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辻調の日本料理の先生たちにも、調理師一年生の時代がありました。どんなに教え上手の先生も、一年生の時には分からないことだらけで、失敗もたくさんしたのです。そんな時代を振り返り、「日本料理一年生」のみなさんに、できるだけ分かりやすく、本物の日本料理について解説してみようと思い立ちました。「こんなにおいしいものが自分で作れるのか!」という新しい発見と喜びがきっとあるはずです。
「練り物って一体なに?」と思われる人も多いでしょう。具体例をあげると
「胡麻豆腐」のようにでんぷんの粉を使って練り上げたもの
豆類、栗、芋などをゆでて砂糖などを加え、練り上げた「きんとん」
和菓子の「あん」
卵黄に調味料を加えて練り上げた詰め物などに使う「黄身ずし」
魚のすり身をすり鉢ですりつぶして作る椀物の「しんじょ」
おでんに入っている「つみれ」
「モリゾー」ではありません(ちょっと古かった)!葛が絡みついた道路標識です。
こういったものを料理人は「練り物」といっています。どれも、作る過程に「練る」という作業が入っています。
今回は、「胡麻豆腐」の原料になる「葛」について少しお話しましょう。葛は、マメ科の植物で、野山や川、高速道路の土手などに生えているつる性の植物です。時折、道路標識が葛のつると葉で覆われているのを見ることがあります。葛は秋の七草の一つです。野山に自生して30〜50年経ったものの根っこから、でんぷん質を抽出したのが葛粉です。ただ採取される葛粉は微量で、葛の根っこから、多くても1割程度しか採れないため「白い金」とも呼ばれています。また、葛の根は昔から風邪薬としても使われています。「葛根湯(かっこんとう)」って風邪薬、聞いたことありますよね。
アメリカで日本料理をしている人が「日本から葛粉を仕入れるのは大変だから……」と葛の苗を持ち込んで植えたという話を聞いたことがあります。ところが、さきほどの道路標識の写真からも分かるように、葛は繁殖力が強いので、2〜3年で辺りは葛だらけになり「まるで植物のブラックバスだ。」と栽培をあきらめたとか。
奈良県吉野町の国栖という場所です。
写真を撮りにドライブに行きました。
葛粉は、奈良県の吉野地方で産する吉野葛と呼ばれるものが有名です。日本料理で「吉野煮」、「吉野酢」というように吉野と名がつけば葛粉を使っている料理のことです。
「葛」という言葉の語源を調べると、奈良県吉野郡吉野町国栖(くず)という地名が出てきます。小学館の『国語大辞典(新装版)』CD-ROM版で「国栖」を引くと、最初に出てくるのが「上代、日本各地に散在し、短身長肢で原始的生活様式によって朝廷から異種族と目された土着の先住民。」という意味です。
こんな道路標識もありました。
吉野本葛及び製菓・食品材料の製造販売をされている「井上天極堂」の方にお話を伺ったところ「国栖の人達がつる草の根からでんぷんを採り、里に出て売っていたので、いつしかこのでんぷんを『くず粉』と呼ぶようになり、そのつる草を『くず』と呼ぶようになったといわれています。この『くず』に『葛』の字があてられたと考えられています。また、他に奈良県御所市戸毛は『葛村』と呼ばれており、現在でも駅名や学校名には『葛』の名前が見られ、この『葛村』ではかって葛粉が生産されていたと考えられます。今でも葛粉の製造を行う会社があります。」とおっしゃっていました。
葛粉に、胡麻のペーストと水を加え、火にかけて練り上げ、粘りやコシを出したものが「胡麻豆腐」です。葛粉と水を火にかけて練り上げた中に、枝豆をゆでて裏漉したものを加えると「枝豆豆腐」ができ、えんどう豆を加えると「うすい豆腐」といわれます。他に、くるみ、うに、アボカドなどでも応用できます。
このコラムのレシピ
コラム担当
ごま豆腐
タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
小谷 良孝
辻調の御言持(みことも)ち
重松 麻希
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