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いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
今回はフランスのパリにおける"出会い"をお届けします。世界にも比類ない美しい街パリ。その中でももっとも美しい通りと自他ともに認められ、四季を通じて観光客が途絶えないシャンゼリゼ大通りとセーヌ川を結ぶジョルジュ・サンク通りを200メートルほど行くと、ホテル『ジョルジュ・サンク』があります。このホテルはパラス(Palace)と呼ばれるフランスで数軒しかないレベルに属しています。このホテルのメインダイニングが本年度のミシュラン3つ星の評価を受けた話題の『ル・サンク
(Le Cinq)』です。この豪華な舞台でのワインと料理の出会いは一体どのように展開するのでしょう。
主人公
アペリティフ:
シャンパーニュ、キュヴェ・ルイーズ・ロゼ1997, ポメリー
白ワイン:
パレット1997, シャトー・シモーヌ
赤ワイン:
コート・ロティ1998、(ジャン=ポール・エ・ジャン=リュック)ジャメ
デザートワイン:
ヴァン・ドゥ・パイユ、コート・デュ・ジュラ1997, ミシェル・ピシェ
出会いを演出する人
フィリップ・ルジャンドゥル(Philippe Legendre):
シェフ。もと『タイユヴァン』のシェフで1999年より『ル・サンクLe Cinq』のシェフとなり、2004年に3つ星評価を獲得。MOF(最優秀料理人賞)所持者。
エリック・ボマール(Eric Beaumard):
シェフ・ソムリエ。フランス中央部の小さな村モンロン・ル・バンにある『オステルリー・ラ・プラルドHostellerie La Poularde』のシェフ・ソムリエを経て、1998年に世界最高ソムリエ大会の銀賞に輝き、『ル・サンク』のシェフ・ソムリエとなる。
<演出補佐>セドリック・ビリアン(
):
ソムリエ
出会った料理
アミューズ・ブーシュ
:コンテ・チーズのフィユテ
オマール海老のブーダン仕立て
アントレ
:アーティチョークとペリゴール産黒トリュフのタルト
肉料理
:ラカン産鳩のロティ、羊歯蒸し
チーズ
:チーズ各種(とりわけロックフォール・チーズ)
アヴァン・デセール
:イチジク入りクレーム・ブリュレ
デセール
:エキゾチック・フルーツのショーフロワ、
10種の風味のソルベ添え
「今日は何飲む?」野次馬隊(特別編成)
M:
ジャン=フランソワ・メスプレード(
)。現在、業界紙「オテルリー」を始め、各新聞雑誌に食の記事を書き、著作も多数あるジャーナリスト。
B:
ピエール・ベアル(
)。辻調グループ・フランス校ディレクター。
C:
ヤン・キュドネック(Yann Cudennec)。辻調グループ・フランス校サブディレクター。
N:
中野広幸。辻調グループ・フランス校主任教授。
●アミューズ・ブーシュ2種
コンテ・チーズのフィユテ&オマール海老のブーダン仕立て
(アペリティフがサービスされる)
B:
アペリティフは
シャンパーニュ。ポメリー社のキュヴェ・ルイーズ。
N:
色は薄いですが、ロゼですよね。
M:
1996年ものだよ。
B:
これは温かいパイ生地のアミューズにぴったりですね。シャンパーニュは
酸味がしっかりしていてフレッシュ感があり、エレガントで、勢いもある。
アミューズの
コンテ・チーズのフィユテ
は温かく、パリっとしていて…。
C:
中はしっとりとやわらかい。
B:
そう。それがこのシャンパーニュとよく合う。クラシックだけれど、このシンプルなパイがいいですね。ムルソーでも合うように思う。あるいは極端に酸味の強いワインもいいかも知れない。でも、あまり極端になるとこの柔らかなパイ生地には合わないかも知れない。
N:
でもこのシャンパーニュ、酸味が強すぎませんか。
M:
この酸味はそれほど邪魔にならないと思うよ。むしろ食欲を開いてくれるし、目も覚ましてくれる(笑)。夏にぴったりだね。
シャンパーニュのエレガントさがコンテ・チーズとよく合っている。ジュラ産のシャルドネの白ワインとも合うような気がします。
地域的にも同じだから面白いかもしれないね。
B:
でもやはりシャンパーニュのほうがいい。シャンパーニュはこういうシンプルなものによく合うでしょう。パイ生地とシャンパーニュというのはフランスでは伝統的な組み合わせですよ。トレトゥール(仕出屋さん)でも提供してきたものですからね。
M:
そうそう。
B:
それでは
白ワインのパレット
(Palette:南フランス、エクサン=プロヴァンスの近くのワイン。白、赤、ロゼを産する)で
オマール海老のブーダン仕立て
を食べましょうか。このシャトー・シモーヌはかなりよく知られているワインです。プロヴァンス産ですが、こってりしたところもありますね。
C:
アルコール度数は12.5度ですよ。(註:アルコール度数が高いと、ねっとりこってりした感覚が口の中に広がります)
B:
年代は少し古くて1997年ですけれど、とても軽い感じがします。ほんの少しだけ酸化が進んでいて、シャンピニヨンの香りがします。
C:
少し茶色がかってきていますね。
B:
このブーダンとの相性はどうかな?
ブーダンの中にアニスの香り
がするけど。
M:
フヌイユ(註:ウイキョウ)ですね。
N:
少し生クリームも入っています。
C:
このブーダン、少しパサついていないですか?
M:
風味的にちょっとワインのほうが勝っている。
B:
確かにワインのほうが勝っているかもしれない。ワインがかなりねっとりしているからですかね。
N:
ちょっと冷えすぎではないですか。
B:
ま、それは時間が経てば解消されますから。じゃあこの料理に合うのはどんなワインでしょう。
N:
このアニスの風味に合わせるのはかなり難しくないですか。
B:
そうかも知れない。
ソーヴィニヨンなんかどうでしょう。もしくはヴィオニエ。
M:
そうそう、私ならコンドリユーがいい。面白いじゃない。
B:
うん。
コンドリユーかプイイ=フュメ
。確かにワインの温度が冷たすぎるかもしれない。
C:
でも、だからこそ重い感じを受けないのでは?
M:
私は基本的に同じ地方のワインと食材の相性を信じているのです。
例えば
昔から相性が良いといわれているポイヤックのワインと羊
。しかし、このようにオマールと何のワインと言われると…。でもここにはフヌイユの香りがありますし、ソーヴィニヨンと合わせるのは少し行き過ぎかも知れないとも思えますね。
B:
私の場合、オマールとか帆立貝など
デリケートな素材には躊躇なくブルゴーニュを
合わせます。ブルゴーニュの白ならミスマッチはない。もしワイン名を言うならプイイ=フュイッセとかピュリニ=モンラッシェでしょうね。たとえばムルソーだと重すぎる(
)し、アーモンドの香りなどが強いので合わないと思いますね。中でもムルソー・グット・ドール(Meursault Goutte d'Or)などもとても重いワインなので、魚なら何でもというわけにはいかないでしょうね。具体的にはヒラメや脂ののった魚には合うだろうと思いますが、いわゆる岩魚(Poisson de roche)類には合わないでしょう。 この種の魚には勢いがあって、酸味が強い白ワインのほうがいいでしょう。例えばルージェなどにプロヴァンスの白とか。
M:
料理とワインの相性のことをテーマにしているけれど、私が思うにお客はレストランに料理を食べにやって来る。
あくまで主役は料理。
だから料理を邪魔するようなワインのチョイスをしてはいけないでしょう。風味の調和を崩してはいけない。亭主が何か話す、そして女房がそれに相槌を打つ、それから女房が自分の意見を言う。そんな感じじゃないかな(笑い)。何よりも料理という大事なメッセージが伝わらなくてはいけない。
ワインがスターになってはいけない。
聞いた話だけれどムートン=ロトシルドを飲んだ客がいて、そのとき何を食べたか覚えていないという。これじゃ本末転倒だよ。ワインだけを飲みたかったらワインバーだってある。
B:
そう、ワインは料理をつないでくれるものだと思う。例えばチーズ。チーズの風味は結構強いものです。ワインを飲むことでそれぞれの風味がつながっていく。料理の途中でトルー・ノルマン(Trou normand)と呼ばれるアルコール度の強い酒を飲むこともある。でもそれは風味がどうのこうのではない。ジャン=フランソワの言う通りです。ワインも料理と一緒に飲めるかもしれないが、あくまで付随物ですよね。
M:
素晴らしい最高のワインを注文することもできる。アラン・デュカスのメートル・ドテルが言っていたけど、ワインで料理をつぶしてはいけない。ムートンもしかり、イケムだってそう。デザートの時にイケムを注文した人がいたとしてもワインがどうのこうのではなく、デザートが大事だってことです。
B:
もちろん
記念碑的なワイン
だってあります。ただそのようなワインは料理とは別にそのものを味わうようなセッティングをしないとね。
N:
それは
ひとつの儀式
のようなものですよね。
B:
そうです。とても独特な雰囲気の中で、料理との相性など関係なく、ですよ。
M:
そのとおりだろうね。ロマネ=コンティなんて飲んだことないけど、飲む機会を得たら、そのワインのためにじっくり味わって飲むよ。要はレストランという環境の中では、内装やサービスやワインで料理が台無しにされたくないということなんだ。ソムリエという役目を軽視しているのではないのだけれど、うまく言えないが素晴らしいソリストが他の楽器の演奏をつぶしてしまうようなものかな。
N:
ということは最高級ワインに調和する料理はあまりないって言うことですか?
M:
もちろん、あるさ。
前編ではアミューズ・ブーシュまでがサービスされました。そして、さすがにワインという飲み物がしっかりと日常に入っているフランスならではの会話が展開されました。さて、後編は料理のメイン部分への突入です。ワインとは何か、そして、料理との相性とはどういうことなのかが饒舌に語られることでしょう。
出会いの舞台
レストラン「ル・サンク」
Restaurant『Le Cinq』
31,av. Georges X,75008 Paris, France
Tel.01.49.52.71.54 Fax 01.49.52.71.81
Mail
ar.lecinq@fourseasons.com
コラム担当
野次馬隊
須山 泰秀
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