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連載コラム 百人一首と和菓子
「『古典』と『和菓子』だって?もう、いや!」と逃げ出さないでください。想像とおいしさとちょっぴり恋の世界を味わって頂きたいだけですから。百人一首の和歌を読んで私たちなりに解釈し、イメージを膨らませて作ったのがここにご紹介するお菓子です。和菓子の世界には、和歌や物語を元にして想像力を働かせ、作品に表現するという楽しさや遊びがあるのです。このページを通して、日本の良さを見直して頂けたらうれしく思います。
夏のお菓子わたの原
わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波 法性寺入道前関白太政大臣
わたの原
お菓子について
地球上の3/4を占める広大なる海。
時間・天候・季節によって、さまざまな表情をみせてくれる海。
今回は歌の中に出てくる「沖つ白波」をイメージして、広々とした大海原に、雲と見間違うばかりの白波が立っているところをお菓子として表現してみました。
  味甚羹は  白波
  吉野羹は  半透明を生かして海の深さ
  道明寺羹は プチプチとする食感で波しぶき
  銀箔は   白波に光り輝く銀波
それぞれ表現しています。
暑い夏に、冷やして食べるとおいしく味わうことができると思います。

豆辞典
76 法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじのにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)
 詠者名(えいじゃめい=歌を詠んだ人の名前)は、関白や太政大臣の地位まで登りつめ、晩年は法性寺の側に別邸を作って隠居し、出家した(仏の道に入ることを入道といいます。)という彼の人生をそのまま表しています。本名は藤原忠通(ただみち)といい、95番の歌の作者慈円(じえん)の父親です。生没年は1097〜1164年なので、平安末期を生きた人です。藤原氏で最も繁栄した北家の中でも、良房(よしふさ)の直系の流れを汲むので、政界のサラブレッドといえるでしょうが、政治の立場上、実の父親とうまく行かず、いわゆる骨肉の争いも経験しています。しかし、文学的才能に恵まれ、和歌だけでなく、漢詩文にも書道にも優れた才能を発揮しました。

 さて、歌の方ですが、
広い広い海(わたの原)に舟を浮かべて漕ぎ出し、遥かかなたを眺めやると、沖には雲と見間違えるばかりに白波が立っていることだよ。
と、あまり無理なく現代語訳できます。雲と見間違えるほどの白波ということは、水平線が見えるくらい広い海にいるのでしょうか。それとも、それほど大きな波がたっているのでしょうか。いずれにしても、自然の雄大さと人間の小ささを感じさせます。

 作者は温厚な人柄であったと伝えられていますが、それは、彼のように権力抗争や肉親との争いといった、絶え間のない複雑な人間関係の中で生きる人にとって、ある意味必要な条件なのかもしれません。この歌について、スケールの大きなゆったりとした歌という以外に、取り立てて何もないと批評する人もありますが、日々時間に追い立てられ、ストレスを多くため込んでしまう現代の私たちに、「ゆとり」の必要さを教えてくれている歌だともとれるのではないでしょうか。



このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ わたの原

いつも陽気な和菓子職人
人物 今成 宏
辻調の御言持(みことも)ち
人物 重松 麻希
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