3時間目は野菜の切り方を勉強しました。今回は魚のおろし方です。前回は「切る」ことがおいしさにつながると言いましたが、プロの間でも「切る」ことを第一に考えています。日本料理の割烹店や料亭の仕事は、昔から「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」といわれ、「割」すなわち包丁を使って切る「刺身」などの仕事が第一で、次に「烹」すなわち火を使って煮たり、焼いたりすることがこれに続くとされています。また、「椀刺(わんさし)」といって、「椀」すなわち「吸物」と「刺」すなわち「刺身」を食べれば、その店の料理人の腕前を確かめられるともいわれています。刺身で包丁の冴えを見極め、吸物で味付けを確認するというわけです。
さて、「刺身」とは、魚介類を生で食べる料理で、日本独特の代表的な調理法です。昔は魚介類を生で食べるものは「膾(なます)」といい、「刺身」は「造り身(つくりみ)」といって、調理技術上の一方法でしたが、醤油の発達に伴い、「造り身」が主になり「お刺身」を「お造り」と呼ぶようになったとされます。特に関西ではその呼び方が多く、とりわけ祝儀の場合は、身を刺すという言葉を忌み、「造り」の言葉が使われています。
ところで、関東の人は「お刺身」といえばどんな魚を連想しますか?また、関西の人はどうですか?おそらく、関東の人は「赤身」、特に「鮪(まぐろ)」を、関西の人は「白身」、特に「鯛(たい)」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。これは、関東の市場には、太平洋で捕れる鮪が多く集荷され、関西の市場には瀬戸内で捕れる鯛が多く集荷されるためだと考えられます。
最近では、スーパーなどにパック入りのお造りが売られていますが、ぜひとも、魚は1尾をそのまま買い、若林先生の指導をよく見て、自分で「三枚おろし」にチャレンジしてみて下さい。最初はボロボロになっても仕方ないかもしれませんね。今回は「鯛の三枚おろし」です。これは普通の三枚おろしとは違います。かわはぎ、きじはたなど、身の幅がやや広くて身がしっかりしており、骨のかたい白身魚に用いる方法です。
ときどき、「辻調の本を見て、写真の通りにしているのに、うまくおろせないんです。」という声を聞くことがあります。こういう場合、たいていの人が、いわゆる家庭用万能包丁を使っていらっしゃいます。この包丁は肉、魚、野菜どれを切るにもある程度対応できるのですが、魚をおろすのに特別都合のよい構造にはなっていません。では、魚をおろすのに一番都合のよい包丁は何か!もちろん、出刃包丁です。
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出刃包丁 |
洋包丁のほとんどが両刃で刃先に向かって両面から同じ度合いでなだらかに角度がついているのに対し、和の包丁は片刃で、「しのぎ」と呼ばれる部分から角度がついています。右の写真を見てください。刃の下の面はまっすぐですが、上側には角度がついている部分があります。この角の境の部分をしのぎといいます。しのぎから刃先までの角度があるから、和の出刃包丁は魚をおろすのに最適なのです。和出刃は、魚をおろすとき、刃をねかせたままでは、水平に切っているつもりでも、刃がだんだん上向きになり、骨に身を残しすぎてしまいます。このため、魚と並行ではなく少し立てて使います。こうして微妙に角度をつけて包丁を中骨に沿わせるのに、角度のある和出刃を使うと、とても楽におろせます。ぜひとも家庭にも、ステンレス製の小ぶりの和出刃で結構ですから、購入されることをおすすめします。
前回お話した野菜を切る場合、日本料理で使う包丁は「薄刃包丁」といいます。
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左:薄刃包丁 右:出刃包丁 |
左の写真を見てください。左側が薄刃包丁で右側が出刃包丁です。刃の厚みが違うのが分かりますね。用途に合わせて包丁の形や刃の厚みは違います。出刃包丁は刃に厚みがあることで、力が入りやすいのです。ちなみに、万能包丁は刃の厚みは薄刃包丁に近いです。
魚の処理は「習うより、慣れろ」という一言に尽きます。毎日魚をおろすことは家庭では難しいでしょうが、できるだけ魚をおろす機会を作ること、そしてその機会を増やしていけば、必ず上達するはずです。がんばりましょう!