『ゼフィーロ』後編です。前編では変化球で、ストライク・ゾーンぎりぎりに投げ込んだシェフは、どんな球を投げるのでしょうか。ひょっとしてど真ん中の直球かも。その場合はまちがいなくホームランが飛び出すかも知れません。 |
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セコンド・ピアット“蝦夷鹿のロースト プラム風味の赤ワインソース” |
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Y:このドメーヌのコート・ロティを選ばれたのは?
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西部:『ゼフィーロ』はイタリア料理店ですし、やはりここでこれぞ最高のイタリアの赤というのをお出ししたかったのですが、少しひねりを加えてみたということでしょうか。で、あえてフランスワイン、中でも“変わりもの”をチョイスして、その上で料理を合わせてみれば、と考えたのが真相です。で、このドメーヌ・ガロンのコート・ロティは、全スタッフで試飲の際にコート・ロティに対するイメージが覆されたんです。そこで、ぜひこれをお勧めしようと。
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(ワインを飲んで)
Y:とても繊細でエレガントなコート・ロティですね。コート・ロティというのは普通は太陽で炙られたみたいに完熟した葡萄ならではの、もっとガシッと要素が詰まった感じの力強いワインですよね。ただし、10年ほどの熟成で、力強さをそのまま残しながらも、信じられないほど優しくて包容力のある上品なワインに変化してくれるんです。このワインはそういう標準からはずいぶん外れていますね。2000年でもうこんなにおいしく飲めちゃうっていうのはなんなんでしょうね?
西部:このワインは単にエレガントなだけじゃなくて十分な力も内に秘めていると思います。熟成力もあるんじゃないでしょうか。僕自身は最近こういった、エレガントで香り高いタイプのワインに好みが移っているんです。
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Y:うーん、熟成ばっかりは実際にさせてみないことには分からないけれど、でも、エレガントと言っても決して軽かったり、薄かったりするわけじゃなくて、やはり骨格はしっかりしているし、肉付きも、なんて言うんだろう。決して豊満ではないけれど将来どんな風に熟成していくんだろうと期待させるところはありますね。
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西部:ええ、本当にそう思いますね。
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(料理が供される)
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M:おししい。絶妙に合いますね。
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Y:うん、実においしい。これは一転して教科書的な合わせ方ですね。ローヌ地方のワインとジビエの組み合わせはまず外すことはないでしょう。
S:肉もおいしくなるし、ワインの香りも増します。ワインだけで飲んでいた時と全然違う。これ、きっとピジョンなんかでも合うでしょうね。
Ya:そりゃ、もう絶対でしょう。確かにこのワインはコート・ロティのステレオタイプではないですよね。赤いフルーツ系の香りがすごくあるんで、それがまたこのソースとよく合います。鹿肉とはね、定番ですよね。合わないわけがない。
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Y:エルミタージュの馬鹿みたいに力強くて若いワインとイノシシ肉に塩、コショウして、炭火でさっぱり炙っただけ、なんて組み合わせでもなぜかぴったりと合ってしまいますから、この組み合わせがうまくいかないわけがない。
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西部:このワインに合わせる料理はすぐに決まりました。鹿肉に少し甘酸っぱい香りのソースをとプラムを使いました。こだわりを言えば時期によってどこの産地の鹿を用いるかということも大切なんです。今の時期は外国産よりも国産のほうが味がのっているので蝦夷鹿を使用しました。
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Y:このプラムのソースですが、このワインの中にもプラムを思わせる練り上げたように魅力的な酸味が含まれていますし、それが鹿の野性的な香りとシラー種の動物っぽい香りの響き合いとも相まって、とてもいい相性になっていますね。
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Ya:これは定番(笑)。完璧です。
S:最近はジビエでもこんな風にフレッシュな状態で料理するんですね。
西部:そうですね。あまりフザンダージュ(肉を熟成させること)はしないですね。
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Ya:なんか腐る直前のようなジビエ肉は困りますよね。フランス人はそれがいいってことなんでしょうけれど(笑)。
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Y:ところでコート・ロティという土地は大きくコート・ブリュンヌとコート・ブロンド、つまり、栗色の丘と金色の丘に分けられています。一般的な傾向としてブリュンヌから産するほうが力強く、ブロンドからのものが繊細だとされていますけれど、このワインはブロンド産ということはありませんか?
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西部:いえ、それはないようです。小さなドメーヌなんですが、畑は両方にまたがっているんじゃないでしょうか。
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Y:だとするとやはり作り手のポリシーでこういう風に仕上げているんでしょうね。面白いな。
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M:もう堪能しました。すごいですね、ワインと料理の相乗関係って。
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(シェフの和田氏登場)
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一同:今日はご馳走様でした。
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和田:ありがとうございました。
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S:今日のワインに合わせる料理はシェフとして難しかったですか?
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和田:特に白ワインのほうが難しかったですね。コート・ロティはそのワインの香りに合わせるという基本ラインがあったので、あの料理にすぐに決まったのですが、白はそうはいかなかったです。で、考えて甲殻類かなって思って。
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Y:うん、それは本当にそうですね。
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和田:しかも甲殻類の皮を焦がした香ばしさとよく合うんじゃないかと思いました。ラディコンも一度抜栓してから変化するので、海老油を使ってさらに香ばしさを増してみたんです。
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Ya:あれはよかったですね。ワイン自体が難しいですよね。
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Y:あれだけとがっていると合わせるのはなかなか難しいですよ。ラヴィオリの料理とはお互いに引き立て合ったのがとてもよかったですね。ああいう風に個性が強いと似たもの同士で合わせようとしますよね。そうしないでぶつけたじゃないですか。そのぶつかり方がきれいに合ってて、お互いが引き立て合って料理とワインの両方がさらに美味しくなりました。あれは素晴らしい相性でしたね。
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S:やはりお客様に合わせたワインのチョイスをされるのですか?
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西部:そうですね。基本的にはこれは合うだろうというワインでいきますが、時として少し自分の好みのようなものを出したくなる時があって…
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Ya:その手の遊びみたいなものって、例えば長い間レストランをやっていたら、そういうことをどんどんやればいいんですよ。で、その中でお客様が喜んでくれる可能性は高いですよね。こういう組み合わせだったら絶対に合うなって感じで冒険がなくなった時には、居心地はいいんだろうけれど、感動のようなものは少し薄くなるかも知れないですね。
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Y:最初のフォワグラの料理に関しては一見「合うな」って思うじゃないですか。それで実際にやってみたら合わなくて、それでいっぱい試行錯誤したって感じがしました。だけど現実には最後までうまくいかなかったと思うんですよ。だから一見「合う」と思うものでやると意外に合わない場合が多い。
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和田:そうですね。
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Y:もう一歩飛んで、冒険していたらさらに面白くなったかも知れない。まさにラヴィオリはそれをやって成功した例です。
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S:フォワグラそのものはすごく美味しかったです。
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Y:ほんとに素晴らしかったです。火の通しは絶妙、ソースもワインとの相性を別にすればとても美味しかった。今日はこういったテーマで、飲み、食べているので、ワインの苦味が出てきたなんて言っているんですけれど、普通に食べていればもちろん何の問題もないです。
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Ya:安心できる組み合わせでやっていくということもあるけれど、それでは少し“枯れて”しまうような気がします。それよりもいつまでも“ミーハー”でいて欲しいっていうのかな、やはり冒険はあったほうがいいですよ。
Y:まったくその通りですね。
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最後にオーナーに聞いてみました |
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S:さきほども少しお聞きしましたけれど、お客様にワインを提供する際の基本的なスタンスってあるのですか?
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西部:これは店主として、またワインを愛するものとして一番腕の鳴るところです。でも、ワインに対してのお客様のスタンスはさまざまです。たとえば「ワインが好き」「西洋料理だからとりあえずワインでも」とかですね。加えて懐具合がからんできます。これらのことを踏まえてお客様の嗜好をできるだけ聞き出して、丁寧に説明をして、納得してワインを選んでいただくようにします。
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Ya:ワインを飲みなれていないお客様には?
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西部:渋味・酸味・甘味の好みとフルーティー感・スパイシー感などの好みだけを尋ねます。ワインを飲むのが全くはじめての方や、反対に評論家が顔負けするほどよくご存知の方もいらっしゃいます。すべてのお客様にとにかく納得して召し上がっていただき、イタリアにこだわらず、ワインという飲み物を飲む楽しみ方のひとつを知ってもらいたいと思っています。
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出会いの舞台
レストラン『ゼフィーロ』
〒106-0031 東京都港区西麻布2丁目25番32号 Tel:03-5464-5412 Fax:03-5464-5413 定休日:日曜日、祝日 営業時間:11:30〜14:00/ 18:00〜22:30 |
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