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連載コラム 独逸見聞録
これから度々話の舞台となるのはオッフェンブルク(Offenburg)。ドイツの西南部のバーデン・ヴュルテンベルク州でも西の端、ライン河とシュヴァルツヴァルト(黒い森)の中間に位置する街です。この街に在住している辻調グループ校の卒業生(そして元職員)が、独断と偏見(?)を時に交えながら、食文化を中心とした情報をお届けします。
続・ビールの種類  〜ビール(其の参)〜

   「アルコール飲料」は、日本ではアルコール度数1%以上と決められているが、ドイツでの基準値は0,5%である。今回は、アルコールフライビーァ(アルコール度数0,5%以下)から、シュタルクビーァ(7%以上)まで、下面発酵を中心としたビールを数種類と、ビーァミッシュゲトレンク(ビールミックス飲料)について紹介する。


★ビールの種類(Sorten : ゾルテン)

◆エクスポート(Export)

分布・地域: 色々な地域で生産されているが、北西部の工業都市ドルトムントで発展した淡色ビールが有名。バイエルンのエクスポートは、色が濃くて麦芽の風味が優勢である。
等 級: フォルビーァ
麦汁濃度: 12〜14%
アルコール度: 5,0〜5,5%
発酵による分類: 下面発酵
特 徴: ドルトムンダー(Dortmunder):濃い黄金色で、モルトの風味が強く、軽い甘みがある。ホップの苦味を明確に感じる。

ミュンヒナー(Münchner):濃色のミュンヒェナーマルツ、少量のホップを使用するのが典型的なミュンヒェナー・エクスポート。ホップの苦味の効いたドルトムンダーやヴィーナーと違って、麦芽の風味が優勢である。濃色ものと比べると、ホップの苦味と香りが効いている淡色のエクスポートも醸造されている。

ヴィーナー(Wiener):ヴィーナーマルツ(今日ではあまり知名度が高くない)を使用。ドルトムンダーや淡色のミュンヒェナーと比べると濃い目の赤銅色で、比較的ホップが強い。
理想的な温度: 8℃
その他: 日持ちが良いため、輸出ビールの先駆を成してきた。

◆メルツェン(Märzen)

分布・地域: ドイツ南部。バイエルンとバーデン=ヴュルテンベルク
等 級: フォルビーァ
麦汁濃度: 13,0%以上
アルコール度: 5,0〜6,0%
発酵による分類: 下面発酵
特 徴: 黄金色から琥珀色まで。ホップの苦味は控えめで、麦芽の香りが強めである。軽く甘みのある口当たりの良いビール。
理想的な温度: 8〜9℃
その他: 冷蔵技術が発達していなかった頃、下面発酵ビールは晩秋から初春に掛けてしか、醸造することができなかった(9月29日の聖ミヒァエルの日から4月23日の聖ゲオルグの日まで)。 メルツェンビーァは、その名の示す通り、バイエルンでのビール醸造期限の終了直前の「3月(Merz:メルツ)」に醸造されたことに由来する。冷蔵条件に欠ける夏の間なるべく長期保存が可能なように、強めに造られ、岩盤の地下室で夏用に保存された。そして最後に残ったメルツェンが、夏の終わりの祭りや、秋の収穫祭に飲まれた。 世界的に有名なミュンヒェンの「オクトーバーフェスト」、それとほぼ同時期にシュトゥットガルトのカンシュタットで開かれる「フォルクスフェスト」で飲まるのは、このタイプのビールである。

◆ボックビーァ(Bockbier)

ボックビーァ(Bockbier)

分布・地域: ニーダーザクセン州のアインベックがこのビール発祥の地。 その後バイエルン地方で発展した。ドイツ南部では濃色、北部では淡色のボックビーァが代表的である。
等 級: シュタルクビーァ
麦汁濃度: 16%以上
アルコール度: 6%以上
発酵による分類: 大半が下面発酵、
ヴァイツェンボックビーァ(Weizenbockbier)は上面発酵
特 徴: 金黄色から褐色まで。麦汁エキス濃度が高いので、ミネラルやビタミンを多く含み、麦芽の風味が強い。アルコール含有量も高く、こくのあるビール。
理想的な温度: 9℃
その他:
右:ボックビーァ、左:マイボック

右:ボックビーァ、
左:マイボック

このビールの発祥の地であるアインベック(Einbeck)は、ニーダーザクセン州にあるハンザ都市。その後この製法がバイエルンに広まるが、その際にミュンヒェン訛りによってボック(Bock)に変化したといわれている。ボックは牡山羊という意味もあるので、ラベルに印刷されることが多いが、実は中身とは無関係である。 謝肉祭後から復活祭前の聖金曜日までの40日間の断食期間である「四旬節」に、アルコール度とカロリーが高く、ミネラルやビタミンを豊富に含む「飲むパン」として修道院で造られていた。 クリスマス時期にはヴァイナハツボック(Weihnachtsbock)、四旬節にはファステンボック(Fastenbock)、4月から6月に掛けては、比較的色が薄めでホップの効いたマイボック(Maibock)など、決まった季節や催しのために製造される。

ドッペルボック(Doppelbock)

分布・地域: 特にバイエルンとその州都のミュンヒェン
等 級: シュタルクビーァ
麦汁濃度: 18%以上
アルコール度: 7%以上
発酵による分類: 大半が下面発酵、
ヴァイツェンドッペルボック(Weizendoppelbock)は上面発酵
特 徴: 赤味のある褐色。アルコール分も麦汁エキス濃度も高く、こくと甘さがある強くて濃いビール。
理想的な温度: 9℃
その他: ドッペルとはダブルという意味で、普通のボックビーァよりも更に強い。通常ドッペルボックは、復活祭前の断食期間に醸造販売される。最古のドッペルボックといわれる、ミュンヒェンのパウラーナー醸造所のザルヴァトーァ(Salvator)の様に、語尾がラテン語で人を表す「-ator」で終わるビール名は、シュタルクビーァを意味する。バイエルンでは毎年3月中旬に、ファステンシュタルクビーァ(Fastenstarkbier)が解禁される。

アイスボック(Eisbock)

分布・地域: バイエルン
等 級: シュタルクビーァ
麦汁濃度: 25%近く
アルコール度: 8〜9%/td>
発酵による分類: 下面発酵
特 徴: 麦芽の香りと甘みがある濃色ビール。重厚で密度の高い味。
理想的な温度: 9℃
その他: アイスボック(Eisbock)は、ドッペルボックを更に強くしたビール。 この製法は、オーバーフランケンのクルムバッハという街で偶然発見された。地下室に運び込まなければならなかったボックビールの樽を、ビール職人(話によっては見習い)が、中庭に置いたまま帰宅してしまった。その冬の夜には霜が降り、次の朝には樽はひび割れ、ビールの中の水分が凍っていた。ビールの損失に立腹した親方は、罰として氷の塊を叩き割り、この褐色の液体を飲み干すよう職人に命じた。氷の中のそれはアルコールと残りの成分が濃縮され、濃厚なアイスボックができあがっていたという。 現在も、基本的にはこれと同じ製法で造られている。ビールを凍らせて氷を取り除くことによって、「ビール純粋令」に反することなく、アルコール度数の高い濃縮されたビールが得られる。

◆ライヒトビーァ(Leichtier)

   低カロリーのビールで、様々な種類の「ライトビール」が製造されている。 フォルビーァ(Vollbier)と比べて、カロリーとアルコール分が30〜40%前後少ない。原材料は、普通のビールと同様に麦芽、ホップ、水、酵母のみである。発酵中にアルコールの発生を抑制するか、発酵後にアルコールの一部を取り除くか、このどちらかの方法が採用されている。

分布・地域: ドイツ全土
等 級: シャンクビーァが大半、部分的にフォルビーァ
麦汁濃度: 7,0〜12,0%
アルコール度: 2,0〜3,2%
発酵による分類: 上面および下面発酵
特 徴: 様々な種類のビールがあり、それぞれの特徴と類似。
理想的な温度: 7℃(良く冷やして飲む)

◆アルコールフライエス・ビーァ(Alkoholfreies Bier)

   「アルコールフリー」の名称が付いているからといって、「ノンアルコール(アルコール度数0%)」という訳ではない。この表示は、ドイツ食品法によってアルコール度数0,5%以下の場合のみに許可されている。これを超える場合には、そのアルコール分を明確に示す義務がある。因みに普通のビールのアルコール度数は3〜6%である。
   低温で時間を掛けて醸造してアルコールの発生を抑制し、0,5%を超える前に発酵を止める方法と、醸造後にアルコール分を取り除く方法の2種類に大別される。

分布・地域: ドイツ全土
等 級: シャンクビーァとフォルビーァ
麦汁濃度: 7,0〜12,0%
アルコール度: 0,5%以下
発酵による分類: 上面および下面発酵
特 徴: 様々な種類のビールがあり、それぞれの特徴と類似。
理想的な温度: 7℃(良く冷やして飲む)

様々な銘柄が揃っている   赤い帯の部分に「アルコールフライ(Alkoholfrei)」の文字

様々な銘柄が揃っている

 

赤い帯の部分に「アルコールフライ
(Alkoholfrei)」の文字


参照)ビールの等級分類表

  等 級 分 類 麦汁エキス濃度
Einfachbiere アインファッハビーァ 1,5 〜 6,9%
Schankbiere シャンクビーァ 7,0 〜 10,9%
Vollbiere フォルビーァ 11,0 〜 15,9%
Starkbiere シュタルクビーァ 16,0以上

◆ビーァミッシュゲトレンク(Biermischgetränk)

前回紹介した「ベルリーナー・ヴァイセ」にシロップを加えた物も、ビーァミッシュゲトレンクのひとつ。

前回紹介した「ベルリーナー・ヴァイセ」に
シロップを加えた物も、
ビーァミッシュゲトレンクのひとつ。

   ビールを炭酸水やレモネード、コーラ、ジュースなどで割ったり、シロップなど加えた飲み物の総称である。喉の渇きを潤す低アルコールの清涼飲料として、特に夏場に注文数が増える。
   以前は、飲食店やそれぞれの家庭で、混合するのが普通であったが、1993年にビール税法が改定されてからは、所謂「出来合い」の商品も販売されるようになった。
   麦芽、ホップ、水、酵母のみを使用するという「ビール純粋令」には当てはまらないので、ビールではなく、「ビーァミッシュゲトレンク(Biermischgetränk)」、または「ビーァポップス(Bierpops)」に分類される。

ラートラー(Radler)

   ビールをレモネード(Limonade:リモナーデ)で割ったラートラー(Radler)は、一番古いタイプの「ビーァミッシュゲトレンク」である。バイエルンで濃色のフォルビーァと澄んだレモネードを1:1で合わせた物をラートラーマース(Radlermaß)と名付けたのが始まりだが、今日ではピルスナーなどの淡色ビールを使った物が、大勢を占める。
    北部では同じ飲み物を、アルスターヴァッサー(Alsterwasser)と呼んでいる。因みにアルスターとは港町ハンブルクの湖の名前である。
   レモン風味の炭酸水の替わりに、ミネラルウォーター(Mineralwasser:ミネラルヴァッサー)で割ると、ラートラー・ザウアー(Radler sauer)。オレンジ風味の炭酸水で割った場合には、ポツダーマー(Potsdamer)またはヴルストヴァッサー(Wurstwasser)と呼ぶ。
飲食店で混合されるラートラー   ビン入りのラートラー

飲食店で混合される
ラートラー

 

ビン入りのラートラー


   小麦ビールをレモネードで割った場合には、ルッセ(Russe)やヴァイツェンラートラー(Weizenradler)などと呼ばれ、特に南部で供される。へーフェヴァイツェン(Hefeweizen)を使用した場合には、へーフェルース(Heferuß)と呼ぶ地域が多い。小麦ビールは0,5リットル入りの場合が多いので、そのミックス飲料は1リットル単位でサービスされる。

コーラビーァ(Colabier)

   コーラで割ったビールは、コーラビーァ(Colabier)、またその色からディーゼル(Diesel)とも呼ばれる。この他にも、地域によって様々な異名があるが、「負」のイメージを連想させる名前が何故か多い。
    ビールとコーラの割合は1:1が基本であるが、南部では多くの場合、コーラの割合が少なめである。ドイツ北部では、最初にコーラ、その後小麦ビールを注ぎ足す。南部ではその逆の手順を踏む。
   小麦ビールをコーラで割った場合、コーラヴァイツェン(Colaweizen)、またはコーラへーフェ(Colahefe)となる。

 

コラム担当

Kimiko Kochs
人物 キミコ・コッホス
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