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連載コラム 今日は何飲む?
いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
オルフェ(後編)
さて、『オルフェ』での後編です。前編ではアミューズとドイツワイン、仔羊のスペアリブと個性たっぷりの赤ワインとの出会いがありました。いずれも野次馬隊隊長をして「完璧」と言わしめた出会いでした。後編はメインディッシュと白ワイン。さらなる感動が待っているのでしょうか。


本日の白ワイン、トリンバック・ゲヴュルツトラミネールとの“出会い”

本日の白ワイン、トリンバック・ゲヴュルツトラミネールとの“出会い”三木:ゲヴュルツトラミネールはどちらかというと甘い香りがありますので、その辺のお味が皆様にいかほどお気に召すか、どうか…。

Y:でも、面白いと思いますよ。

三木:僕自身がアルザスとか、いわゆる少し涼しいところの白の辛口っていうのは、潜在能力がすごく高いように思えまして。特にアルザスのふつうのクラスの辛口のワインは、熟成するとすごくおいしいということが何度もあったんですよ。ヒューゲル(ユジェル)のユ79年のシルヴァネールとかね。そんなこともあって今日はトリンバックを選ばせていただいたんです。

Y:おいしい年のものですものね。

三木:へんに甘味が突出していないところでおいしいと感じていただけるのではと思いまして。

Y:シェフが何を作られるか次第でしょうね。でも、意外に合わせやすいかも知れないですね。

三木:へんに甘さとか、ゲヴュルツトラミネール独特の苦さとかフレーバーの強さとかがそんなには強調されていないと思うので…。

Y:18年たつと個性はずいぶん丸くなりますからね。

三木:ゲヴュルツトラミネールはそれぐらいの年数ではくずれないんですね。味の突出した部分、苦味とか酸味とかがきれいにつながっていくんですね。

Y:確かに。溶け合うんですね。ちょっと楽しみにして、来たんです。

三木:いや〜。緊張します。


白ワインがサーヴィスされる

トリンバック・ゲヴュルツトラミネール  1985S:うぁ〜、すごくいい香り。果実の香りが…。

Y:ライチの香りですね。

S:明確ですよね。

Y:これを目隠しで間違えたらもう…(笑)。

F:うまい! いや〜うまい。

M:おいしいですね〜。

三木:ある程度経済的に余裕のあるワイン愛好家の方は、方向性として赤で言えばカベルネ系、あとはピノ・ノワール、白ではほぼシャルドネっていうのが大体のところなんですね。

F:ゲヴュルツトラミネールなんか人気ないですよね。

Y:むずかしいからね。ワインそのものも、つくるのも。

三木:実際これだけの香りをもつゲヴュルツトラミネールがいつも手に入るわけではないですしね。ただ、シャルドネなんかをある程度ずっと飲み続けた人には良さがわかっていただけるのではないかな、とは思うんですけれどね。若いうちは確かに苦味などが突出することはあると思いますが、寝かせることによって本当に丸くなってくるんですよ。

Y:これはドイツでいったらシュペートレーゼ(ドイツワインの格付けのひとつ。遅摘みのぶどうでつくる)ですよね。実はね、ドイツでもシュペートレーゼのトロッケン(ドライ)っていうのは普通にあるんですよ。

三木:これもふつうのシュペートレーゼなんですか?

Y:これは決してハルプトロッケン(ハーフドライ)ではないですね。あの〜、完全なトロッケンというのはドイツでもそんなに昔からなかったんですけれど、ハルプトロッケンっていうのはけっこうあったはずなんです。最近、ハルプトロッケンも復活しているんで、このハルプトロッケンを長く寝かせると非常にいいですね。

三木:これはもともとは摘み取りも遅めに行って、醸造ではすべて発酵させてしまうので、残糖度としてはほとんどドライに近いんですけれど、ぶどう自体のポテンシャルは或る程度上のクラスのものになっているようですね。

Y:ドイツでもそうですけれど、ドライにするのだったらやはりシュペートレーゼまでにしないと酸が勝っちゃうんですよ。で、若いものなんかはお酢と間違えちゃったりしますからね。僕も「二杯酢に使えばいい」なんて書いて怒られたことがありますよ(笑)。

F:いやしかし、実においしいワインですよね。ヨーロッパのワインですよね。

Y:問題は抑制が効いているかどうかですね。あの、大声を張り上げることはできるけれど、それはポテンシャルとしてできるということであって、実際には張り上げないんだっていう。アメリカとかは10の力があったらすべて出しきっている感じじゃないですか。

S:よくわかりますね。ヨーロッパの感性って、すべてにおいてそんな感じがします。

Y:基本的にはそれが気品なんだと思いますけれどね。

S:バランス感覚に優れているような気がしますね。

F:それが歴史なんでしょうね。

料理登場:“鮑とあんず茸、肝のソース”

S:どうですか?相性は?

Y:よく合いますね。どんな料理が出てくるかと思っていたんですけれどね。よくあるじゃないですか、スパイス系でごまかそうっていうのが。特にゲヴュルツトラミネールと合わせようとしたらその手があるんですけれど、ちゃんとかわしてね。

三木:シェフには僕のこのワインに関しての意見を伝えただけなんです。

S:実に見事なコンビネーションですよね。

三木:そうなんでしょうか。僕はワインのイメージを伝えるだけで、シェフはそれに合わせて料理を考えるってことですからね。

S:シェフはそういった凄みを見せない人ですからね。
“鮑とあんず茸、肝のソース”三木:まったくないですね。

F:これ、月並みですけれどフォアグラのテリーヌに粗塩に粒コショウっていう…。

S:いや、それは合うでしょう。

F:ね。そうですよね。月並みですけれどね(笑)。

Y:いや、だからこそこのソースが肝のソースなんだと思う。

F:ああ、そうですね。

S:僕の料理もソースにフォアグラが入っていたから絶妙に合ったんですね。

Y:肝の脂がいいんですよ。だから先程の料理でもそうですけれど、きちっとクラシックなベースで合わせながら、変化球なんですよ。だから不安な部分というのがまったくなくて、確実に合いますよっていうところをベースにしつつそれに少し変化をもたせている。鮑の肝だけだと風味がきつすぎるんだけれど、身のあっさりしたところとか海の香りとかもね。ゲヴュルツトラミネールって土の香りがありますから、そういった自然の香りの部分でマッチする。

S:じゃあ、いい相性って感じですね。

Y:ええ、考え抜いている感じがしますね。

F:けっこう柔軟なワインだから、なんとなく柔らかなものが食べたくなりますよね。

M:私の料理は(自分で選んだ)ちょっと合わなかったんですけれど。

(一同大笑い)
“鮑とあんず茸、肝のソース”M:バルサミコ酢が、ちょっと。

Y:それは合わないよね。

M:なんかとても苦くなってしまいました。

Y:でしょうね。

S:それは酸がぶつかってしまうってことですか?

Y:そうです。

F:バルサミコ酢は難しいですよね。

M:やっぱりビールですかね。

Y:いや、意外とさっきの赤と合うかも知れない。

M:ええ、両方飲んでみましたけれど、赤のほうがまだ合う感じがしました。

Y:もともと酸がとても穏やかなワインですから、そんなにぶつかることなく。むしろこの酸の穏やかさをもっと消す感じで、その背後にあるやわらかさ等が出てくるかもしれませんね。

S:それにしても、このアルザスワインは美味しいワインでした。

料理長の中塚氏登場

中塚:いかがでした?心配で(笑)。

Y:よかったですよ。ドイツワインに合わせたアミューズで桃とキュウリを使われたのには感心しました。リースリングの桃の香りを最大限に引き出すことに成功していますよね。

中塚:いや〜そうおっしゃられると。もともと料理にフルーツを使うのが好きなんですよ。ただ風味としてそれだけでは少し弱いかなと思いまして、鯛の皮をあぶって加えたんですね。

Y:先程言いましたように、まずリースリングの持つ桃の香りが引き立って、そしてフレッシュなイメージがあぶられた鯛の皮でさらに引き立ちましたね。

中塚:正直言うとドイツワインとの相性をそこまでは計算していなかったんですよ。偶然のなせる技でしたね。仔羊のスペアリブはいかがでした?

Y:見事でした。あの赤ワインの特長ともいえる「田舎くささ」が消えて、洗練されたイメージになり、ワイン本来の伸びやかさと酸のバランスがきれいにとれて秀逸でした。羊の脂身、コショウ、それに添えられていてたフレッシュチーズのすべてがワインの風味を引き立てましたね。いや、感心しました。白ワインにはどうしてあの料理を考えついたのですか?

中塚:実はあの白は飲んでいないんですよ。ただ、三木に「どんなワイン?」って聞いてそこから料理をイメージしたんですけれど。酸味を入れるべきか、甘味を入れるべきかでは少し迷いました。それほどでも…というところでしたか?

Y:とんでもない。完璧でした。鮑の魚介の香りと肝のソースが、やはりこの白ワインの最高の状態を引き出してくれましたよ。

中塚:肝を使ったのは磯の香りを強めるためでした。

Y:基本的な相性をきっちりと守られて、そこにバリエーションをつけてらっしゃるので素晴らしかったです。

中塚:ありがとうごいます。

S:見事な「出会い」を演出されましたね。ところで『オルフェ』の料理コンセプトはどういったものなんでしょうか。

中塚:クラシックが基本ですね。そこにバリエーションを加えてオルフェ・スタイルをつくり出しているという感じです。最も重要視するのは素材ですね。で、その風味をいかにストレートに出すかを大切にしています。

S:ポトマックは今何店舗持っていらっしゃるのですか

中塚:11店舗ですね。

S:それらすべてが成功していますのですごいですね。久々にフランス料理の厨房で仕事をされているわけですけれど、どうですか?

中塚:楽しいですね。厨房にいると楽しいです。

S:好きなのですね、料理が。これからも美味しいフランス料理をつくってください。今日は本当にありがとうございました。

今回の出会いを振り返って

第2回目の“出会い”は実に完璧な相性で終了しました。アミューズからメインディッシュまで、ワインとの相性として正統派の路線をしっかりと押さえた上で、微妙なアレンジを加え、さらにワインの風味を引き出すような料理を提供してくれた中塚シェフに感服です。そして、ともすれば過小評価されがちな地方のワインにあえてスポットを当て、その魅力を存分に味わわせてくれたソムリエの三木氏も最高でした。何よりもこの二人の絶妙のコンビネーションに乾杯!そして、お客さんをリラックスさせるにこやかな表情でサーヴィスをしてくれたスタッフの皆さん、ありがとうございました。「後味」まで美味しい素晴らしい出会いでした。さあ、次回はどこへ?

レストラン『オルフェ』出会いの舞台

レストラン『オルフェ』

〒650-0036
神戸市中央区播磨町45番地The45th 10F
Tel:078-334-7622
Fax:078-334-7623
定休日:不定休
営業時間:11:30〜14:30 / 17:30〜22:00


コラム担当

野次馬隊
人物 須山 泰秀
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