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左からクロスグリのリキュール、 ニワトコの花のシロップ、オレンジジュースをゼクトに加えた食前酒 |
ゼクト(Sekt)などの発泡ワインは、特別な祝いの席だけでなく、レストランでの食事の際などにも飲まれている。その場合には、良く冷やしてそのまま、味、香り、色や立ち上る繊細な泡を楽しむことが多い。
オレンジジュースで割った「ゼクト・オランジェ(Sekt Orange)」の他、クロスグリのリキュール(Crème de Cassis:クレーム・ド・カシス)や、ニワトコの花のシロップ(Holunderblütensirup:ホルンダーブリューテンジルップ)を加えると、華やかな食前酒(アペリティーフ:Aperitif)が簡単に出来上がる。
今回はゼクトの瓶の特徴や、伝統的なものから簡略化されたものまでの様々な製法、特別に徴収されている税金について紹介する。
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★発泡ワインの製法(Schaumweinherstellung:シャウムヴァインヘァシュテルング)
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シャウムヴァイン(発泡ワイン)は、次の様な方法で製造される。
・一次発酵により、炭酸ガスを発生させる方法:
ブドウ液を発酵させて、シャウムヴァインにする。
・二次発酵により、炭酸ガスを発生させる方法:
ワインを発酵させて、シャウムヴァインにする。
・炭酸ガスを人工的に注入する方法:
「炭酸を添加したシャウムヴァイン」とラベルに表記しなければならない。尚、この炭酸ガス注入法は、等級の高いシャウムヴァインでは認められていない。
二次発酵によって炭酸ガスを発生させるには、大別すると3種類の製法がある。
◆伝統的な瓶内二次発酵(Klassische Flaschengärung)
二次発酵によって発生し、沈積した澱を取り除くために、「澱下げ台」という穴が沢山あいた棚板に、瓶口を下向きにして挿し込む。ほぼ水平な状態から始め、毎日角度を変えながら8分の1ずつ回転させて、徐々に瓶を下向きにしていく(動瓶)。最後に瓶が垂直になる頃には、澱は瓶口に全て集まっている。瓶の首を冷却して栓を抜き、凍った澱だけを抜き取る。
全ての発酵プロセスは瓶内で行われ、同じ瓶のまま販売される。
◆簡略化瓶内発酵(Flaschengärung im Transvasierverfahren)
瓶内で二次発酵を行った後、一度タンクに移す。フィルターを通して澱を濾過して、新たな瓶に詰め直す。
◆タンク内二次発酵(Großraumgärung)
密閉された大きなタンク内で二次発酵を行い、フィルターを通して澱を濾過した後、瓶に詰める。大量に等品質の発泡ワインを造ることが可能である。
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★添糖(Dosage:ドザージュ)
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ゼクトの製造過程において、「Dosage(ドザージュ)」という糖添加作業は2回行われる。最初は「Fülldosage(充填添糖)」で、ワインをブレンドする際に糖分と酵母を添加することによって、二次発酵を可能にする。二次発酵を終えた直後のゼクトは非常に辛口で、全く糖分が残っていないが、「Versanddosage(出荷前の添糖)」によって、相応しい味のイメージに順応させ、調和の取れた状態に最終調整される。これに使用されるのは、ワインにきっちりと計量された糖分を溶かした溶液である。 EU内では、1リットルにつき何グラムの糖分が入っているかという基準が設けられている。この表示は、ラベル上に記されていなければならない。
ゼクトは、以下の様な味の傾向に分類されている。
ゼクトの場合、ラベル上に示されている味の傾向の表示がワインとは異なる。
ワインでは「trocken:トロッケン」は辛口だが、ゼクトでは、1リットルにつき17〜35gもの糖分が残っていて、かなりマイルドである。辛口のゼクトを求める場合には、「brut:ブリュット」を選ぶと良い。
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◆瓶の大きさと内容量
(Flaschengröße und Inhalt:フラッシェングレーセ ウント インハルト)
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左から、内容量0,2リットル、 0,375リットル、0,75リットル のゼクトの瓶 |
ゼクトの内容量については、法律で厳格に定められている。
一般的なのは、0,75リットル容量の普通瓶である。市場に出回っている中で一番小さな瓶は0,2リットル、その次は0,375リットルである。普通の瓶の2倍に当たる1,5リットル瓶は「マグヌム(Magnum)」、4倍の3リットル瓶は、「ドッペルマグヌム(Doppel-Magnum)」と呼ばれる。これらは、度量衡検定の法律の下にある瓶サイズの規格である。
「特大サイズ」もあるが、展示・飾り用に使用されることが多い。
普通瓶6本分の「レホボアム(Rehoboam)」、8本分の「メトゥーサレム(Methusalem)」、12本分の「ザルマナザール(Salmanasar)」、16本分の「バルタザール(Balthasar)」、20本分の「ネブカドネザール(Nebukadnezar)」、24本分の「メルヒオーァ(Melchior)」などがある。この様な巨大な瓶の場合、爆発するのを避けるために、瓶内気圧を低目に設定してある。
0,2リットル容量のゼクトの俗称として使われることが多い(カフェやレストランなどの品書きにも多用されている)「ピッコロ(Pikkolo)」は、「ヘンケル&ゼーンライン(Henkell&Söhnlein)」という会社の登録商標である。
俗称といえば、少々軽薄でおどけた感じで使われることの多い「シャンプース(Schampus)」という呼び名は、発泡ワイン一般ではなく、本来はフランスのシャンパーニュ地方で、原産地呼称統制の規格に則って製造された発泡ワインの「シャンパーニャー(Champagner)」のみを示している。
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★ゼクトの瓶(Sektflasche:ゼクトフラッシェ) |
ドイツでは、専用のガラス製の瓶に詰められ、下記の方法で蓋をしたものだけが、販売や流通させることを認められている。
ゼクトの瓶は、瓶内の高い圧力(5気圧前後)に耐えるためにガラスの壁が分厚く、普通のワインの瓶と比較するとかなり重い。また瓶の底は内側に湾曲している。この瓶の上げ底は「Betrüger(ベトリューガー)」と呼ばれるが、ペテン師の意味もある。
コルク(Kork)栓はワイン用よりも大きく、密度が高いコルクに普通のコルク2枚が張り合わされて3層構造になっている。抜き取った後はキノコ型になっているが、元々は筒型をしている。更に、「Agraffe:アグラーフェ」または「Drahtbügel:ドラートビューゲル」と呼ばれる針金製の耐圧用枠でしっかりと固定されるが、その際に針金がコルクを傷付けるのを防ぐために「Kapsel:カプセル」という金属製の蓋が被せてある。瓶の首から肩にかけて覆うフォイルは、栓の固定や装飾としてだけではなく、澱抜き時の目減りによる不均衡を隠す目的を兼ねていたという。ラベル(Etikett:エティケット)を貼れば、ゼクトの製造工程は終了する。
天然のコルクではなく、食品との接触を許可されている金属や合成樹脂などが蓋として使われる場合もある。
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ゼクトの内容量が0,2リットルの 場合のみ「捩り栓」が認められている。 |
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弱発泡性の「ペーァルヴァイン (Perlwein)」であれば、栓の仕方に ついての規定はゼクト程厳しくない。 |
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「開封されたゼクトの瓶の口に、銀のスプーンを差し込んでおくと、炭酸が抜けるのを防ぐ」というのは、唯の「言い伝え」に過ぎないのだろうか?
実際に、銀製のスプーン(他の金属は酸化作用のため使用不可)を差し込んでおくと微弱ながら効果がある。突き出たスプーンの頭の部分が、放熱器の役割を果たし、取手の部分が熱を逃がす。瓶の中に残っている空気が冷えることによって、ゼクト中の炭酸が保たれる。
但し、「ゼクトフラッシェンフェァシュリーサー」と呼ばれる専用の栓で、しっかりと蓋をした方が、当然ながら効果が高い。瓶の半分以上ゼクトが残っている場合には、冷蔵庫に入れておけば、次の日まで良い状態での保存が可能である。但し、開封後は炭酸だけでなく香りも失われるので、できるだけ早く飲み切ることが望ましい。
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★発泡ワイン税(Schaumweinsteuer:シャウムヴァインシュトイァー)
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ゼクト税(Sektsteuer:ゼクトシュトイァー)とも呼ばれている。
この税金は1902年、皇帝ヴィルヘルム2世によって、戦艦の資金調達のために導入された。1933年に経済危機克服のための措置として、一時廃止されたが、1939年に戦争のための増税、特に潜水艦の開発のために再度導入されることになった。1949年にドイツ連邦共和国建国の際にも受け継がれ、それ以降廃止されることなく続いている。
現在は、750mlの瓶1本につき「1,02ユーロ」が徴収されていている。
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