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北京料理、上海料理、四川料理、広東料理、点心と5つのジャンルを、それぞれ担当の厨師(料理人)、点心師(点心専門家)が、中国での体験を交えながら料理の作り方とそれにまつわる話を紹介します。まずは、基本的な料理から始めましょう。 |
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蠔皇干鮑 |
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干しアワビにあこがれて
中国料理の高級食材で「四大海味」として、「参鮑翅肚」が挙げられます。海参(ナマコ)、鮑魚(アワビ)、魚翅(フカのヒレ)、魚肚(魚の浮き袋)のことですが、中でも価格の高い干しアワビは実際に口にする機会はほとんどありません。
中国料理を始めて間もない20数年前、香港の「富臨飯店」で初めてアワビを食べたのです。ここは「阿一鮑魚」ともいい、広東から50香港ドルを握りしめて香港にやってきてサクセスストーリーを地でいき、「アワビ大王」と異名をとる楊貫一氏のお店ですが、当時は評判
になったばかりで、今から世界に羽ばたこうという時期でした。
四頭の干しアワビ(網鮑:モンパウ)をいただきました。このサイズは、
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富臨飯店のアワビ 一切れ5000円也 |
今では幻となり、ほとんど手に入りません。アワビの大きさは「頭(とう)」で示します。香港で1斤を600gとしていて(ちなみに、中国大陸では1斤500g)、アワビは1斤(600g)における個数で表わすのです。四頭は乾燥状態で1個150gのものです。網鮑は1.5kg以上の日本産マダカアワビを干したもので、アワビは成育が遅く、この大きさを確保するのは至難の業です。希少価値から、価格は年々ウナギ登りで、その当時でも売値で1個3万円、それを6枚にスライスして、一切れ5000円というべらぼうな金額でした。
若僧には不似合いな高級店で幸運にもいただく機会に恵まれ、「口福」を噛みしめました。光沢のある飴色で、かぐわしい乾物特有の香り、独特の深みのある味、もちっとした滑らかな食感、何もかもが衝撃的でした。
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福臨門のアワビ |
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リージェントホテルのアワビ |
残念ながら、今では乱獲のあおりを受けて原料の大型マダカアワビが採れなくなり、香港の乾物問屋でも大型で質の良いアワビを見かけることはほとんどなく、希少価値に更に拍車をかけることになりました。
現在は中型の黒アワビ、エゾアワビが主流ですが、香港では青森県大間、岩手県吉浜産が最高峰とされ、産地名から窩麻鮑(ウオマーパウ)、吉品鮑(カッパンパウ)と呼ばれ、ブランド品として扱われています。
干しアワビは購入するもので、作るものではないという概念にとらわれていたのですが、探求心から一度実際に干しアワビを作りたいと衝動にかられ、トライしてみました。本心は安く作ることができれば、調理師学校の生徒に気軽に食べさせる事ができるのでは、という単純な発想で、自己満足の世界ですね。
いよいよ挑戦です。自家製干しアワビの作り方はレシピをご覧下さい。そして、このアワビで煮込み料理を作ってみました。出来上がったアワビをドキドキしながら切ってみると、中央においしい印の溏心(半熟状)が現れ、ちょっと感激。でも、特有の風味が少し足りないのは、アワビの品質が最高レベルでなかったからか、アワビを干すのに何か難点があったのでしょうか。
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学校の屋上でアワビを干す |
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中央が少し赤くなっているのが溏心 |
大阪校の屋上で干したのですが、あらためて環境の大切さを思い知らされました。アワビのおいしさの秘密は、原料の質もさることながら、乾かす工程にあるのです。乾燥の工程は単に水分を飛ばし、乾かすだけでなく、透き通る光沢や、旨みをはぐくむ大切な時間でもあります。東北の厳しい浜風に吹きさらされてこそ、あのふくよかな旨みを授かるのです。まさに自然の恵みです。大阪の風は、少しアワビには優しすぎたかもしれません。
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