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連載コラム 日本料理一年生
辻調の日本料理の先生たちにも、調理師一年生の時代がありました。どんなに教え上手の先生も、一年生の時には分からないことだらけで、失敗もたくさんしたのです。そんな時代を振り返り、「日本料理一年生」のみなさんに、できるだけ分かりやすく、本物の日本料理について解説してみようと思い立ちました。「こんなにおいしいものが自分で作れるのか!」という新しい発見と喜びがきっとあるはずです。
21時間目 黒豆をゆでる
21時間目 黒豆をゆでる
  年の瀬も押し迫ってきました。お正月も近いので、おせち料理に使える「黒豆蜜煮」を紹介しましょう。一般的には、非常にむつかしいイメージがあるようですが、時間がかかるだけで決してむつかしくはありません。
   まず、できるだけ大粒でつややかな黒豆を選びましょう。おせち料理の材料として重宝されるのが丹波産の黒豆です。関西の料理屋では「丹波黒」と呼ばれ、辻調グループ校でもこの黒豆を使っています。
黒豆の枝豆です。見かけは普通の枝豆と変わりません。

黒豆の枝豆です。
見かけは普通の枝豆と変わりません。

   我が家のドライブコースである丹波篠山では10月上旬、黒豆の枝豆が購入できます。この豆は、むっちりしていて旨味が多く、私の「ビールの肴ランキング」ベスト3に入っています。
   黒豆は大豆の仲間で「黒大豆」とも呼ばれる品種ですから、未熟なものを枝豆として食べられます。地元の方の話では、丹波地方は粘土質の土壌と、昼夜の温度の差が激しいことで、良質の黒豆が採れるそうです。「丹波黒」は毎年12月の中旬頃から出荷されるため、料理屋ではこの頃からおせち料理の仕込みが始まります。黒豆は乾燥品なので前年のものを使ってもよいのですが、やはり新物のほうがやわらかく戻り、風味もよいようです。
   今回の「黒豆蜜煮」は、ゆでるときに「還元鉄」という助材(じょざい=ゆでるときに加えるもののこと)を使います。「還元鉄」は鉄の酸化物の還元によって得られるごく微細な粉末状の金属鉄で、医療用には、補血強壮剤として貧血の人に投与されることがありますが、黒豆の黒い色をより鮮明に、つややかにする効果があります。家庭では、昔から黒豆をゆでるときには「錆びた釘」を入れていました。
黒豆の枝豆です。豆の色がなんとなく黒っぽいのが分かりますか?

黒豆の枝豆です。
豆の色がなんとなく
黒っぽいのが分かりますか?

この「錆びた釘」が「還元鉄」と同じ働きをしてくれます。というより、昔は「錆びた釘」を使っていたのを、今では「還元鉄」という便利なものを使っているということです。「錆びた釘」はあくまで錆びていないと力を発揮しません。もちろんそのまま使うのは不衛生で危険ですから、きれいに洗ってガーゼに包み、取り出しやすいように凧糸で結んで糸の端を鍋の柄にしばっておきます。でも、「還元鉄は絶対必要か」といえば、そうでもなく、漆黒の黒豆を望まなければ入れなくてもよいです。
   さて、黒豆はやわらかくなるまでゆでますが、目安は、親指と人差し指に豆を挟んで、軽くつまむとつぶれるくらいまでです。我々料理人は、調理場のタイル張りの壁に軽く投げつけてみて、ベチャッとつぶれて、張り付くくらいを目安にします。
   最後に、日本料理の砂糖蜜の基本的な作り方を説明しましょう。今回の「黒豆蜜煮」(若林先生のレシピ)を例にとると、まず鍋に水600mlを入れ、箸や竹串で水の高さを測ります。砂糖を150g加えると水位が上がります。上がった水位の分だけ煮詰めたのが1日目の蜜です。同様に、2日目も3日目も砂糖を加えて増えた水位だけを煮詰めると考えればよいでしょう。
   今年はぜひとも、ご家庭で「黒豆蜜煮」を作り、お節料理の一品に加えてはいかがでしょう。




このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ 黒豆蜜煮

タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
人物 小谷 良孝
  辻調の御言持(みことも)ち
人物 重松 麻希
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