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連載コラム 今日は何飲む?
いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
ラヴェニール・チャイナ 前編
『ラヴェニール・チャイナ』は中国料理店というより、チャイニーズ・レストランと呼ぶ方がよく似合う店です。店は関西でもフランス料理店、イタリア料理店、それに洒落た洋菓子店が集中する阪神間(神戸−大阪)、阪急神戸線夙川駅から歩いてすぐの処にあります。外観も中国料理店というよりは、フランス料理店のような感じ。料理も従来の「中国料理」のイメージを打ち破った新感覚のものです。新感覚中国料理と少しマニアックなワインも含めた今回の出会いの展開は・・・


主人公
ワインたち1. ロバート・ヴァイル・リースリングQbA2001(ラインガウ/ドイツ)
品種はリースリング。


2. ニコライホーフ・エリザベス95(ヴァッハウ/オーストリア)
品種はリースリング、グリューナー・フェルトリーナーなどの混醸。


3. ジャン・ボワイヨ ボーヌ・レ・ゼプノット96(ブルゴーニュ/フランス)
品種はピノ・ノワール。


出会いを演出する人
中国料理店『ラヴェニール・チャイナ』(兵庫・夙川)
オーナーシェフ 今村 浩之(調理28期生)


出会った料理
岩ガキのライチ酢風味
伊勢海老のホイル包み揚げ、葱としょうが風味のソース添え
鹿肉のソテー、山椒と唐辛子風味
季節野菜の炒め物、セロリ風味
活け鱧と季節野菜のミルフィーユ仕立て
鮑、フカヒレ、衣笠茸、揚げ豆腐のエビの卵の香り煮
発酵豆腐の冷麺


「今日は何飲む?」野次馬隊
Y:本業は某広告制作会社のクリエイティヴ・ディレクター。日本ペンクラブ協会会員。ワイン関係の著作も多く、クラッシック音楽への造詣も深い。著作に『今日からちょっとワイン通』『武満徹対談集』『現代ワインの挑戦者たち』がある。
MH:辻調グループ校中国料理主任教授。香港の食文化に詳しく、乾物屋と骨董屋に顔がきく。酒類にポリシーはないが、飲み屋にはタンカレー10(ジン)をキープしている。
M:才能豊かな女性。辻調グループ校のスタッフのひとり。いろいろな仕掛けを企む人。食べることと飲むこととヴィオラを演奏することをこよなく愛する。とりわけ飲むことは・・・
S:男性。どちらかというと晩熟型(悪く言えば進化が遅い)。趣味はアイロンがけと靴磨き。このコラムの担当者。大の猫好き。


●1本目のワイン:ロバート・ヴァイル・リースリングQbA2001

(ワインを賞味して)
Y:これ何年だっけ?2001年だよね。2001年は甘みをけっこう残していますけれど、なかなかいいですね。

ロバート・ヴァイル・リースリング S:今回はYさんにワインを選んでいただきましたけれど、このチョイスの理由は?

Y:まず、ひとつは、中国料理とドイツワインは合うというのは以前から思っていまして、ぜひ、この相性のよさを広めてみたいなと思ったということですね。ドイツワインというのは酸味と甘味のバランスが基本です。で、料理とワインを合わせるときは、似たもの同士合わせるか、それとも「補色」で相反するものをぶつけてみるかです。ところが相反するものをぶつける場合、ちょうど補色で服を着たときに、どうかすると悪趣味になることがあるように、「変なもの」が際立ったりします。 「変なもの」が際立ったときは、こちらでワインの風味と料理の風味との「共通項」を散らしてあげるといいこともあるわけです。たとえばトッピングでなんとかするとか、ですね。 で、ドイツワインの場合は料理のなかに甘酸っぱい風味、それと補色関係にあるしょっぱい風味とがあると意外に合います。中国料理にはそのような風味が大体あるのでその辺りを少し試してみたいな、と思ったということです。いかがですか?このワインは?
MH:個人的なことを言うと、僕はワインを料理に合わせようっていう飲みかたは全くわかっていません。なんていうか自分自身の飲み方のポリシーっていうか、例えば「甘いワインは飲まへんぞ」みたいな(笑)。
M:じゃあ、今まであまりこういう風には飲まなかったということですね。

MH:そうそう。ただ、一般論で中国料理には甘口のワインが合うという風には思っているところはありますね。

S:ふつう中国料理にはロゼ・ワインとか言いますよね。

Y:うん。実はロゼ・ワインっていうのは何にでも合うぞという考え方で、中国料理の場合はいろんなものが出てくるので、それぞれにワインを合わせていくのは大変だというのでロゼ・ワインってことになったのでしょうね。

S:もともと中国の人たちは食事中に酒類を飲まないのですか?

MH:酒類は飲むけれど食中酒としては、昔はともかくとして、今は圧倒的にビール。ビールの消費が圧倒的に多い。
Y:一時期、香港あたりでは食事中にブランデーを「生(き)」で飲んでいましたよね。

MH:はいはい、ブランデーは甘いからでしょうね。でも実はアルコール度の高い飲み物は食中には余り好まないんですよ。要するに酔っ払うのか、酔っ払わないのかがはっきりしているのです。

S:料理の風味をさらに際立たせるためにアルコール飲料を飲むということではないのでしょうね?

MH:そうじゃないね。結局、宴会の「華」みたいなもので、あちらの席では酒を飲んで盛り上がっているのに、こちらではそうでもないから飲もう、みたいな相乗効果的な飲み方ですよ。

M:以前、返還前の香港の『福臨門』に行ったときに別のテーブルに中国人の家族連れが来ていて、ワインをバンバン開けていましたね。いかにもお金持ちのような家族でしたけれど。
MH:ただね、香港と、中国本土、そして、台湾では全く違いますからね。
Y:なるほど。例えば紹興酒などをいろいろ料理に合わせてみるってこともしませんか?
MH:しませんね。だいたい香港あたりで紹興酒なんていうとみんな馬鹿にしますからね。
M:へ〜え!
Y:あっ、そうですか!
M:中国の田舎のお酒みたいに思われるのでしょうか?
MH:そう。「なんや、それ?」みたいな感じですよ。

料理1品目:"岩ガキのライチ酢風味"
Y:ライチそのままを刻んで入れていますね。
岩ガキのライチ酢風味MH:ワインに合わせようというシェフの意気込みですかね。発想はいいと思いますよ。ただワインに合わせようという意図が見え見え。(笑)

Y:なかなか難しいですね。挑戦的ではありますね。

S:それはカキの風味が、ですか?

Y:カキの風味そのものもそうですけれど・・・合わないわけではありませんが・・・実はリースリングに近い品種でライチの香りが際立っているゲヴュルツトラミネールというのがありますが、この品種は「生もの」とそれほどぶつからないですけれど、リースリングは「生もの」とぶつかることがあるんですよ。
MH:味がかぶさってきますよね。もとにあった風味にのっかってきますね。
S:ワインの風味は変わりましたか?
MH:そんなには変わらないけれど、少ししつこくなるかも知れない。
Y:ただ、これは好みですね。「海の香り」がパッと出ることは間違いないので。その香りが好きな人にはいいでしょうね。
S:やはり辛口の白のほうが合うのでしょうか?
Y:ま、無難には合いますね。特にこの季節の岩ガキは脂が多いですから。

S:もちろんこのカキは生ですよね。

MH:生で、さっと湯引きして、油をジャッとかけて葱を添えてある。それから胡椒を少しふってある。

Y:でも、非常に挑戦的にワインの風味に合わせようとした料理ですね。

MH:(笑)そうですね。ただ、どう言えばいいですかね・・・ワインに対しての自分の尺度が難しいですよね。想像の中でいえばこの料理は合うと思うでしょうね。特に魚介類、貝類なので合うだろうという想像はしますけれど、実は味がかぶさってきてしまう。

M:おいしい特徴が消えてしまったような感じがする。

Y:逆に何も手を加えないで岩ガキそのものだと、この組み合わせに関して好き嫌いがはっきり出ると思いますよ。要は「磯の香り」がバァーンって口の中に広がって、この香りが好きだという人と生臭いって感じる人とにくっきりと分かれる。

S:どのような料理なら合うでしょう?

MH:軽い揚げ物とかね。今の季節だったらなどを軽く揚げてから中華風のちょっと唐辛子をきかせたものを少しふったものなら合うでしょう。

Y:それはなんの問題もなく合うでしょう。

M:暑い夏の日差しの下で、このワインを飲みながらその鮎の揚げたものを食べたい(笑)。

Y:鮎の苦味もぴったりでしょう。でも、今はこの料理の話をしないといけないですね(笑)。

MH:中国料理に携わっている側からの意見としては、ワインを想定しないわけではないのですけれど、そこまで考えてメニューを設定することなどあり得ないですから。

Y:逆に中国料理の場合にはそこまで考えずに一度に数種類のワインを飲んで、「あっこれは面白い」なんてやるのがいいかも知れませんね。グラスも数個用意しておいて「この料理はこっちがいいかな」なんてちょっと気楽にやるのが楽しいかも知れません。あまり料理とワインって厳密にやらないほうがいいような気がします。厳密にやるとどうしても厳密に見てしまうでしょ。

S:中国の食文化に食中酒的なものはないのですか?

MH:基本的にはないね。

Y:食後に飲む?

MH:そうですね。基本的には酒類を飲んで酔うのか、そうでないのかという分かれ方をするでしょうね。日本の場合、居酒屋で食べながら飲んで、酔うってことでしょうけれど、中国の場合、食べるなら食べる、飲むなら飲むという感じでしょうね。

料理2品目:"伊勢海老のホイル包み揚げ、葱としょうが風味のソース添え"
伊勢海老のホイル包み揚げ、葱としょうが風味のソース添えMH:(包みを開けて)ああいい香り。うん、こういうのはいいね。香りがあって。

S:これはどのように料理してあるのでしょう?

MH:伊勢海老は最初油通しをするか下蒸しのどちらかでしょう。

S:このみじん切りの野菜は?

MH:ヤーツァイといって四川の漬物。「芽」の「菜」って書く。

Y:これはもう単純においしいですね。このワインともよく合います。

MH:さっきの香港のレストランでの話じゃないけれど中国でも北から南までワインに対する考えかたが異なりますね。香港あたりだとヨーロッパに近い、というかヨーロッパに負けないみたいな部分がある。今でこそ上海でいろんなものがあるけれど、それまで中国の人たちはそんなことも余裕がなくて。だからビールでも飲めたらいいかなという感じかな。ただ、酒に関して紹興酒が中国の絶対的なお酒ではないことだけは知っておいてもらいたいですね。

Y:なるほど。

S:日本人は大体そう思っていますからね。ところでお茶を飲みながら食べるということはあるのでしょう?
MH:もちろん。そのほうが多いかも知れない。飲茶に代表されるようにね。で、確かにこの料理はこのワインとぴったりでしたね。

S:そうですね。

MH:そうか!少し塩味で、塩気がある部分が合うのかな?

Y:そうですね。それは間違いないですね。少しの塩気、それとこの油、それにこの葱の「青さ」が合うのでしょう。

前編ではあまりに話題が多すぎて、料理の2品目まででした。後編は料理が5品、ワインが2種類登場します。なかなか面白い展開になりますのでお楽しみに。

ラヴェニール・チャイナ出会いの舞台

ラヴェニール・チャイナ

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