「最高の食卓とは活発な会話が生まれる食卓」と言われるフランス。中でも料理とワインに関してはとりわけ会話が弾みます。一般のフランス人ですらそうですから、今回の「野次馬隊」たちともなれば誰かの意見に簡単に同意するなどありえないこと。ただ、彼らの会話から感じることができるのはワインや料理に対する「愛情」です。そして、ワインや料理がひとつの「文化」となるということがはっきりとわかります。実に素敵な会話です。しっかりと耳を傾けてください。 |
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●(前編から引き続き)パレット1997、シャトー・シモーヌ Palette 1997, Chteau Simone 料理:アーティチョークとペリゴール産黒トリュフのタルト |
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B:これは素晴らしく美味しい。本当によく考えられている一品ですね。
N:先日これを食べた時には、それほどきつくないヴァン・ジョーヌVin Jauneを合わせてくれたのですが、とてもよい相性でした。
B:この料理のトリュフの香りとコショウの香り、ヴァン・ジョーヌも似た香りですよね。そりゃよく合うでしょう。でも今日はシャトー・シモーヌ。これもいいですよ。少し酸化しているのでなおさら、キノコ類、コショウの香りがします。トリュフとアーティチョーク、秋の素材ですよね。このような秋素材の料理に合わせるには、少し古くて、やや酸化が進んだワインがいいですね。このシャトー・シモーヌは1997年ですから、ちょうどいいですね。
C:このワイン、口に含むとアプリコットの香りもする。
B:うん、少しね。
M:確かに面白いね、この料理。ほら、このクレソンも飾りじゃない。1〜2枚口に入れて楽しむと、これもまたワインの風味とよく調和するね。クレソンのほのかな酸味と苦味がまたいい。
ソムリエ:いかがですか。お気に召されましたか?
B:素晴らしい。
N:どうしてこのワインを選んだんですか?
ソムリエ:このワインは力があって、骨格もしっかりしていて、スパイスの香りもあります。それがトリュフの力強さや、クリームのような食感の料理、タマネギのコンポートのトロっとした感じやバルサミコ酢の酸味と相性がよいと思ったのです。
M:先ほどワインを選んでいる最中は'92年ものの話をしていましたが、どうして'97年ものになったのですか?
ソムリエ:'92年は少し重過ぎて、さわやかさが不足していると思います。この料理には、力もあり香りも強いマデイラ酒も合うと思いますよ。もしくはシチリア産のマルサラ酒でしょうか。
B:とにかく料理とワインの相性がよいとワインを知らない人でも楽しく食べられる。これが大事ですよね。
M:自分が惚れたワインなら何だってよいって時もあるよね。例えば私の場合、シャトー・ベシュヴェルChteau Beychevelleが好きなのだけれど、そのワインを注文した時には今のように料理とワインの調和なんて口に出せないと思う。とにかくこのワインはしっかりした風味だし、いい感じだよね。
B:シャトー=シャロンChteau-Chalonだったら、この料理にはもっとよかっただろうね。
M:それとも、シャルドネ種からつくるシャトー・レトワールChteau l'Etoile。
C:シャトー・レトワールはクルミの香りが強すぎるのでは?
B:ワインが強すぎて料理を邪魔しちゃいけないからね。
M:繰り返すけれど食事の際にワインはスターになれない。ラ・ランドンヌ La Landonneやラ・テュルクLa Turque(註:いずれもギガルGuigal社のコート・ロティの最良の畑のうちの二つ。ギガル社はコート・ロティの著名な生産者)は自宅でもレストランでも楽しむことはできる。でもオマール海老やトリュフをこのように料理することはできない。
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●コート・ロティ1998、ジャメCte Rtie 1998, Jamet 料理:ラカン産鳩のロティ、羊歯蒸し |
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ソムリエ:このコート・ロティは100%シラー種で、アグレッシヴではありませんが、豊かさが濃縮されています。ビロードのような口当たりでしょう?つまりタンニンがそれほど強くないということです。
C:とてもきれいな色合いです。
B:香りも完璧です。
C:温度もちょうどよい。
M:これは絶対にジビエと合う。このワインは料理が入ったときにこそ素晴らしい力を発揮する。
B:そう、これだけ飲むとほんの少しだけれど渋味が感じられる。ジャン=フランソワの言うとおり、料理と一緒に飲むと最高だろうね。でもわずかに風味的に料理のほうが勝っているかも知れない。
C:'98年という年のせいかな。
M:この鳩の火通しは抜群だね。肉だけ食べても、ワインが欲しくなる。
B:それにしても素晴らしい風味だ。この料理は美味しい。
C:やはり料理を食べた後このワインを口にすると、ちょうどいいバランスだ。
M:これってグリーンピースだよね。大変な仕込みをしている。
N:鳩のジュを煮詰めて少しフォン・ド・ヴォーが入っているかな。
B:羊歯の香りが、少し強すぎない?
M:う〜ん、このワイン、ちょっと納得がいかない面もある。ギガルGuigal社のラ・ムーリーヌLa Mouline、ラ・テュルクLa Turque(註:コート・ロティの最良の畑のうちの二つ)や、コート・ブリュンヌCte Brune、コート・ブロンドCte Blonde(註:いずれもコート・ロティの産地)のような強さもないしね。コルナスCornasだってもっと強い。
B:香りはとてもいい。
M:口の中での存在感はシャトー・シモーヌよりはある。
B:シャトー・シモーヌもしっかりしていた。このコート・ロティは確かに香りはよいけれど、少しネットリ感が足りないかもしれない。でも、とにかくこの鳩とはよく合っている。
ソムリエ:いかがですか?しっかり濃縮した感じではないでしょうか。
M:コート・ロティよりサン=ジョゼフSaint-Josephに近い感じかな。何か足りない感じがする。
ソムリエ:そうですか。
B:'98年はどんな年?
ソムリエ:とても柔軟な(souple)なワインができた年です。素晴らしい年だと思います。
B:'99年とか'97年のほうがよかったかもしれない。ワインだけを語るのではなく、料理との相性を考えれば悪くないけどね。
M:もちろん、とてもいいよ。
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●チーズ |
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B:チーズにはワインを変えてみましょう。チーズとデザートの両方に合わせるということでリキュール・ワインvin liquoreuxにしましょうか。
C:デザートは何ですか?
B:とにかく全員同じデザートにします。チーズも青カビの種類とかにすればよく合いそう。
ソムリエ:例えばデセール・エグゾチックなんか、香辛料も利いていていいんじゃないですか。パイナップルの入ったショーフロワ・エグゾチックなどいかがですか。パイナップルはローストしてキャラメリゼされています。
B:それにしましょう。ジャン=フランソワもそれでいいですね。するとワインは?
ソムリエ:ジュラのヴァン・ドゥ・パイユにしましょう。ドメーヌ・ピシェのものです。
B:ジャン=ルイ・シャーヴJean-Louis Chaveのヴァン・ドゥ・パイユも青カビのチーズと相性がよかった記憶があるので、それにしましょう。ハーフボトルで御願いします。
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●ヴァン・ドゥ・パイユ、コート・デュ・ジュラ1997、ミシェル・ピシェVin de Paille, Ctes du Jura 1997, Michel Pichet |
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N:このワイン、イチジクとアプリコットの香りがしますね。
B:ちょっと待って。さっきのシャトー・シモーヌが素晴らしい香りになってきた。スパイスの香りが強くなって。
M:ちょっとパイナップルのような、エキゾチックなフルーツの香りもしてきた。
B:松脂の香りもしている。コート・ロティの香りもいいね。今考えると、ブルゴーニュのコート・ドゥ・ニュイCte de Nuits地区産のシャンボル=ミュジニーChambolle-Musignyなんかの比較的若い年代のものがさっきの鳩に合ったように思える。
M:チーズと言えばいつだったかアラン・サンドランスの店(パリの三ツ星「リュキャ・キャルトンLucas Carton」)でカマンベールを食べたけど、あの時は今日のシャンパーニュのキュヴェ・ルイーズCuve Louiseだった。よく合ったよ。
B:私はロックフォールとフルム・ダンベールをもらうよ。
N:赤ワインに合うチーズにはどんなものがあるんですか。
B:カマンベールとか、ブリーとかでしょう。でも敢えてあまり合わせようとしないほうがいいかも知れない。合ったら最高だけれど、合わなくてもそれもよい経験。
N:このボーフォールは白とよく合う。ほとんどのチーズは白ワインに合うと最近よく言われていますけれど、そう思いますか。
M:そう思うよ。赤ワインはしばしば、チーズの風味を殺してしまうことがある。
B:ヴァン・ドゥ・パイユとロックフォールの相性はクラシックだけれど完璧だ。ロックフォールの強い風味をこのワインの風味がやわらげてくれている。
ソムリエ:ヴァン・ドゥ・パイユとどのチーズが合うと思われますか。
M:私はクーロミエを選んだからヴァン・ドゥ・パイユは飲んでいない。合わないと思うから。
B:やはりロックフォールでしょ。
ソムリエ:すると、ゴルゴンゾーラなんかもよろしいですね。
C:このボーフォールは素晴らしい。
N:フルム・ダンベールもよく合う。
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●デザート:エキゾチック・フルーツのショーフロワ、10種の風味のソルベ添え |
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M:やはり、パイナップルもよく合うね。特にこのキャラメル化したところがヴァン・ドゥ・パイユとよく合う。
B:今日は全体的に、料理が素晴らしく、どちらかというとワインがそれについてきたという感じですね。
N:今回はワインを先に決めて、それに合う料理をサービスしてもらうという、このコラムの趣旨から少し外れたかもしれませんが、フランス人専門家の方々にとっての料理とワインのマッチングに関する、基本的あるいは専門的な考え方を十分披露していただきました。日本の方々にもとても役立つお話だったと思います。どうもありがとうございました。
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出会いの舞台
レストラン「ル・サンク」 Restaurant『Le Cinq』
31,av. Georges X,75008 Paris, France
Tel.01.49.52.71.54 Fax 01.49.52.71.81
Mail ar.lecinq@fourseasons.com
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