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33 紀友則
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生まれた年も亡くなった年もはっきりしませんが、平安時代の歌人です。同時代の有名な歌人、紀貫之(きのつらゆき)とは、いとこの間柄。40歳すぎまで官位がなく、今まで紹介してきた歌人達と同様、出世話にはなかなか縁がありませんでした。 しかし、詠む歌は格調高く、素直な読みぶりで、現代の私達にもあまり無理なく理解できます。
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日の光が穏やかに降りそそぐ、かくものどかな春の日、桜よ、なぜおまえはそうまで落ち着きもなく散り急ぐのか。
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上の句の「穏やかな春の日の情景」と下の句の「涙が出てきそうなせつなさ」が絶妙なバランスで歌い上げられていると思いませんか? 『古今和歌集』にもとられているこの歌は、あまりにも有名。中学や高校の授業で、だれしも一度は耳にしたことのある和歌でしょう。
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しかし、この歌が作られた当時の評判は、あまりよくなかったといいます。藤原定家が『百人一首』に取り上げてくれたことで、多くの人々に知られ、評価が高まったようです。
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芸術作品って、その時代の趣味にあっているかどうかだけで価値を判断される時は評価されなくても、本物を見抜く力のある人が価値を見出してくれたならば、たちまち人々の心を捕らえて離さない魅力を発揮するものではないでしょうか。とか何とかいう、難しい話は横においておいて……。でも、今これを読んでくれているあなたの描いた絵、あなたの作った詩、あなたの歌う歌が、「本物」であったなら、時代を超えて生き残ることは間違いないでしょう。
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ところで、平安の昔から、日本人は桜の花が大好きでした。当時、「花」といえば「さくら」のことをいいました。もう少し時代をさかのぼると「花」といえば「うめ」をさした時期もあります。でも、この和歌が読まれた時代は間違いなく「花=さくら」です。桜の散り落ちるのを惜しむ、切実な思いがひしひしと伝わってくる歌ですね。 難しい技巧はほとんどないので、声に出して何度か読んでいれば、自然とその風景がよみがえってくるはずです。 さぁ、目を閉じて、声に出して読んでみてください。 いかがですか?
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