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北京料理、上海料理、四川料理、広東料理、点心と5つのジャンルを、それぞれ担当の厨師(料理人)、点心師(点心専門家)が、中国での体験を交えながら料理の作り方とそれにまつわる話を紹介します。まずは、基本的な料理から始めましょう。
芙蓉鶏片
宇宙から唯一見える人工建造物が万里の長城だそうで、「不到長城非好漢(長城に至らないと好漢にあらず)」と言われ、そのあとに続くのが「不吃鴨不算来到中国(北京ダックを食べないと中国に来たことにはならない)」である。残念ながら、長城は宇宙から見えないことを中国初の宇宙飛行士楊利偉氏が証言したそうだが、万里の長城はやはり雄大ですばらしく、北京ダックも歴史の育んだ旨さを感じる。
4年前に北京の「香満楼」を訪れ、北京ダックを味わった。「香満楼」では一日平均100羽前後の
(北京ダック)が食され、一羽66元(日本円で約990円)であった。
捌いたペキンダック
ちなみに全聚徳は90元(約1350円)である。この価格で北京に来たと認めてもらえるのなら安いじゃないですか。 「香満楼」は北京ダック専門店ではなく、山東、四川、江南、広東料理も提供し、この店で働く厨師は16人で、料理を作る厨師が8人、北京ダックを焼く厨師が3人、北京ダックを捌く専門の厨師が5 人で構成されている。最近は調理師学校卒を採用して自店で育てているとのことであった。中国でも「学徒」と呼ばれる見習いが減ってきて、徐々に専門の学校で基礎を勉強する人が増えてきているのだ。250席もあるこの大きなレストランは16人の厨師ではかなり忙しいように思えた。そして、その晩も満席であった。また、北京ダックは以前脂肪の多いのが好まれたが、10年程前から脂肪の少ないアヒルに改良され、昔よりはあっさりした味になってきているとの説明があった。言われるように、パリッと焼けた皮の美味しさもさることながら、アヒルの肉は臭みもなく、とても美味しく感じた。
前菜各種
北京ダックは
(あぶり焼く方法)と
(蒸し焼く方法)の2種類の焼き方があり、香満楼はあぶり焼く方法を採用しているとのことだった。
その晩は
(北京ダック)以外に、
(アヒルの白肝の白滷水煮)、香椿豆腐(チャンチンの新芽の塩漬けと豆腐の和え物)、
(三種野菜とゴマの和え物)、鎮江肴肉(塩漬け豚肉の寄せ物)、
(ハスのモチ米詰めシロップ煮)の5種類の冷たい前菜と、
ケツギョの姿蒸し
米蒸肉(豚バラ肉のモチ米詰め蒸しオイスターソースかけ)、他に紅焼甲魚(スッポンの醤油煮込み)、 糟溜魚片(草魚の酒カス風味煮込み)、
(ジャガイモのデンプンで作った葛きりと豚肉の細切り炒め)、
(活けケツギョの姿蒸し)、 鴨湯(北京ダックの骨から出しを取ったスープ)、デザートは
(リンゴの飴煮)、
(ミルク揚げの砂糖がけ)であった。この中で、淡水魚の王様、ケツギョの姿蒸しが216元(約3240円)と一番高かったのには驚いた。
皿につかない、レンゲにつかない、歯につかないから「三不粘」という山東料理のデザートをご存知ですか。北京にある山東料理店、同和居のスペシャリティでもある。小澤征爾氏や有吉佐和子氏が舌鼓をうったなどと書かれているものを目にし、
三不粘
実際に食べてみた感動を忘れることができず、15年ぶりに訪れたのだった。三不粘は昔も今も作り方は全く変わっていなかった。変わったことといえば同和居が今の住所に移転して店が大変きれいになったのと、三不粘を作る鍋がかなり薄くなったと思ったことである(昔の鍋は厚みが4〜5mm位あったと記憶している)。 三不粘は卵黄にたっぷりの砂糖、緑豆デンプン、お湯を加えて中華鍋に入れ、油を加えながら、とにかくお玉で混ぜること混ぜること。
三不粘作りに奮戦中
そうして約10分も火にかけて混ぜていると、とろりとした美味しい三不粘ができ上がる。その三不粘の思い出はさらに遡り、1983年に辻調に同和居の厨師が来校し、実際に作られるのを見たのだが、その時の厨師が、なんと今回手ほどきいただいた于暁波料理長の師匠だった。三不粘を是非作って見たいと思っていたので、料理長に無理をお願いして、白衣と帽子を借りて試みてみた。が、油の量と火の加減が難しく、またお玉で混ぜる回数が400回回すところ、200回しか回していないとのことで、分離気味に仕上がって三粘(笑)になってしまったのである。やはり見るとやるとでは大違いで、技術の奥深さを感じた次第。まだまだ修行がたりません。三不粘はもともと宮廷料理のデザートであったが、1940年頃から同和居で出すようになって、その美味しさが評判を呼び、今でも一日40〜50皿は出るらしい。たかが卵と砂糖とデンプンと水で作ったデザートと思うが、一皿66元とかなり高い。
そして、于暁波料理長はNHKが日中国交正常化30周年記念番組で放送した満漢全席で素晴らしい料理を作られた人でもある。伝統ある素晴らしい料理を受け継ぎ、次の世代にしっかり伝えていくのは現代に生きる私たち料理人の使命だと再確認したのだった。
さて、今回ご紹介する、ささ身と卵白の煮込みあんかけ(芙蓉鶏片)は、その名の通り、芙蓉(ハスのこと)の花のように美しく、味は淡白で、口に入れると溶けるようにやわらかい。その特徴は「吃鶏不見鶏(鶏肉を食べたが、鶏肉が見えない)」。つまり、鶏肉は見えないが、口に入れると鶏肉の味を感じる料理と言われている。 この料理はいろいろな場所で食した。北京しかり、台湾しかり、しかし、何といっても1983年に北京から来校された特級厨師が実演した料理が大変すばらしく、鮮明に記憶に残っている。
このコラムのレシピ
コラム担当
ささ身と卵白の煮込みあんかけ
辻調の異烹人
中村真
中文之星
福冨奈津子
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