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中国料理TOPへ好吃(ハオチー)!中国料理! コラム一覧へ
連載コラム 好吃(ハオチー)!中国料理!
北京料理、上海料理、四川料理、広東料理、点心と5つのジャンルを、それぞれ担当の厨師(料理人)、点心師(点心専門家)が、中国での体験を交えながら料理の作り方とそれにまつわる話を紹介します。まずは、基本的な料理から始めましょう。
揚豆腐の辛み煮込み
家常豆腐


揚豆腐の辛み煮込み

大使館の厨房 ウズベキスタンの日本大使館で約3年間料理を作っていた話は前回(タンタン麺の項参照)にも書きましたが、ウズベキスタンの気候をご存知ですか。砂漠気候で、夏は暑く冬は寒く、その温度差は70℃もあるのです。夏になると気温が50℃を越えるのです。「50℃を越えると働かせてはいけない」という決まりがあるらしく、どんなに暑くても気象台の発表では、49℃とかいっていたのですが、現地の人は「今日は60℃くらいあるなぁ。」と平気で話していました。湿気が少ないので、日陰に入るとぐっと過ごしやすくなります。一方、冬はマイナス20℃の世界。家々では暖房にガスを使うので、急に寒さが増した時など、調理場にあるコンロまでガスは回ってきません。がんばってもチョロチョロ。こんな日に大人数の宴会が入らなかったのはラッキーとしかいいようがありません。

 さて、料理の話です。以前何かの本で、「海外で暮らす日本人が一番欲しがる野菜は大根だ。」と読んだことがあります。日本を出ても肉と野菜は大概揃うように思いがちですが、そうではありません。もちろん国によっては日本食のレストランや食材を扱う店もありますが、それすら夢のまた夢という所も多いのです。

 ウズベキスタンの大使館出向の際、一番悩んだのはこの点で、中でも豆腐をどのように入手するかが一つの課題でした。大豆を持っていくのは可能だし、豆乳も作れます。でも、どうやって固めるかとなると悩んでしまいます。にがりが簡単に手にはいるのはもう少したってから。もしあったとしてもやり方がわからない。結局何も手立てがないまま日本を飛び立ちました。

 途中フランクフルトで一泊したのですが、そこで案内された日本食材店では驚いたことに、パック詰めの豆腐や手作り豆腐の素が売られていたのです。この手作り豆腐の素は25年近く前に日本でも売られていたと記憶していますが、いつしか目にしなくなっていたものです。随分久しぶりに見たわけですが、かなりの数を買い込んでいったのはいうまでもありません。この店は他にも魚、海老、イカ等の海産品、日本の調味料など種類も豊富で、変わった所では手作りコンニャクの素などもあり、ウズベキスタン滞在中随分とお世話になりました。

 現地で仕事をしてしばらくたったころ、公邸にお越しになったお客様から嬉しいニュースがもたらされました。なんと、このタシケント市内で豆腐が手に入るというのです。中央アジアでイスラム教徒の多いこの国に豆腐があるとは、にわかには信じがたい話でしたが、実際に行ってみるとあったのです。

 そこはクイリュックバザールといい、タシケントの市街地を南に少し下った所にあり、朝鮮系の人々が独自のコルホーズを形成しています。現地の方はここをカリスキー(朝鮮の)バザールと呼んでいました。ざっと見たところ、他のバザールとなんら変わりないのですが、その中にいかにも朝鮮という風情の一角があります。メイドさんとわたしそこには大豆を原料としたモヤシ、豆腐が一年中並び、季節にはホウレンソウ、(根元から株分かれしている)白菜、(ごく稀に売りに来る)サツマイモ等普通のバザールでは手に入らないものが売られているのです。他に調味料として中国製醤油、驚く程粒の大きい旨味調味料、やや泥臭さを感じる味噌などもあります。 また春から夏にかけてのほんの1〜2週間ですが、蒜苔(ニンニクの花茎)も売られています。日本にある物のようにまっすぐ伸びるのでなく、くるっと巻いてあるのですが、シャキシャキした歯ごたえと甘味が際立っています。野菜は現地で作られているとして、他のものは北朝鮮から運ばれてくるという話でした。以前日本から北朝鮮に米が輸出された際、日本米がタシケントで売られているという噂が現地の日本人の間でまことしやかにささやかれたものです。他のバザールでよくキムチを見かけるのですが、白菜のキムチはこのバザールでしか手に入らないのです。

 さて、豆腐ですが、ここの豆腐を食べるといささか豆腐に対する概念が変わるかもしれません。とにかくここの豆腐は「固い!」の一言に尽きます。豆腐を買って、買い物かごを振り回していたら、かごは手から離れて3メートル先に着地。でも、豆腐はつぶれることなく元の形を保っていました。その固い豆腐、ここでは大抵女性が手押し車に水を張ってその中に豆腐を入れて売りにきています。さあ、どれを買おうかと決める前にまず味見をします。近づいて手を差し出すと豆腐を一つ取り出し、味見用に端を少し切ってくれるのです。この国では野菜でも、果物でも必ず味見させてくれます。で、いくつか試食するのですが、おいしいかまずいではなく、いかに臭いの少ないものを選ぶかなのです。 この国の豆腐はにがりではなく石膏で固めているからか石灰臭いので、できるだけその臭いの少ない物を選ばなければなりません。

 固いという事は料理しやすいという利点がありますが、柔らかい豆腐になれた日本人には少しつらいものがあります。冷奴などは当然だめで、味噌汁に入れるのも適していません。その代わり、飛龍頭、揚げ豆腐、ステーキ、煮物等には本当に威力を発揮してくれました。特に飛龍頭は形が作りやすく、きれいに揚がるので、和食の宴会では定番メニューになるくらいでした。揚げやすいので、素揚げしてからピリ辛の味付けで煮込む家常豆腐も、中国料理の宴会で白いご飯と一緒に、またお惣菜としても出していました。

 大使からよくこういわれました。「食材に関しては空輸も含めてできる限りの努力はするが、できるだけ現地の食材を生かす努力もしてほしい。」

踊るウズベキスタン人 この言葉通りヨーロッパ、タイ、モスクワ等から色々な食材が運ばれてきて、どれほど心強かったかわかりません。でも、それ以上に、その土地のものを生かしておもてなしをすることが、どれほど大切かを学んだと思います。宴会でお酒が入ると陽気に踊りだすウズベキスタンの人々。現地の食材を上手く生かすのは、それを育てた人々の心をも大事にしたいという気持ちにつながるのではないかと思うのです。

 今回の「揚豆腐の辛味煮込み(家常豆腐)」は四川の豆腐料理としては麻婆豆腐と並ぶポピュラーなメニューです。日本の豆腐の特徴を十分に発揮した口当たりが軟らかく滑らかな仕上がりをお楽しみ下さい。



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レシピ 揚豆腐の辛み煮込み

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