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今までは本校の先生方の思い出話とか料理にまつわる話、歳時記等の話が中心でしたが、今年は日常を振り返り、例えば「チャーハンをパラパラに上手に作りたい」とか「プリプリエビチリを作りたい」とか、より具体的、実践的な内容でお贈りします。つまり、ある料理にスポットを当てそれに関する疑問に答え、どのようにしたらより美味しくなるかを考えます。けっして難しいことはないのですが。 |
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塘:
気が付くと、早いものでもう年を越してしまいました。寒さがひとしお身にしみ、身体が芯から冷えて来ますよね。こんな時は煮込み料理は如何でしょうか?あつあつの煮込み料理を食べると身体の芯から温まり、疲れた身体も心も癒してくれると思います。そういうことで今回は小峰先生に飛びっきり美味しい土鍋を使った煮込み料理を紹介してもらいます。土鍋煮込みのコツとか他にもいろいろ聞きたいと思います。
小峰:
今回の料理は「蟹粉獅子頭」という料理です。以前私が働いていたお店、東京吉祥寺「知味 竹爐山房」(コラム「パラパラチャーハンが食べたいな」の項参照)で作っていた料理です。揚州の名菜に大きな肉団子を土鍋で煮込んだ料理があります。「清燉獅子頭」といいますが、今回の料理はこれに上海蟹を加えたものです。「獅子頭」と言うのは大きな肉団子で、揚州に古くから伝わる料理です。あっさりしていて箸で取ろうとすると、崩れそうなほどふわふわしている、やわらかくお年寄りにも喜ばれる料理です。土鍋に入った肉団子が今にもほえ立てそうな獅子の頭に見えたのでこの名が付いたと言われています。家庭で長時間加熱するのは手間だとは思いますが、天下一品の名菜を是非作って味わって見て下さい。
塘:
美味しそうですね。今回の土鍋の煮込み料理、材料はどんなものを用意したら良いの?
小峰:
昔、先輩から煮込みの極意ということで「有味出味,無味入味」と言う言葉を教えていただきました。先輩は恩人の上海人から教わったといいます。「味が有る材料から旨味を引き出し、そして、そのものに味は無いけど染み込ませると美味しくなる材料にその旨味を吸わせる」という意味です。旨味をかもし出す素材「有味」とその旨味を吸い込んでこそ、その力を発揮する素材「無味」、それらのバランスが煮込み料理を何倍にも美味しくしてくれるということです。
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蟹ミソがたまりません! |
ところで一般的な土鍋の煮込み料理において、旨味をかもし出す素材「有味」にはどんなものがあるのでしょうか。例えば鶏腿、手羽、豚肉、魚、蟹、干しエビ、干し貝柱、スルメ、いろいろあります。出汁の材料だったり、メインの食材だったりしますがなんでもかんでも入れれば良いというわけではなくバランスが大切です。表現は難しいですが「味が体中に染み渡る」というような感覚の旨味ならいいのですが、素材と素材の旨味や香りが喧嘩して「確かに旨味は強いけれど、一口でもういいや」というような感覚の旨味ではいけません。今回の料理は粗く叩いた豚ミンチに上海蟹のみそを混ぜ込んで大きな肉団子を作ります。これが今回における「有味」。蟹のみそが煮込むと同時に汁の中に溶けだす、その濃厚な磯の香りと舌をふわっと柔らかく包み込むような優しい豚肉の旨味が土鍋の中で一つのハーモニーを醸し出しています。
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影の主役、それは味が染みた白菜 |
そして、次に味がしみ込むもの「無味」です。白菜、大根、蕪、タケノコ、里芋、豆腐、春雨、コンニャクなどがあります。どれも地味ですが、無いととたんに料理に魅力がなくなるものばかりです。主に根菜が多いですが、長時間加熱してもあまり煮崩れないものが良いでしょう。寒い時期の根菜類は甘みが増し、更に味を吸わせる事により一段と美味しくなります。今回の「無味」は白菜です。一般に肉類と白菜は非常に相性がいいです(訳は「ビールで餃子を食べたいな♪」のコラム参照)。上海蟹と肉の旨味が染み込んだ白菜は、もしかしたら主役の団子より美味しいかも。トロトロ白菜をご飯に乗せていただく、これに勝るものって無いと思います。
塘:
味付け方法や材料の入れるタイミングはどのようにしたら良いですか?
小峰:
煮込む時の最初の味付けは必ず薄味にして下さい。長時間煮込むと旨味がどんどん出るし、水分も蒸発するので味が濃くなります。最初に塩味を決めてしまうと仕上がりのときに辛くなり過ぎたり、「無味」の材料もその染み込み具合がそれぞれ違うので味のバラツキが出ます。薄味でじっくり煮込んで、最後に調える方が良いでしょう。材料の入れるタイミングですが、素材によって異なります。基本的には食材が程よい柔らかさになり、味が染み込む時間を逆算して硬いもの、味が染み込みにくいものから入れて下さい。食材によって油と相性が良い物がありますので、白菜やきのこ類、肉類など一度炒めてから煮込むと材料の香りと甘みが引き立ち、さらにおいしく仕上がります。また、煮崩れやすい魚などの素材は一度揚げると香りも増すし、煮崩れもしにくくなります。
塘:
他に気を付けるところはありますか?
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くっつきを防ぐものとして白菜(上) 鉄板(中)、クッキングシート(下) |
小峰:
土鍋の煮込み方で気を付けて頂きたい所があります。土鍋は熱伝導が悪く、鍋底に熱がたまりやすく焦げ付きやすいのです。そこでクッキングシート、鉄皿、または白菜などの葉野菜を鍋の底に敷くとくっ付いてこげることがありません。火加減は、弱火でコトコト煮込むようにします。最初はなかなか温度が上がらないので気をもみますが、逆に強火にすると今度は土鍋が熱くなり過ぎた時に温度が下がるのに時間がかかりますので焦げる恐れが・・・。やはり、ゆっくりと温度を上げるように加熱して下さい。鍋の大きさ、形によって煮込み時の水分蒸発量が変わりますので、蒸発したら小まめに水分を加えて下さい。沢山作り過ぎて余ってしまった時は、粗熱を取り冷蔵庫で保存。一晩置くと味が浸み込みおいしくなります。再び食べる時に電子レンジで温め直すと早く中心まで温まります。2〜3日はおいしく頂けると思います。
塘:
今回は上海蟹を使いましたが、手にはいらない場合はどうしたらいいのでしょう。
小峰:
上海蟹が手に入らなければ、入らないでOK。そのまま上海蟹をはずし、他の材料はそのままで作っても十分おいしいですよ。ただ料理名が「蟹粉獅子頭」から「清燉獅子頭」に替わります。
塘:
小峰先生の「大きな肉団子の土鍋煮」にまつわる思い出を聞かせて下さい。
小峰:
僕が以前に勤めていた店の話です。毎年12月になると、この「大きな肉団子の土鍋煮」に上海蟹を入れて「蟹粉獅子頭」として1回40〜60名分ほど仕込みます。その豚肉の量は4〜6kgほど。
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上海蟹(蒸したもの) |
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身を取り出すのが大変!大変! |
何が大変かと言いますと、「全て手で切る!」。もちろん仕事は肉を切るだけではありませんので、いかに速く肉を切る事が出来るかが大切です。ある時、生肉を切りながら思い出しました。冷凍の肉は切りやすく正確に切れる事を…。さっそく実践してみましたが、冷凍庫から出したばかりの肉は硬くて切れませんでした。そこで、今度は半解凍した状態で切ってみました。すると「切れやすく、速い!」と言う事が解かりました。時間で言うと3倍近く早くなりました。これを機会に豚肉は半解凍をして切るようになりました。また「蟹粉獅子頭」には上海蟹の味噌とほぐした身がたっぷり入ります。上海蟹は小振りの分、掃除がしずらく、なかなか作業が進みません。上海蟹の掃除はそっとアルバイトさんにお任せして、さっさと他の仕事をしていました(笑)。材料が揃い料理長(山本豊氏)に「獅子頭の仕込みお願いします」と声をかけ、味を入れて頂きます。肉を練るのは私の役です。だけど、肉は解凍したばかりなので練る時は手がちぎれるほどに冷たい。沢山の量を練り終わり、グラム分けをします。その後、食材の保存、在庫の確認・・・・・・そうして1ヵ月・・・・・。その年を終え、新年を迎えます。あぁ〜懐かしいな〜竹爐山房…(涙)。
「人は自然から離れる事はできない」
これは私が竹爐山房を退社するときに料理長から伝えられた一言です。自然から一時的に離れて生活は出来ても、ずっと離れて生活する事は出来ないという事です。確かに、食材の「旬」はいつかと聞かれると、良く解からない物も多いですね。1年中スーパーに並ぶ食品は、何のためらいもなく籠の中に入れ、購入される。自然のエネルギーで育った野菜にこそ、人が必要な「気」が宿っています。栄養的にも精神的にも良いものだと私は信じています。
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