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香港が大好きで、何回も通っているのですが、一番怖かった経験をお話しましょう。1990年、今からちょうど15年前になります。香港にもだんだん慣れ、広東語も話せるようになり、ついつい時間の観念が薄くなり、香港島で宵夜(夜食)を食べ、余りに美味しかったので、尖沙咀(チムサーチョイ)のホテルに泊まっていることも忘れて盛り上がっていま
した。時計を見ると、電車もフェリーもない、そろそろ店じまいということで、店からも追い出されてしまいました。どうしようかと仲間5人とそろってとぼとぼ歩き始めました。銅羅湾から、知らず知らずにフェリーの乗り場に向かっています。湾仔あたりで、客2人をのせ、船頭さんが2本の櫂で必死に漕いでいる、幅1メートル、長さ2メートルくらいの小舟に出会いました。空の小舟の船頭さんが声をかけてきました。「どこに行くんや?」「チムサーチョイ。」「日本人か?」「日本人です。フェリーも電車もなくこまっているんや。助けてよ。」話を聞くと僕達のように乗り遅れた人を香港島から九龍半島まで運ぶ渡し船のようでした。渡りに船と乗せてもらうように交渉しました。とりあえず2艘あり、まず、僕と体格のよい、二人合わせて約200kgの屈強コンビが乗って様子をみることにしました。 |
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百万ドルの夜景を眺めながらの優雅な船旅・・・・・・どころか、まだ、岸が見えている時はよかったのですが、中ほどに進むにつれ、仲間と離れ離れ、辺り
一面はネオンの光りの届かない暗い海で、もしかしたらどこか知
らないところに連れて行かれるかもという不安もあり、小舟はひ
っくり返りそうなくらいやけに揺れる。さらに、真冬なので寒い!
不安が不安を呼び、怖くて怖くて、恐怖の20分でした。チムサーチョイのフェリーの船着場に到着した時はホッとしましたが、安堵するには早すぎます。早く仲間も戻ってこられるようにしなければ。しかし、船頭さんはなかなか出発しません。「疲れたのかな?」。どうやら、香港島に行く客を待っているようです。さすがに片道料金を払って早々と舟を出してもらいました。しばらくして、残っていた仲間が無事到着して感激の再会を果たしたのはいうまでもありません。 |
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ところで、時間を忘れるほど美味しかったのは「酔鶏鍋(酔っぱらい鶏鍋)」でした。山薬(ヤマイモ)、紅棗(ナツメ)、当帰(トウキ)、圓肉(リュウガン)、
(オウギ)などの漢方スープの入った鍋に、ぶつ切りにした鶏肉、青ネギ、ショウガ、クコに、紹興酒がたっぷり。唐辛子入りの醤油、卵の入った取り碗で各自いただきます。食べているうちに紹興酒が効いて、「武松の虎退治」のように気が大きくな
ってきます。あの怪しげな手漕ぎの舟に乗ったのも、「タクシーに乗る」ということを思いつかなかったのも、酔いが手伝っていたからかも知れません。 |
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香港の競馬場といえば(ハッピーバレー競馬場)。馬はレースで一体どれくらいの距離を走るのかと仲間と6人で競馬場の外周を速歩きです。全
くばかばかしいと思いつつ30分以上も歩いていたのですが、途
中でちょっと素敵なデザート屋を見つけました。香港らしくない
のです。金ピカ、赤、龍というイメージとは離れて、店全体がパ
ステルカラー、やさしい色調です。10人も入れば一杯になるような小さな店で、素敵なマダムがクレープを焼いています。マンゴーとホイップクリームのクレープ包み、豆花紅花沙(豆腐花入りお汁粉)、芒果布甸(マンゴープリン)・・・・・・。どれもおいしい、很好吃、好好食です。後で聞くと、非常に繁盛していて銅羅湾に2号店をだしたとか。こんな店もあるのですよ。 |
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この時の旅行では毎朝、焼臘飯店で御飯を食べていました。叉焼肉(チャーシュー)+油鶏(鶏の醤油煮込み)を御飯にのせた叉鶏飯です。健康に留意してサイシンを添えていただきます。3日目ともなると40代くらいの老板は「モーニング」といって、座ると即、叉鶏飯がでてきます。顔を覚えてくれたのはうれしいけれど、本当はランクを上げて焼肉+焼鴨の御飯が食べたかったのです。翌朝は店に入ると、すぐに壁のメニューを指差し、オーダーしてから着席です。今度は老板が「スープもあるで。」と例湯(日替わりスープ)を出してきてくれました。湿気の多い香港では、飲むと汗をかき爽やかになる、野菜と肉をくたくたに煮込んだ日替わりスープの例湯は欠かせません。今日は、青ダイコン、ニンジンと豚足のスープ。肉鴨飯、レタスのオイスターソースがけに例湯。滋味豊かなスープを飲むと身体がスムーズに動くようで、なんだか香港人に一歩近づいた気がしました。 |
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今回の料理は色々な想い出が詰まった「芫爆羊排」です。「芫爆」は「塩爆」ともいい、たっぷりの香菜を加え、塩味で、高温でサッと炒めるシンプルだけどとても難しい調理法です。
羊肉といえば、香港で冬によく食べられる羊肉の土鍋煮込みが忘れられません。枝竹(樋ユバ)、サトウキビ、タケノコ、シイタケを加えて味噌味で煮込み、卓上でグリーンレタスを入れて完成です。食べる時に腐乳(発酵豆腐)を薬味がわりに使います。羊の独特の臭いが苦手だったのですが、この鍋物が美味しくて、羊のシャブシャブ、焼き肉の北京料理を身近に感じ、羊料理に取り組む足がかりとなりました。
昔、助手をしていた頃にY先生の作られた「クラゲとササミの芫爆」がとてつもなく美味しかった。孫成順氏に羊はどうしたら美味しく作れるかを手取り足取りして教えていただいたなぁ・・・・・・などと思い出しながら作ってみました。 |
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