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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
知られざるアヴェロンの羊の魅力
 ある早春の日曜日の朝、勤務しているリヨン近郊の学校の裏山にいる羊を見に行くと、たくさんの子羊がいました。始めは遠くにいた羊たちは、しばらくすると近くに寄って来てくれ、思わず写真を撮りました。とても愛らしいのですが、この中から新しく到着したフランス校の学生の歓迎用に、1頭おいしくいただくことになると思い、少し複雑な心境になりました。

 フランスの羊と言えば、有名なノルマンディーのプレ・サレ、ポイヤックのアニョー・ド・レ(乳飲み子羊)、シストロンの子羊くらいしか知りません。他にはと尋ねるとアヴェロンAveyron県は羊を大変多く生産していると聞き、アヴェロンに羊を見に訪れることにしました。

 日曜日の朝10時、レンタカーに乗り、一路アヴェロン県の県庁所在地ロデーズに向かって出発。アヴェロン県はミディ=ピレネー地方の東北部、フランス全体の中南部に位置し、昆虫学者ジャン・アンリ・ファーブルの出身地であり、食いしん坊には世界三大青かびチーズのひとつロックフォール、ライオールのナイフ、3ッ星レストラン「ミッシェル・ブラス」があることで世界的に知られています。

 学校からロデーズまで約400km、次第に雪がたくさん残る山間を縫うように走り、クレルモンフェランの町を越え、しばらくすると海抜1000mの標識、赤土と白岩、背丈の低い木ばかりが続く山間の道を走り続け、セヴェラック・ル・シャトーで高速道路を降りて一般道路へ。途中のモンロジエで アニョー・フェルミエAgneau Fermier(農家で育てた子羊の意)の看板を発見。看板の農家へ車を向けました。

 訪れた農家では、乳用品種のラコーヌと肉用品種のルージュ・ド・ルエストとの掛け合わせと、おなじくラコーヌとシャロレの掛け合わせの2種を育てていました(写真下左)。どちらも国が認めたアニョー・デル・パイスagneau del Pais(del Paisはフランス語のde paysに当たるミディ・ピレネー地方語で、「地域の」の意)という名称のラベル・ルージュLabel Rouge(看板の右端のマーク)、つまり優れた生産物に認められる品質保証を受けており、品種、飼料、生育方法と期間、飼育状態など、規定に従って飼育しています。写真下右はラベル・ルージュとして証明されるための記録簿です。品質保証を受けるということはなかなか大変なようです。


 やはり食に携わるものとして食べてみないと肝心の味がわかりませんのでレストランへ。子羊胸腺肉のサラダと子羊の背ロース肉のローストを注文しました。胸腺肉はもちもちした食感で羊の臭みは全くなく、ローストは軽い塩味で、肉自体のしっかりした香りと味がわかり、色がきれいで柔らかく、本当においしくいただきました。

 アヴェロン県の主要な羊は先に登場したラコーヌ種で、乳用に75万頭、食肉用に40万頭飼育しているそうです。その他の品種を含めてフランス全土では乳用羊が665万頭いるそうです。下の図は羊の分布地図ですが、ご覧のようにラコーヌ種が断然多い。ラコーヌ種の特徴は頭部がやや凸状、耳が大きく横に広がり、白色短毛で覆われていますが、腹部に毛がありません(毛長は3〜5cm)。分布図よりも下にある写真(左)を見れば特徴がわかるでしょう。



 ここで羊と羊肉についてお話します。羊は偶蹄目反芻亜目牛科に属していて、いわば牛の仲間です。羊が家畜化されたのはおよそ1万1000年前、現在のイラク北部でのことといわれています。一口に羊といっても実にたくさんの品種があります。主に食肉用、乳用、羊毛用などの用途別に分類しますが、山岳地帯に強いもの、尾に脂肪を蓄える脂肪尾種などもおり、また、良質の羊毛と食肉用の価値をあわせもつ品種を作りだそうと国を越えた掛け合わせも進んでいます。

 イギリス王室料理やフランス料理界では牛肉よりも価値が高く、子羊肉は最高の食材とされています。また、栄養価が高く、牛乳並みの高タンパクを誇り、タンパク質を構成するすべての必須アミノ酸を、人間にとってほぼ理想的な比率で供給してくれるばかりか、人間の体内で吸収しやすい鉄分が豊富に含まれ、理想的な食材だそうです。大豆も重要なタンパク源ですが、羊肉に比べると比較になりません。

 次に、もう少し羊にふれようとロックフォールチーズの原料になるラコーヌ種の羊の搾乳を見ることにした。その農家は入り口に1万リットル入るタンクが置かれ、その奥の部屋にはセミオートの搾乳機が、ロックフォールのソシエテ社で見たビデオの光景そのままに置かれています。きくと、この搾乳機はソシエテ社が開発したもので、1時間に300頭の乳を搾ることが出来るようになったそうです。

 搾乳時間になると、羊が整列し、何とその数にびっくり1000頭の雌羊(写真下左)。そして目の前をダッシュで通過、搾乳機へ自分から首を通して農場の方にセットされるのを待っています(写真下右)。羊は12月頃に出産するため、搾乳の時期は12〜6月くらい、7月には妊娠期間に入ります。搾乳できるのは5〜6年、その後は食肉になるそうです。


 ふと子羊が全くいないので尋ねたところ、生まれたらすぐに雄は子羊肉として売ってしまい、雌は別の農家が育てるとのこと。なるほどこういうシステムだから雌羊は朝6時30分と夜6時の1日2回の搾乳に専念できるのでしょう。この農場には雄羊は9頭だけで、受精方法は雄羊から採取して人工的に受精させていました。

 帰途に着こうとするとお腹の虫がぐー。またレストランへ。今度はアヴェロン県北部で飼育が盛んなオーブラック牛の背ロース肉のステーキ、ロックフォールソース。同じアヴェロン県産の赤ワインといっしょに食べると何とも美味。タンニンが強く、それでいて後味はさらりとしていて相性のよいこと(すみません食いしん坊で)。
 いろいろな人に出逢い、教えてもらえ、大変面白い旅でした。まだ寒いこの時期は室内にいる羊しか見られなかったので、暖かくなって牧場で羊たちが草をはんでる姿を見に来たいと思います。


コラム担当

辻調グループ フランス校 調理部
人物 松村 容次
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