「料理が仕上がるまであと5分待ってよ」という状況の背景が想像できないし、逆に料理人なら「なんで作ったばかりなのにすぐサービスしてくれないんだ」と思うかもしれない。料理人とサービスは、チームワークでレストランを作り上げていくものです。シェフをめざす学生にも、サービスという面からお客様を識る大切さを伝えています。私は料理を作る人、あなたはサービスをする人、では円滑に回らない。サービスを学んでおくことは、将来的に絶対に無駄にならない。学生たちがそう思って、サービスの世界に触れてくれたらいいなと思います。
私が辻調に戻ってきた理由は、そこにあります。サービスを突き詰めるなら現場の方が良いですが、伝聞や口伝ではない正しい知識と技術を身につけ、若い人に伝え、サービスの道を志す人を増やす役割は、学校で担える部分が大きいと思います。料理人になりたかった学生時代の私が、サービスのトップレベルの先生たちに教わり、卒業時にはサービスマン志望に転向していたように。「学校で知ったことだから、今度は自分が学校で伝えたい」と強く思います。調理の学校の教員という立場で、レストランサービスの地位向上に貢献できれば大変嬉しいです。
決勝審査の様子